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釉薬っていいお味

今回は、前回の高浮彫に続いて、眞葛焼の代表的特徴の一つ、
釉下彩についてお話しようと思って……いましたが、

私の記事に訪れてくださる方々は、どれほど陶芸がお好きか分かりません。
とてもお詳しいかもしれません。

しかし、私の目標は、まず陶芸の事を、広い世代の人たちに面白いと思ってもらう事です。
なので、いきなり釉下彩のお話よりも、釉薬の基礎的な知識からご説明いたします。

釉薬(ゆうやく。うわぐすりとも呼びます)とは、陶磁器の表面にかかっている、ガラス層のコーティングです。

木彫りの作品に審美性や補強のため漆やニスを塗ったり、金属の製品に錆止めなどを塗装したりしますよね。あんな感じです。

ただ、釉薬というのは、条件を揃えて、焼く時に自然に灰が付着して発色する場合(自然釉)もそう呼びます。薪でじっくり焼くという他の素材とは扱いが違うゆえの面白さがあるのです。

釉薬をかける目的というと、綺麗な色になるし、丈夫になるし、水漏れや汚れを防いでくれるし、良い事づくめです。

釉薬の材料は、粘土とガラスの粉を一緒にしたものです。木灰と金属の粉がそれに加わって、色味や質感に変化をもたらします。
これを大抵、水によく溶かしてくぐらせ、施釉(せゆう:釉薬をかけること)するのです。

釉薬とは、溶ける温度など、発色の条件がそれぞれの種類で異なります。
陶工さんは焼く時に、全てを計算しているんです。

現代には精密な温度計もありますが、それがない時代で、
経験と長年の勘で窯の温度をみて、
最高の発色を狙う……(更に薪窯というのは大量の薪がいるので一年でそう何度も本焼をするのは難しい)……

陶芸というものは焼き上がりを完全にイメージ通りにするのがとても難しい分野です。

陶芸家というと皆さまの頭に過るかもしれない、
「ガチャ――ン!」「ガチャ―ン!!」


と壺とか割っている様子ですが、割りたくなるくらい気に入らない仕上がりになっちゃう事はままあるのです。
逆に、予想を上回る、思いつきもしない良い結果になる場合もあります。

陶(とくに茶器)にお詳しい方々はその予測不能さを、
「いいでてるね」
「いい景色だねえ」
とむしろ楽しみます。
いいお味……なんか、おだしのきいてるみそ汁みたいで良いたとえ方ですよね。

こうでなければ駄目という明確な決まりがないのが陶の大らかさですが、
逆に、自分の目指す完成が仔細に亘る作品となると、とことん改善を求めなくてはなりません。
良い物が出来るかは博打の部分もある。
だからこそ、世の中に出回っている良い物は、技術と奇跡の結晶ばかり、と言っても過言ではありません。


現代作家さんたちの人気作品は、どうやらこちらで見られるようです。

ほんと、良いお味です。

私は個人的に貫入(かんにゅう)という釉薬のヒビのような表情が好きです。
素地と釉薬の収縮率の違いで発生します。

貫入の一例

(上の画像は我が家の茶碗です。江の島にある陶のお店、江の島風花で購入しました。表通りから外れるので秘密のお買物の雰囲気を楽しめます。素敵な食器がたっくさんです)


ここから、私の推し活の部分になります。

宮川香山の釉薬技術の例として、イチ押しの作品をご紹介します。
高さ21.5㎝、山本博士さん所蔵の、初代香山の作品です。


磁製瑠璃釉鷺画花瓶

私は瑠璃釉という釉薬が大好きなんですが、この一点の曇りもない、瑠璃釉の花瓶!
なんて美しいんでしょう……
この作品は、明治23年の第三回内国勧業博覧会に出品され、二等妙技賞を受賞しました。当時日本ではあまり見られない試みだったそうです。

宮川香山は江戸から明治の人です。当然トライ&エラーを地道にコツコツ重ねて、あのカラフルに辿りついたということです。ああ、香山先生はヤバい……
初代宮川香山は、それ(釉下彩)を「彩磁(さいじ)」と名付けました。
次回は宮川香山による「彩磁」こと釉下彩について、もう少しフカボリします。

あと、出来れば、先延ばしにしている話題の答も、次回明らかにしようと思います。



出典:鷺の花瓶の画像と解説は、
「世界に愛されたやきもの MAKUZU WARE 眞葛焼 初代 宮川香山作品集」からお借りしました。
この御本、余すことなく眞葛を楽しめます。
(入手の手段は現在、古本の購入のみのようです。私は鎌倉の骨董店で購入しました)

横浜市民の方なら、横浜市立図書館で借りる事も可能です。
……あっ、

横浜市立図書館は図書館情報システムの更新のため、令和5年12月25日(月曜日)から令和6年1月14日(日曜日)まで全館臨時休館いたします。

横浜市立図書館

どうやら、蔵書検索できるのは、15日以降ですね。

香山の作品を今回ご紹介しましたが、
私のスマホ撮影の写真では伝わらない…
眞葛ミュージアムにお越しの際は、ぜひ宮川香山の造形、色彩の美しさに酔いしれてください。
ちょくちょく展示物も入れ替え、見せ方も変えていらっしゃるようです。

この記事を書くにあたって、下記のサイトを参考にしました。
とうろじさんのサイトはとても詳しく丁寧なので、陶にご興味がある方にはとても豊かな学びになること間違いありません。


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