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【エッセイ】コーヒーが教えてくれる

コーヒーが好き。

胸を張って「コレが好きだ」と言えるようなものは多くない。
自分にとってのコーヒーはそんな数少ない好きの一つで、大切なものだ。

そんな「好き」が揺らいだ時期が一度だけある。


コーヒーにハマったのは去年の10月頃。
友人の家に遊びに行った時、ハンドドリップのセットが目に入り「淹れてみたい」と言ったのが始まり。

一緒に遊びに来ていた友人と自分でそれぞれ淹れることになった。
どちらもドリップに関する知識はほとんどゼロ。
友人は適当にドリップし、自分はネットの記事を参考に丁寧に淹れてみた。

その結果、同じ豆なのに明らかに自分の淹れた方が美味しくて「淹れ方でこんなに変わるのか!」と衝撃を受けたのがハマるキッカケ。

それから1週間も経たない内に、自宅にもハンドドリップセットを揃えて、毎日のようにコーヒーを淹れるようになった。
どの器具がいいのか、どんな淹れ方やレシピが良いのかを調べる時間は胸が踊った。
朝、コーヒーを飲むのが楽しみで、苦手な早起きもできるようになっていたのだから趣味の存在は侮れない。

ほどなくして、コーヒーは豆の焙煎度やお湯の温度、淹れ方、ドッリパーなどなど、様々な要素で味が変化するということを知り、ドリップごとに記録を取るようになった。
今では、「よくそんな面倒なことしてたな」と感じるほど、コーヒーと情熱を注いでいたと思う。

もともと調理師をしていたのと、几帳面で丁寧な作業をするのが好きな質なので、コーヒーをドリップする行為自体に、えも言えぬ喜びを感じていたし、ドリップごとに要素を少し変えてどんな変化があるかを探るのも、自由研究みたいで楽しかった。
そんなコーヒーを飲みながら過ごす休日は至福の時間だったし、コーヒーを淹れた後は仕事の効率が上がるような気さえしていた。(実際カフェインには集中力アップの効果がある)

そうやってドリップしては記録や写真を撮っていると、ある時「この記録をInstagramに投稿したらおもしろそう」という気持ちが湧いてきた。
職業柄(ITエンジニア)マーケティング等にも興味があったため、SNSマーケティングの勉強も兼ねて早速始めることにした。

YouTubeやネット記事を参考に、写真の撮り方を工夫したり、投稿タイミングやハッシュタグ等を意識して投稿を重ねる内にフォロワーが増え、いいねやコメントをもらえるようになった。
そうすると「もっと良い投稿をして、フォロワーといいねを増やしたい」という気持ちが強くなり、コーヒーを淹れる時間や投稿を作成する時間は必然的に長くなった。

そんなこんなで、コーヒーに関する投稿を4ヶ月ほど続けたころ、急激にコーヒーに対する熱量が下がっていくのを感じるようになる。
原因は明白で、コーヒーを淹れることが「義務」になってしまったからだ。
もともとはコーヒーを純粋に楽しんでいたはずなのに、インスタを初めたことで「インスタを頑張る」ことが目標になってしまい、コーヒーを淹れることはそれに付随する義務のようになってしまったのだ。

せっかくフォロワーも増えて、いい感じにアカウントが伸びできていたが、いろいろと億劫になったので投稿をするのは辞めてしまった。
しかし、コーヒーは今でも淹れ続けている。
その時、自分は心の底からコーヒーが好きなんだなと気がついた。

インスタ投稿は言うなれば「仕事のため」で、何か利益(結局はお金につながるもの)がありそうだと思ったから始めたものだ。
比べて、コーヒーを淹れて飲む行為自体がお金を生み出すことはない。(むしろ無くなる)
それでも飲みたい・淹れたいと思うのは、純粋にコーヒーが好きだからだろう。

お店に並ぶパッケージを見ながら、味を想像をして選別する時間。
豆を挽くことで漂う香ばしい香り。
お湯と粉が触れ合いドリッパーに落ちる音。
淹れたてのコーヒーを片手にゆっくりと過ごすひと時。

コーヒーに関わる全ての時間にささやかな幸せを感じられる。
これを好きと言わずして何と言おう。

最近よく耳にする「好きなことで生きていく」に毒されて、何でもかんでも好きなものを仕事に変えようとする意識が膨らみすぎていたのかもしれない。
あまりにもこの言葉を真に受けすぎると、本当に好きなことが嫌いになってしまうかもしれないし、そこまで好きでもないものを無理やり好きになろうとしてしまうかもしれない。
そういった危うさを身をもって体験できたと思う。

「難しいことは考えずに、好きなものをシンプルに楽しめ」

コーヒーがそう教えてくれてるみたいだ。


[あとがき]

コーヒーは一日に一杯か、飲んでも二杯まで。
飲まない日があっても問題ないので、カフェイン依存症ではないはず...

適切な範囲で楽しみたいですね。

ちなみに、浅煎り派でエチオピアの豆が好きです。

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