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「メタバースは始まりだ」初めてのVRChatワールド「御砂糖公園-ZuckerPark」公開、自撮りチャレンジで実感したメタバース「空間表現」の可能性

 2022年8月19日、登山から帰ってきてTwitterを開くと、Meta(旧Facebook)CEOマーク・ザッカーバーグ氏が「1兆円かけて」制作したとするメタバース内で撮影された自撮り写真が話題になっていた。最近、自分用にソーシャルVR「VRChat」のワールド制作を始めた私、蘭茶みすみは、「これをVRChatに持ってきて、みんなで自撮りを撮れば面白いのでは?」と思い立ち、早速Unityを開いた。

 エッフェル塔のフリーの3Dモデルはすぐに見つかった。しかしサクラダファミリアはなかなか見つからない。モデリングソフトBlenderを開き、慣れない手つきで円柱や円錐形を組み合わせ、サクラダファミリアっぽいものを作っていった。

 Unityにモデルを入れた後、VRChatのワールド作成キット「SDK」を入れる。円形や球体を組みあわせ、イラストソフト「CLIP STUDIO」でテクスチャを描いた。ザッカーバーグ氏の自撮り写真を見ながらそれっぽく配置し、Twitterに「1兆円のメタバース作っています」とスクリーンショットを投稿すると、あっという間に大量のリツイートをされてしまった。

 「こうなったら公開するしかない」。ワールドの名前は"Zucker"がドイツ語で「砂糖」。VRChatでユーザー同士がアバターで恋愛をする文化も甘いことから「お砂糖」と呼ばれており、掛け合わせて「御砂糖公園 - Zucker Park-」にしてみた。「ザッカーパーク」は昨年11月、「お砂糖(Zucker)」は今年1月にそれぞれ思いついた駄洒落だ。BGMはクリプトアイドルメタバース「メタバース音頭」にした。

 公開すると、二日目の8月21日午後5時の段階で把握している限り100人のVRChatユーザーから自撮り報告が見つかった。ワールド自体のお気に入りも230を越え、累計1200人以上が訪問している。中にはVR関係企業の経営者や、メタバース本の作者、海外のVR技術者などの有識者や著名人も写っている。

 一連の自撮りチャレンジを見ていると「空間の力はすごい」と実感した。メタバースは「場所」「時間」「人」で成り立つと考えている。今まで私はワールドを作る力が無かったため、人としての「存在」表現の価値の大きさは知っていた。また、最近アイドル活動を初めて歌やダンスをその場でリアルタイムで同じ空間を共有する観客に披露したり、他の人のパフォーマンスを見ることで「時間」とそれによって生まれる「つながり」の価値も知っていた。

 ワールドという「場所」表現の凄みは、自分の表現を基底の世界として「置いておく」ことができる。そこに人間が来て「文脈」が成立する。「いる」瞬間だけではなく、長期間に渡って表現を展開できるのだ。しかも他者が参加する形でコミュニケーションが生まれる。特にヘッドマウントディスプレイで没入型人工現実感を用いると、それぞれの「在りたい存在」であるアバターが実質的に自分そのものだと感じることができるし、この空間に実質的に存在することもできる。「集い」「コミュニケーション」を、人間側からも世界側からも長時間に渡って表現できるのだ。

 「1兆円のメタバース」パロディワールドは、ソーシャルVRプラットホーム「cluster」や「NeosVR」にも有志の手によって続々と登場。現在のソーシャルVRはそれぞれ孤立した規格で簡単には行き来できない孤島のような状態だが、同じ文脈を表現したワールドで同じように自撮りを楽しむ文化の形成過程に、プラットホームを越えたコミュニティの広がりを感じた。ソーシャルVRではないがセカンドライフにも似たような文化はあるらしく、こうしたクロスプラットホーム性が今後のメタバースの広がりに続いていくのかもしれない。

 「御砂糖公園 - Zucker Park-」は批評性を込めただけに賛否両論があるのは認識しているし、マーク・ザッカーバーグ氏が見たら頭を抱えることもなんとなく想像できる。しかし、ザッカーバーグ氏の提唱し、2021年10月28日から始まる社会的メタバースブームの「Facebook」型メタバースは、生まれながらの肉体と性別、存在、名前をユーザーに強制してくる。もともと自分の肉体や性別、存在に満足している健常者ならともかく、せっかく人工現実感により操作できる観念にも関わらず、これらが社会一般の想像する「正しいメタバース」になってしまったら、私のように障がいがあり、生まれながらの肉体や性と「在りたい存在」のギャップで苦しんでいる人間はどう生きればいいのだろうか。人類が実質的な「空間と身体の自由」を手に入れた以上、これらの技術が単一の世界観に生きづらさを抱えている人間すべての居場所に使われることを願っている。そして今回、私のつたないワールドが「在りたい姿」の楽しさを示す良い機会になったことは非常に嬉しいことだ。

みんなでザッカーパーク

 ザッカーバーグ氏のメタバースがチープに見えるのは、おそらくスタンドアロン型ヘッドマウントディスプレイMeta Questでも表現可能な表示をしているからだろう。VRChatでもQuest規格への対応は初心者の私には難しかった。ザッカーバーグ氏の自撮りと1兆円には、スマホサイズのPCをQuestに搭載し、それに対応したメタバースを作るいわば小型化軽量化による普及を目指した涙ぐましい努力が含まれている。豪華なメタバースはまだまだグラフィックボード搭載の高性能PCが必要で、ザッカーバーグ氏やMeta社はいかに一般的に使えるものにしようか必死に取り組んでいる。彼らを志半ばで引き返させることは、人類にとって大きな損失だ。

 メタバースはまだ始まったばかりだ。もし、まだVRメタバースを体験したことがなく、ザッカーパーク自撮りチャレンジを見て「楽しいな」と思った方は、ぜひVRメタバースの世界に足を踏み入れてほしい。ヘッドマウントディスプレイを被り、私たちに実際に会ったことがない状態で「メタバースは終わりだ」と言うのは机上の空論だ。実際に現場を歩いてほしい。それより、メタバースは楽しい。在りたい自分でもいられるし、仕事終わりに自分の隠れ家的な居酒屋を作って仲間を呼ぶこともできる。ここならかつての仲間や新しい仲間と一緒に、青春時代に辞めてしまったバンドを組むこともできる。鉄道ジオラマを作って一晩夜行列車で過ごすことも可能だ。可能性は無限大。あなたの「やりたい!」次第だ。

 ザッカーパークの1兆円自撮りを見て「楽しそう」と感じた方、ぜひこちらへおいでください。人工現実感ですから、数字ではなく実際に歩いてみなきゃわからない。「ザッカーバーグさんかわいそう」と感じた方はぜひQuestを買ってください。メタバース、始めましょう。

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