「ペンシルパズル」というゲームが流行って欲しい / ゲームの中でのパズルの立ち位置
わんど100の2つめの記事です。
前置き:名刺の肩書きについて
名刺の話はまた書きたいと思っているのですが、
肩書きに相当する箇所は
「〈広義のゲーム〉デザイナー」を意味して、
〈広義のゲーム〉の中に謎解きやパズルやボドゲ、デジタルゲームや体験型ゲームを含むといった形にしています。
謎作家、パズル作家という言い方が一般的で、「ゲームデザイナー」と呼称されるのをみたことはないですが、
自分としては、ゲームの1ジャンルとしてペンシルパズルをやっているという認識でいます。
今回は、ペンシルパズルがゲームの分類に対してどう位置づけられるのか、
なぜペンシルパズルが流行って欲しいと思うのかについて書いていきます。
メカニクスとは
今回「メカニクス」という言葉が多用されるので、言葉の意味について簡単に触れておくと、
「ゲームルール」が主にルールブックに書かれているものを示すのに対し、
「ゲームメカニクス」はあデジタルゲームの内部仕様や数値設計など、明文化されていないものに対しても用いることができる言葉、という違いがあります。
また、ゲームの要素同士の関連性に着目したい時の言葉としても用いられます。
二人零和有限確定完全情報ゲーム
ゲーム理論のゲームを分類する言葉として、
二人零和有限確定完全情報ゲームというものが有名です。
これは、
二人
参加人数が2人
零和
どちらかが勝つとどちらかが負ける、などスコアの和が一定
有限
ゲームが必ず有限の手番で終わる
確定
ランダム要素が存在しない
完全情報
秘匿情報の存在しない(相手の手札が見えないといった状況のない)
の5つの条件をすべて満たすゲームのことで、
将棋やオセロなどが該当します。
理論上ゲームの最後まで先読みが可能ということで、ゲーム理論の黎明期より研究されてきました。
今回はこちらの分類方法のうち、人数と有限性の観点から、
ゲームのパターンを考えていこうと思います。
ゲームの全体集合
2人ゲームや多人数ゲームは一般にゲームとして扱われるので、
この記事では主に0人ゲームと1人ゲームについて書いていきます。
有限か無限か
例えばオセロは石を合計60個置くまでに決着が着くので有限ゲームであることに異論はないですが、
実は駒を好きに動かせる将棋や石を取り除ける囲碁などは少し怪しさがあります。
無限となると途端に扱いづらくなってしまうので、
千日手があるので盤面の組み合わせを考えれば有限という「理論上は有限」
お互いが勝ちを目指して行動すれば、ほとんどのゲームは(千日手含み)収束に向かっていくだろうという「実用的には有限」
(コンピュータ将棋などで)手数が一定数を超えれば引き分けというルールにすれば良いという、「確実に有限にするためのルール調整」
辺りを持って有限ゲーム扱いしていますが、
分類上の、本質的なゲームの性質としては無限性を持つものと考えることもできるのではないでしょうか。
・手を進めると確実に収束に向かっていくものが有限ゲーム
・進めた手を戻せるものが無限ゲーム
多人数ゲームだと、
大富豪などは(ローカルルールによりますが)手札のカード枚数が広義単調減少するゲームなので、これらも有限に近い性質といって良さそうです。
0人ゲーム (シミュレーション)
0人ゲームは、人の手が加わらないゲームのことを指します。
コンウェイのライフゲームなどのシミュレーションゲームなどが該当します。
メカニクスの分類としては、
ほぼ一本道のRPGのレベルデザインやクッキークリッカー、ソーシャルゲームなどもこの分類に入れてもよさそうな気がしています。
新しい放置ゲーム(*1)など、戦略が増えてくると1人用のリソース管理ゲームっぽさもでてきますが。
2013年頃、クッキークリッカーが日本で流行ったとき、一週間ほどひたすら毎日クッキーを焼いていたことがありました。
自分がこういう数字が増えるのを楽しめるタイプなのはわかっていて
世間では一過性の流行かと思っていたのですが、
クッキークリッカーのメカニクスはその後のスマホの放置ゲームの主流の1つになり、
「これは自分だけが楽しめるものではなくて、みんなをハマらせるメカニク
スだったのだなあ」というのが当時の1つ発見でした。
1人ゲーム
パズルやソリティアなどが1人用ゲームに属します。
有限1人ゲーム
操作回数が有限になるゲーム。
マスに数字を書き込んでいき、ゲームがどんどん収束に向かっていくゲームということで、
多くのペンシルパズルがこのカテゴリに該当します。
ペンシルパズルを厳密に定義するのは謎解きと同じく難しい試みですが、
「書込によってゴールに向かう」
という性質はペンシルパズルを端的に表す特徴と言えそうです。
ペンシルパズル以外では、ペグを取り除くソリティアゲームである、
ペグ・ソリテールなどが該当します。
無限1人ゲーム
操作を戻すことができると、手数を無限大にできるので無限ゲームに該当する
というわけで
ルービックキューブ、知恵の輪などのメカニカルパズルや15パズル、倉庫番、詰将棋などを無限ゲームに分類することができます。
(ルールの上では手数制限などがあるかもしれませんが)
ペンシルパズルも、鉛筆だけでなく消しゴムを使い始めると無限ゲームに近くなります。
例えば、黒マスを置いたり消したりを繰り返して解く、ハニーアイランドというペンシルパズルが「パズルゲームっぽい」と言われるのは、
この「収束性」によるものということができます。
まとめ
ゲームの分類の2人有限/無限ゲームを1人,0人に置き換えて見た時に、既存のジャンルに当てはめることができる
ペンシルパズルとパズルゲームの一番の違いは「収束性」
また、今回触れませんでしたが、
不完全情報要素と多人数ゲームは近い性質を持ちます。
ゲームに置けるペンシルパズルの立ち位置
かつて
デジタルゲームの仕組みを知りたくてゲームを作ったり
ボードゲームのルールについて考えたり
放置ゲームの計算式について考えたり
に興味を持ったのと同様、ペンシルパズルのルールや問題を考えるというのも、
内部になんらかの数学的な構造を持っているという点で共通しています。
その中でもペンシルパズルは
有限∧1人、リソース管理などの経済システムも現れない
という、
もっともprimitive、単純な構造のゲームの類型なので、俯瞰的な研究にもってこいです。
ゲームを研究するならまずはペンシルパズルから、とはいえライフワークとしてはそれだけで手一杯的な
ペンシルパズル研究の発展
そんなペンシルパズル、将棋などのゲーム類や、古典数学パズルほどの歴史は持っていません。
数独が誕生したのは1980年頃、スリザーリンクや四角に切れなどが誕生したのは1989年と、30〜40年ほどしか歴史を持っておらず、
俯瞰的なパズル種の研究が進んでいないのはもちろん、
ぬりみさき(2018)やダブルチョコ(2018)、Aqre(2020)やチョコバナナ(2021)など、シンプルなルールかつ、興味深い挙動のルール種の発明、手筋研究なども新しいものが近年もどんどん生まれました。
ヤジリンのように流行ったのがきっかけに研究が進展したものもあれば、
天体ショーのように、主に1人でコツコツと研究が進むなど、
ツール、国内投稿サイト、国内競技サイトが揃った今、インターネットを使った市井での発展の土壌がどんどん整ってきています。
研究テーマが多かったり、現在盛り上がってきているのは良いのですが、
「パズルを知りたい」と思う立場からすると、
時々「数独の歴史が40年ではなく、400年あればなあ」と思わずにはいられません。
▲パズルが隆盛した世界の話
(*1) https://dem08656775.github.io/newincrementalgame/
出典
参考文献
ゲームとパズルの計算量
分類方法はこちらの書籍を参考にしています
エリック・ドメイン、ロバート・A. ハーン
後記
ほんとは1つめになる予定だった記事。
最終段落だけで何本も記事が書けそうだったけど、分類が種の記事なので削った。
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