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魂の独身者たち『去年マリエンバートで』さえも...【映画考察】

何であれ勉強をし続けていると大きな知識の方から、向こうの方から自分に向かって無意識に望んでいたものを差し出してくれる、ということが往々にしてある。ある映画を観て、また別の映画を手にとってそれについて考え調べまた別の作品に手を出して…するとその作品群のスタイルや問題、提示している物事がずっと自分が探していたことではないかとハッとする瞬間の嬉しさといったらない。今年は映画『去年マリエンバートで』が私にとって自我を再確認させ、またこれからも心の片隅で咀嚼しながら付き合っていきたいテ

    • 蝙蝠夫人

       陽が高い昼の世界は薄暗く陰気臭い洞窟で眠り、夜になればチョコレイト色の瞳を爛々と輝かせて蛾や小虫を喰らう、その蝙蝠も仲間たちと同じく小さくも居心地の良い洞窟で日々を過ごし、壁に滴る夜露に醜い姿が映るのを眺めてはごわごわとした毛を一層見窄らしくさせて、凝然としながら月に照らされた夜を悽愴と眺めているのでした。鶯や四十雀のように美しい旋律を奏でることはできず、リスや小鹿のように軽やかに跳ね回ることも叶わぬ、温かな平穏に満ちた世界から断絶されたこの場所で息をひそめることのみが蝙蝠

      • 或る鬱々たる一日 : 芥川との身勝手な会話

         友人から連絡があり、日本での学生時代の教師が亡くなったと聞いた。僕は不謹慎ながら一種の羨ましさを覚えた。そういった日は目覚めた瞬間に分かるものだ。目に映る全てのものが曇り濁って撓垂れている日は。日の昇らない群青色の早朝から闇に包まれるまでの長い長い一日、砂袋のようにずっしりと重い時間の潰し方を考えなければならない。こういった鬱々とした日が一週間に一度はやってくる。以前までは一ヶ月に一度であったが期間が狭まっているところを見ると僕はこちらの状態の方が正常であるのかもしれない。

        • 久美子

           あなたに御手紙を差し上げるのはこれが初めてでしょうか。あなたが今どのように過ごしているかを想像することは難しくはありません。連日あなたのニュースがセンセーショナルに取り上げられていますが、どれもやれ芸術家に潜んでいた狂気やら関係者たちの勝手な憶測やら解離性障害やらてんでどれも的外れ、滑稽であるのが美青年の殺人犯という事実に世間は色めき立っていること。そちらに報道は届いているのでしょうか、それももう予想済みとばかりにほくそ笑む姿が浮かぶのもまあ何とも可笑しなものです。あなたに

        魂の独身者たち『去年マリエンバートで』さえも...【映画考察】