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言語進化について

言語進化は結果的に「音韻の変化と音韻パターンの増加」によって観測できると考える。音韻パターンの増加は「意味の分節化・細分化」と連動して進行すると思われる。本記事中の「言語進化」とは「音韻パターンの増加」とほぼ同等である。

また、本記事はLangDicLab の言語関連のnote記事を俯瞰するような観点で記載する。個別詳細については他記事も参照いただきたい。

音韻変化を促す要因

音韻(発音)が変化する事象は、主として、
✔ 生活様式・文化様式の変化(= 人的要因・内的要因)
✔ 気象条件・災害などの影響(= 環境要因・外的要因)
によってもたらされると考えられる。

特に、上記の気象条件が言語に与える影響はこれまでほとんど研究されていないし、言及もされていないと思われる。

気象条件が言語に与える影響

気象条件が言語に与える最も大きな影響を端的に言えば、「寒い地域では口を大きくあけたり、口周辺の筋肉を頻繁に動かすことは避けられる」傾向である。

このことは、気候の温暖な地域では、口腔の前のほう(唇など)を使用する発音が多くなり、気候の寒冷な地域では口腔の奥のほう(舌の付け根のあたり)を使用する発音が多くなることを示している。

気温・湿度と音声伝達の関係

気温とともに湿度も影響していると思われる。近年の研究では、湿度が多い地域では、子音が回避される傾向にあることを示す研究も存在しているようである。

言語の発音は気象条件(主に気温・湿度)によって、より正確に伝わりやすい発音へ変化すると考えられ、発声の音波がどのように人の聴覚に知覚されるかということと大きく関わりがあると考えられる。

それは、母音と子音に関して以下のような原則を物語る。
✔ 寒い地域では子音の使用が発達する
✔ 暖かい地域では母音の使用が発達する

また、長い目で見ると同系統の言語内で以下のような音韻変化が起こりえるということを示唆する。
✔ 温暖化で母音の挿入が起こる
✔ 寒冷化で母音の脱落(= 子音の連続)が起こる

言語進化の段階

本章以降では、人類の生活様式の変化・社会活動の変化による音韻変化に関する内容である。本記事では、言語進化の段階として以下の step01 と step02 を想定する。

言語進化 step01
単音節語の生成 (主として約20万年前~約2万年前)
✔ 重ね型オノマトペ(ROF)からvariationが増える段階
✔ 世界共通かつ同時多発的に進行したと思われる
(※)step01 は 地域差がほとんどない過程

言語進化 step02
単音節の組み合わせ語の生成(約7万年前~現在)
✔ 約7万年前から始まっていたと想定するが、
    組み合わせ語が爆発的に増加したのは、最寒冷期が
    終わった後の約2万年前ごろから本格化と想定
✔ 所属するプレ文明圏によって地域差が次第に増大した
✔ この地域差が現代のいわゆる世界言語の系統になった
    (印欧祖語、オーストロネシア祖語、…)
✔ 異文化・異民族との接触によって新概念を
    取り込むケースが増えた(流行語語層)

言語学で扱う「言語」は上記 step02に相当する部分を細かく行う研究が多い。本記事では、情報的に不足していると思われる step01 に相当する部分に重点を置いて記述する。

前述の「気象条件が言語に与える影響」で述べたように、言語は自然環境や自然災害に影響を受けるため、地球規模の寒冷化・温暖化や大規模な火山噴火に影響を受けていると思われる。

ここに関連年表(火山噴火の年表)を以下に示す。
(※)初期表示では文字が小さくて見にくいと思われるので、下の画像をクリックして画像拡大してご覧ください。

fig01 関連年表(火山噴火の年表)

主に、色付き縦線(濃い青色)のヴュルム氷期の部分がstep01 の時期に相当し、それ以降はstep02 が本格化する時期に相当する。

step01

単音節語の例示

step01 は 主に単音節語生成のプロセスである。
単音節語とはどのようなものかと言うと、一般に、子音+母音+子音を1セットとみなす音声の塊である。

代表的な単音節を示す。
pas  (※)日本語の発音では 「パーシ」に近い
por  (※)日本語の発音では 「ポル」に近い
wak (※)日本語の発音では 「ワック」に近い 
nop(※)日本語の発音では 「ノップ」に近い 

単音節は現代において単独で具体的な意味を持つものは少ない。例えば、英語の接頭辞(prefix) として登場したり、日本語の動詞や形容詞の語幹として登場する部分に相当する。具体的な意味を持たないが、イメージを喚起する中核装置として機能している。

単音節語はどのようにできたか?

重ね型オノマトペ(ROF)の変化形(variant) として説明できる。(以降、単に ROF と表記する)(*1)

それは、*pas パーシ というひと塊の音節が存在し、何らかのイメージ・音象徴を持っている場合、その古い形式として必ず pas-pas-… (または spa-spa-…) というROF がその音節の背後にかつて存在したと想定することである。

単音節の生成は、あらゆる組み合わせ作業の前段階である最小単位を形成する過程と似ており、そう考えると理解しやすい。

一例として、建築資材を準備する過程に例えることができる。たとえばレンガや(整形後の)建築用木材を整形する工程である。

レンガも整形後木材もそのままの状態で自然に存在するものではなく、組み合わせ作業がしやすいように、
✔ 自然の状態から切り出して素材を収集し、
✔ 加工・整形して、ひとつの単位(パーツ)とする。

単音節とはこの単位(パーツ)に相当する。自然音に近い状態の連続音から切り出して様々なバリエーションを作り、単音節(語)が徐々に出来上がった。

ここから想定できるのは、言語は初期の段階では、元の音声から様々な音素の切り出し・消失・省略を行うことで音韻のパターンを増やしていったという過程がとても重要であったということである。

子供の言語活動に進化が現れる

胎児は母親のお腹の中で進化の過程を再現すると言われる。言語についてもこれと似たような現象があるのではないかと思われる。

それは、「0歳~8歳ぐらいまでの間に、ホモ・サピエンス20万年の言語の進化過程が凝縮されて表現されている」のではないか?ということである。

子供が最初に行う言語活動は真似(オウム返し)であり、次に行うのはオノマトペ的な発話である。親(= 大人)は、赤ちゃんに対して「いぬ(犬)」という単語を伝える前に、多くの場合、「ワンワン」というふうにROFとして教えていると思われる。

小さな子供に対してはROFのほうが真似しやすい(= 覚えやすい)と親が知っているということは、もともとすべての言葉はROFであった名残であるように思える。


なぜROFが重要なのか?

それは、発声した音声が擬音(語)であることを率直に、確実に伝達するためである。

たとえば、誰かが、一言、「パチ」と言った場合、ほとんどの人が何のことか不明であり、話者が意図的に単語を発声したのか、単に何らかの事情によって口から声が漏れ出ただけなのかよく分からない。この場合、意味が通じないので、意味が生成されないと言える。

しかし、誰かが、一言、「パチパチ」と言った場合、少なくとも、「パチ」を重ねて何かの音を表現しているように聴こえると思われる。(例えば、拍手の擬音、火が燃える擬音として)何らかのイメージや意図・意味が通じたとしたら、「パチパチ」という音声に対して、意味が生成・共有されたと言える。

上記のように考えると、単音節に意味が付与されるためには、ROFの流通を経由した後に音素の省略や脱落がなされるプロセスが重要であった。言い換えれば、前段階なく突然、単音節に意味が生じるケースは存在しえないと考える。


step02

step02 では、単語を構成する単位である「単音節」が切り出された状態からスタートする。step02 では 言語系統の分化(地域差の増大)が起きて、系統内部では主に以下の2点が起きたと考えられる。

✔ 格変化(case inflection)により単音節それ自体の
    バリエーションを増やした
✔ 単音節を組み合わせて単語を増やした

もともと言語とは具体的な品詞に分類できるようなものではなく、その音を聴いた人が何らかの共通イメージを想起させる(音節)であったと思われる。

特定のイメージと紐づく発音は、他言語系統との接触や言葉の経年変化により変遷している。そのようなイメージを喚起する音声を古い順に層(Layer)状に並べたものを語層として想定できる。

たとえば、日本語では、「やま」という発音を聴くと、「山」(mountain)のイメージを想起する。現在では、「やま」という発音は「山」という文字に紐づいていて、それは名詞という品詞に分類されている。

しかし、「山」の呼び方は大まかに以下のような変遷をしたと考えられる。(*2)
  ✔ 縄文時代 「ヌプ」 or 「ノプ」
  ✔ 弥生時代 「モリ」、「タケ」
  ✔ 古墳時代以降 「ヤマ」という呼び方が広まった(流行した)

上記のように step02 では、言語系統内部の経年変化と異文化・異民族との接触によって生じる変化の両方の変化を内包している。


言葉の考古学

本章では、言葉の古さや音節の関連性をどうやって確認するかについて記載する。

言葉の考古学は簡単に言うと「ある言葉の古さと他の言葉との関係を明らかにすること」と言える。

一般に、地名(特に、山の名前や川の名前)は古い音節を保持していると考えられる。よって、地名や地名から派生したと思われる名前(Family Nameなど)は重要な手がかりになる。

では上記以外の一般的な語はどのように古さを推測すれば良いのか。以下のような方法が考えられる。

音象徴に注目する

音象徴という概念がある。特にLangDigLabではROFから導かれる音象徴に注目する。

✔ 音節の連環(連続的に輪のよう繋がる性質)に着目する
✔ 音節の切り出し方や合成法に類似があるか確認する

例えば パーシ(pas)を例にすると、 
pas を 連続音として認識した場合、以下のように表現できる 
  pas-pas-pas-…

しかし、これは、どの子音を始まりの子音と認識するかで大きく 以下の2種類に分類・区別して記述可能である。
  1) パーシ・パーシ・パーシ… pas-pas-pas-… 
  2) シパー・シパー・シパー… spa-spa-spa-…

上記は切り出し部位が異なるだけで本質的に同じイメージを保持している。

単音節 *pas および *spa は 類似イメージを保持して世界に広く分布していると思われる。このように幅広い地域で幅広い用例を持つ単音節は歴史的にとても古いと言うことができそうである。*pas*spa のような、いわば 母なる単音節が基層となって世界の言語は多様化していったと言うことができそうである。

派生語が多い=古い?

日本語の場合、仮に、単語の由来を縄文時代に由来(Jomon)と弥生時代以降に由来(Yayoi)に大きく分けた場合、Jomon よりも Yayoi のほうが新しい語(= 新語)であり、Yayoi が 日本語に取り込まれたのは、稲作の普及に伴う2,500年前~2,000年前ごろから始まったと想定できる。

上記の観点で、Yayoi より Jomon のほうがより幅広いバリエーション(派生語)を持っているのではないか?と思われる例がある。(*3)

 *wak ➔ 日本語の「わか」など多くの語や地名に派生
 *nop ➔ 日本語の「のぼり」など多くの語や地名に派生

これらをよく観察すると「古い音節ほど経年変化による派生語が生まれやすい」のではないか?と思える。

もし、この仮定に有効性があれば、以下の傾向が導かれる。
 ✔ 音節のバリエーションと派生語が多い
     ➔ 当該言語での歴史がより古い
 ✔ 音節のバリエーションが少ない または 派生語が少ない
     ➔ 当該言語での歴史がより新しい

また、一般に系統が遠いと思われている言語(たとえば、英語と日本語)のような2つの言語であっても、その中にどこか似ている単語が存在する。そのような似ている単語に共通する音節が多くの派生語を伴っている場合は、言語系統を超えた起源の古さを物語るものであるかもしれない。


脚注(Footnote)

(*1) 重ね型オノマトペ(ROF) については次の記事を参照いただきだい。
➔ 『重ね型オノマトペを辿れば日本と世界の…

(*2) 語層 「山」については次の記事を参照いただきだい。
➔ 『日本語 やま(山) の語層と由来

(*3) 単音節 *nop *wak の派生については次の記事を参照いただきだい。
➔ 『日本語の基層音節を探る

改訂(Revisions)

2022 0726 初版
(以上)


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