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日本語 やま(山) の語層と由来

本記事では日本語の やま(山)と関連する語について、その歴史的な経緯や由来について記す。

語層とは、「特定の意味・概念(イメージ)を指す音節の歴史的変化を層(Layer)として捉えて視覚的に示すもの」であり、主として関連図や地図のような図で表現するものとする。

語層(Word Layer)


fig01 日本語 「山」の語層

この図では3層構造を白点線で示し、下から1層、2層、3層とする。
図中の言語名称は以下を示す。
  JMC : 縄文共通語
  Uralic : ウラル語族 
  OJP : Old Japanese
  Ryukyu : 沖縄語 琉球諸語
  Ainu : アイヌ語 

第1層 縄文時代

縄文時代はとても長い時代なので、人々が日本列島へ流入したり、日本列島から流出したりがたびたびあったと思われる。しかし、約4,000年前から3,000年前ごろ(縄文後期~晩期)には、日本列島の広い範囲で共通のイメージ・意味をもった語が存在したと考える。(*1)

固有名詞
特徴的な山はすでに固有名詞が存在したと思われる。おそらく、縄文時代においては、○○岳、○○山 のような総称的なsuffix は存在せず、擬人化された人格神を呼ぶように、フチアソアサ のように呼ばれていたのではないか、と想定している。

一般名詞
図に示しているように、*ni, *nup, *nop という音節は少なくとも存在したと考える。

*nup は アイヌ語 nup 相当かつ日本語 no (野) に相当
*nop は 日本語の古語の ノポ(ノボ)、ノピ(ノビ)、ナパ(ナバ)、など非常に多くの日本語の単語の元になったと考える。(*2)

現在の日本語の以下の例に見られるように、
  ✔ 擬態語 「のっぽ」➔ 背の高いことを意味する。
  ✔ のぼり(幟) ➔ シンボルとしての縦に長い旗

縄文時代の人々は山(特に名前の付いていない山)のことを ノッポノポリ と呼んでいた可能性は高いと思われる。


第2層 弥生時代

朝鮮半島からの渡来人によってもたらされた語彙が流入する層である。山に関連する語としては、少なくとも以下の2種類の音節が想定できる。

Uralic *buori
後のフィンランド語  vuori (= 山) に相当する。稲作をもたらした弥生人は遼河文明 (*3) に影響を受けた語を日本列島にもたらしたと思われる。 意味が「山」から「森」へスライドしていったと思われる。

Uralic(?) *dake / *daki 
現状、由来は不明だが、弥生時代に ダケダキのような音節も入ってきて広まったと思われる。この音節は特に山に限定した意味ではなく「神聖な場」という意味を持った語である可能性が高い沖縄地方(沖縄語/琉球諸語)のうたき(御嶽)がもともとの語感イメージに近いと考える。

現代の山の名称にある「○○岳」 や 「○○嶽」 に相当するが、たき(滝)の語源である可能性もある。(熊野の「那智の滝」が代表的かつ重要な地名であると想定している。後の時代に発音の棲み分けが進んで、たけ(岳) と たき(滝)に大きく別れたのではないか?)

既存語の置き換え
山や山脈に対して「○○」という命名方法が広がって行くと、山に対して、ノッポノポリ と呼ぶ習慣が徐々に薄れていったと想定する。

第3層 古墳時代

弥生時代と古墳時代で注意すべきは、それぞれ種類の異なる渡来人が日本列島に流入したであろうということである。

弥生人は稲作(米作り)の技術と関連する祭りを日本にもたらしたと思われるが、古墳人はある種の農業を基盤とする経済システム と「鉄」の利用を日本にもたらしたと思われる。

時期的は弥生人が500年早い(= 古墳人は弥生人の渡来から約500年後以降に日本へ渡来しはじめた)。

既存語の音韻変化(経年変化による)
  *buori ➔ OJP.mori もり(森) 
  *dake/*daki ➔ OJP.take たけ(岳/嶽)

新語(新概念)
  OJP.yama

yama やま(山) という音節は由来が不明である。

ipa ➔ iwa(岩) + ma(間) の可能性はありそうだが、これだけでは説得力にかける。

また、yamayami やみ(闇) や yamai やまい(病) という語と音韻的な関係あるかどうか微妙である。

yama の由来は不明だが、yama という音節は Yamato やまと(大和)(王権) と 関わりがありそうである。ヤマト勢力が大事にする(神聖視した?)キーワードだった可能性がある。

そうだとすれば、yama は ヤマトの勢力の広がりとともに日本列島に普及した新語(流行語)だと言えそうだ。

後に(奈良時代以降に) 音節 yama に対して「山」という漢字が当てられれ、その後、音読みの サン も普及した。

日本語の重層性について

日本語の単音節 mor もる(もり) には大きく2つの系統が存在すると思われる。
(1) もり 漏り/洩り (➔ 水が染み出す・漏れる) 
(2) もり 森/守り/盛り (➔ 盛り上がり) 

(1) は 縄文時代に存在した *wor または *vor (=「水」に相当)という単音節から 変化したと想定する。 

本記事の *buorimori は (2)に相当するので、順番的には 漏る盛る の順番で日本語に組み込まれたと思われる。

縄文系の語(音節)

本章では縄文系の語(音節)が古墳時代以降の日本語に残っていると思われる事例を記載する。

✔ 神名樋野(出雲国風土記)
かんなびぬ(神名樋野) は 出雲国風土記 おう(意宇)郡の山の名前として記録がある。(*4)

かん・なび・ぬ(神名樋野) 」 は以下のように日本語とアイヌ語に対応する。

かむ(神) ➔ 日本語 かみ(神) 、 アイヌ語  kamuy(= 神)
なび(名樋)  ➔ 日本語古語 nabar なばり(隠)、
                       アイヌ語 nupur(= 霊力がある)
(野) ➔ 日本語 の(野) 、 アイヌ語  nup(= 野)

縄文時代の言葉として
  *kamnapari かむなぱり
を想定(再構)すると、日本語のかんなび(神名備)(= 神が隠れ住まう)とアイヌ語のKamuynupuri(= 神の山) は同源の同形・同義語(variant)と見ることができる。

napar / nopor / nupur母音調和して音韻変化したと考えられる。

脚注(Footnote)

*1 縄文時代の言語とは?を参照いただきたい。
*2 *nup/nopについて こちら を参照いただきたい。
*3 遼河文明について こちら を参照いただきたい。
*4 神名樋野 は 現在の茶臼山(松江市山代)とされる。
     古代出雲国府があった地であり、古くから神聖視された
     山のひとつとされる。

改訂(Revisions)

2022 0716 初版
2022 0723 「縄文系の語(音節)」を追記
(以上)


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