「かわいい」は飲んでも飲まれるな!VR思春期で恋に失敗、黒歴史量産も - VRChat
「VR思春期かもしれない」-。現在は落ち着いているものの、VR世界に入ってから2カ月後くらいに初恋や失恋、コミュニティからの逃避を経験したことがある。最初は飛んだり跳ねたりとVR世界の自由を思いっきり楽しんでいたが、1カ月後くらいに好きな人ができたあとに発生した。同様の現象は異性装をしていた頃にも起きたことがある。人間は圧倒的な自由を手にすると最初は好奇心が先行するが、暫くして自由の使い方を間違えて苦しむ生物なのかもしれない。今回は私の失敗を通じて、人間の負の可能性の一つを知り、何らかの教訓にしてもらえるとうれしい。
VRでユーザーが合流するSNS「VRChat」。ユーザー同士で「お砂糖」と呼ばれる恋愛のような行為が行われているコミュニティが至るところにある。甘い出会いがあればしょっぱい別れもあるため、失恋は「お塩」と呼ばれている。大半は女性アバターであり、声は女声、男声さまざま。アバター自体のかわいさや、肉体を介さない手軽さから、流れで「お砂糖」状態に突入してしまうこともある。
VRChatを始めて最初の1ヶ月は、楽しさと驚きの連続だった。私が蘭茶みすみその人であり、私の意のままに体が動く。全く違う世界やかわいいアバターと、無限の可能性を感じていた。そして、一緒にあそんでいたある男声の人物を好きになり、擬似的なパートナーになった。
擬似的なパートナーは優しい人物で、私の体調を気遣うなど、完全に「女性パートナー」として扱ってくれた。私はすっかりその気になり、相手が構ってくれることに快感を覚え、依存してしまった。
しかし、1ヶ月ほど経過すると、相手は私に疲れたのか反応が素っ気なくなってしまった。私は嫌われることに恐怖心を覚え、TwitterのDMで質問攻めをするようになった。そして遂に嫌われ、そこのコミュニティにいられなくなってしまった。
この頃は、予備的に同時に複数の男声ユーザーに依存していたと思う。みんな私を女の子としてかわいがってくれて、非常に満たされるものがあったからだ。客観的に考えると、とんでもない地雷系メンヘラ女である。
同様の現象は、肉体状態で異性装にハマっていたころにも経験したことがある。私に異性装を布教した人物が、私を「かわいい」といっぱい誉めたことで、私は気持ちの上でかわいい女の子になり、さらにその人のことを好きになってしまったのだ。交際は数カ月続いたものの、やがて反応は淡白になり、私が「嫌いにならないで」と詰め寄ったことで、拒絶されて関係は終了した。異性装が流行ったそのコミュニティ全体では、我々以外にもさまざまな人物が同様の事故を起こし、崩壊した。
前者の教訓により、蘭茶みすみは暴れる精神状態を認めて、完全な自己肯定を行い、理性でコントロールする現在の安定した心理を手に入れた。後者は、そもそも「肉体を捨てた最強存在として」、承認を圧倒化させる蘭茶三角(2018)が生まれる遠因にもなった。
いずれの事例も、異性の姿をまとうことで「肉体や社会的状態から解放された」状態が実現してから、1~2カ月後に発生している。また、最初は無限の可能性を感じていたことも同じだ。一度人間関係事故を起こすことで、数カ月の鬱々しい期間を経て、承認欲求を満たす新しいマインドセットを実装し、更なる安定的な精神状態へと進化を遂げている点でも共通している。
人間は、新しい自由を手に入れることで、最初は無限の可能性を感じるものの、暫くして自由が故に病んでしまうことがあるようだ。バーチャル世界に降り立ち、存在と環境の自己決定権を行使することは、もう一つの人生を始めるのと同じくらいの衝撃がある。当然、価値観に悩んだり、従来の常識との間で悩んだりと、手にした自由を使いこなすためには頓挫があり、まさに思春期といった苦しみ方をする。人間が新しい次元へと進むために、従来の自分を破壊する上昇負荷のようなものだ。もし来なかったならラッキーだが、来てしまったら、そういうものとして早く気づけば被害は抑えられるかもしれない。
また、「承認欲求」も大きく関係している。「かわいい姿」で承認される状態に慣れていない場合、承認中毒のような状態になってしまいがちだ。かわいいネイティブの人は、長い人生経験から、かわいいの用法を知っているが、かわいいニューカマーの人は、かわいいの適切な使い方をまだ知らず、飲まれてしまう。かわいいは人類にとって余りにも破壊力が強すぎるため、まずは自分自身が、かわいいの適切な使い方を意識することが大切なのかもしれない。
さて、かわいいの適切な使い方を知るためにぴったりな場所がある。VRChatユーザーイベント「授乳カフェ」だ。ここでは、「かわいい」が自分ではなく他者のために使われている。授乳カフェでは、ママやパパ役のキャストが、参加者を全肯定して癒してくれる。参加者は赤ちゃんのように寝てるだけで全肯定してもらえるので、余計なことで病まなくていい。承認が哺乳瓶で投入されるものの、「場」として管理されているので比較的安全だ。気化すれば大爆発するガソリンを、筒に閉じ込めて内燃機関にしたようなものだ。自らの承認欲求を感じて危機感を覚えた際は、お砂糖相手ではなく、授乳カフェで安全な承認を求めてみてはどうだろうか。お砂糖に負担をかけないことは、お砂糖の持続可能性につながる。人間関係事故防止は、自由に生きるためには大切だ。VR思春期には授乳カフェ。
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