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「昭和少年事件帳⑨」黒歴史の学級裁判被告事件!

(はじめに)これは、私が青少年期を過ごした昭和時代の話です。

 同じ時代を生きた皆さんをはじめ昭和をご存じない世代の皆さんにも楽しんでいただければ幸いです・・では、事件の始まりです。

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 今回の事件、小学4、5年生の頃の肌寒い季節だったのは確かですが、何月の出来事だったのかまでは思い出せません。
 
 昨今と違って当時、「いじめ」という言葉の認知度はそれほど高くなかったと思いますが、いじめがまったくなかった訳ではありません。

 ただし、クラス全員で1人だけとか、本人のいないところで口裏を合わせて無視するといった陰湿なモノは記憶になく、男子数人で一人の女の子にちょっかいを出すとかからかうといった感じのモノが主流だった気がします。
 
 なお、この期におよんで自分を擁護する訳ではありませんが、私自身は女の子の扱いが苦手だったこともあり、そういった光景を目にしても「飽きもせずによくやるわ」ぐらいの感覚しかありませんでした。
 
 ただその日は、自分の意志とはまったく関係ない形で事件に巻き込まれることになったのです。
 
 その日もクラスでは普段と変わらない光景が流れていました。
 
 そして、休み時間に入ると悪童達がいつものように女の子にちょっかいを出し始めます。

 普段と少し違っていたのは、悪童三人衆の一人が欠けていたことぐらいです。

 風邪でもひいて休んでいたのか理由までは分かりませんが、残る二人のやっていることはいつもと一緒です。

 女の子のカーディガンを取り上げて投げ合っています。

 女の子がいくら“やめてよ~”と言ってもお構いなし、コレも毎度おなじみのことなのですが状況が変わったのはその後です。

 何気なく机に向かっていた私の頭の上にカーディガンがバサッと被せられたのです。

頭に被せられた赤いカーディガン

 いつもなら、無表情のままカーディガンを払い落として終わるのですが、この日は何故か虫の居所が悪く、つい頭に来て「何すんだ!」って投げ返してしまいました。

 これが、悪ふざけコンビにとって最高のシチュエーションとなりました。

 欠けたメンバーを補充する形で新メンバー(?)に加えられたのです・・当然、面白がって投げ返してきますし、これを私がムキになって投げ返すのでキリがありません。 

何であんなにムキになったかなぁ?

 頭に血が上ったまま、休み時間の終わりとともにこの無駄なやり取りは終わったのですが、これが予期せぬ事態に発展します。

 翌日の朝です。

 一晩寝るとモヤモヤしてたこともスッキリ忘れられるタイプなので、昨日激高したことなんてすっかり過去の話です。
 
 ところが、教室に入ってきた担任の先生の様子がいつもと違うことに気付きました。

 表情が硬いというか、体全体から出ている圧が強いというか・・
 
 そして突然、先生の口から出てきた言葉は、“今から名前を呼ぶ奴は前に出ろ!”
 
 そこで名前を呼ばれたのは、昨日カーディガンを投げ合った三人です。

 “お前達、何で呼ばれたと思う?今日、クラスの仲間が一人欠席していることに気付いているか!”

 正直言って先生から言われるまでカーディガンの持ち主が休んでいることなんてまったく気付きもしませんでした。
 
 “今朝、彼女のお父さんから電話があって学校に行きたくないと言ってるそうだ、理由はお前達からいじめられたことが原因だ!”

 いじめられた?・・先にお話ししたとおり、そもそも「いじめる」って言葉自体がそれほど定着していなかった時代ですし、ましてそれが原因で学校を休むってことすら当時は聞いたことがなかったので驚きました。

 えっ?アレっていじめたことになるの??この時、私には当事者意識すらありません。

 すると、先生が“学級委員ちょっと前に来てくれ。”といって、クラス委員と何やら小声で打ち合わせを始めました。

 短い打ち合わせの後、学級委員長から発せられた言葉は、“今から学級裁判を始めます!”
 
 学級裁判?それまでの人生において一度も聞いたことのないフレーズです。

 一体何が始まるのかという不安もありましたが、恥ずかしい話、この段階になっても学校を休んだ彼女の気持ちを思いやることなく、たまたま私が悪童メンバーに加わった翌日に休まなくても、という自身の不運だけを嘆いていました。

 裁判の開始を前に先生が説明を始めます。

 “今から、この三人に対して普段思っていることや気付いた点を発表しなさい。発言の内容は何でも構わないし、小さなことでもいい、自由に意見を出しなさい。”

前に立たされ被告となった私

 そして、バトン(司会進行)は委員長に渡されました。

 最初は手を挙げるのに少しちゅうちょのあったクラスメート達ですが、やがて一斉に発言を求める声が響くようになりました。

 当時、私は正式な裁判がどのように行われているのか知らなかったので、自分の置かれた立場すら分かっていませんでしたが、今にして思えば、被告が三人で残りはオール検察官という本来の裁判とは全く異なるむごい設定だったと思います(苦笑)

 そして徹底的に悪口を並べ立てられました・・自分への悪口を面と向かって大勢から直接言われたのって後にも先にもこの時だけです。

浴びせられる悪口のオンパレード
感覚が段々麻痺してきます。

 今、ネットへの匿名書き込みによるいじめが問題になっていますが、これは学校公認ですし、告発者が名を明かした上で対象者名指しの直接発言です。

 いつもだったら悪口なんか絶対言いそうもない子も周りの雰囲気に流され平気で口にしてしまう不思議な空気に包まれていました。

 そんな異様な状況ではありましたが、クラスメートも私が普段は彼女にちょっかいを出していないことは知っていたので他の二人に比べればまだマシだったような気がします。

 学級裁判はその後も延々と続きますが、私は神妙な顔つきで反省したふりしながら聞き流すことでしのいでいました。
 
 ただし、前日学校を休んでいて難を逃れた悪童メンバーの一人が私の悪口を言った時だけはムッとして睨み付けてやりましたけど(笑) 
 
 その後どれくらい時間が経った時でしょうか?突然、私の横に立っていた被告の一人がシクシクと泣き始めたのです。
 
 悪口のオンパレードでへこむ気持ちも分からない訳ではありませんが、泣いてどうするって感じでした。

 ところが、その次の瞬間からみんなの発言内容がガラリと変わりました。

 オール検察官(告発者)が突然、オール弁護士(擁護者)になったのです。

 散々悪口を言われた後のほめ言葉の羅列・・これをほめ殺しって言うんですかねぇ~?

 ついに彼は声を出して泣き始めました、すると今度は残るもう一人の被告がシクシク始めたのです。

 え~っ!コレってそういう仕組みなの~??って、思いましたが、私まで泣き出したら絶対嘘っぽくなりますので死んでも泣けません!
 
 そしていよいよ裁判はクライマックスに入ります。
 
 二人目へのほめ殺しが一段落ついたところでようやく先生が出てきました。

 “三人とも十分反省したと思うから、そろそろ結論を出そう!三人はこの後どうすればいいと思いますか?”

 優等生の一人が手を挙げて、“彼女の家まで行って謝るべきだと思います。”その意見に対して、オール裁判官化したクラスメートが“賛成~”で終了!って、おいおいこれが結論かよ!

 そんなことぐらい裁判に掛けられなくても自分で判断できるわって言いたかったけど、被告に発言の機会は与えられませんでした。

 そして判決が下されるや否やそく刑の執行です。

 先生(刑務官)に連行され重い足取りで彼女の家に向かいます。

先生にトボトボとついていく三人

 本人にゴメンネって謝ったらさっさと帰ろうと思っていたのですが、出てきたのは彼女本人ではなくお父さんです。

 “娘をいじめたのはお前達か!”怒鳴りつけられたその余りの迫力に足がすくみました。
 
 「すみませんでした~もう二度としません。」みたいなことを三人で必死に口走ったと思いますが、殆ど覚えていません。
 
 ですが、その時のお父さんの目の印象だけがその後もずっと記憶に残りました・・きっとあの目は怒りだけでなく、悔しさや悲しさも入り交じっていたのだと思います。

感情の入り混じった目でした。

 謝って全てを許された訳ではありませんが、どうにか刑の執行も終わり学校に戻ります。
 
 そして、その日から数ヶ月が経過しました。

 あの後、別の事件で学級裁判が開かれたかどうか全く記憶にありませんが、この制度いくら自業自得だったとはいえ今の時代だったら大問題だと思います。

 反省を促すためとはいえ、言葉の暴力による集団リンチでどう考えても逆いじめです。

 でも私は親には一切しゃべりませんでした。
 「学級裁判に掛けられた。」なんて口走ったら、更に倍になって怒られることは分かっています・・そんな時代です(笑)

 何はともあれ、当然これでクラス内でのからかいやちゃかしはなくなったと思われるかも知れませんけど、そうではありません。

 月日が経ってほとぼりが冷めると悪童三人衆による彼女への悪ふざけは完全復活しています。

 そして今日も相変わらず“もう~やめてよ~”っていう声はしますが、彼女が再び学校を休むことはありませんでした。

 そんなやり取りを横目で見ながら「結局、アノ事件は何だったんだ?」と、自問していてハッ!と気付かされました。

 もしかして、私がカーディガン投げに加わった翌日に彼女が登校拒否したのはたまたまじゃなくて、普段いじめに関わっていないヤツ(私)が新規参入したことが原因だったのでは?

 そうなると、初犯なのにとんだとばっちりを食わされたと思っていた私は、実はこの事件の主犯だったってことになります・・

 今となっては・・真相は闇の中ですけどね・・・

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