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深読み:個人の魂と宇宙

ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」において、ワーグナーは真実の愛は、死によってはじめて完成するという深遠なテーマが扱われています。イゾルデは最後に、「大宇宙へと溶け込む」と歌います。
インド哲学でも、個人の魂(アートマン)が宇宙の最高原理ブラフマンと合流することが説かれています。仏教では、「梵我一如」と訳されています。

ISOLDE
おだやかに、静かに
あの方が微笑む、
目をにこやかに
あの方は見開く・・・
みなさんは見ているの?
見えないの?
ますます光を帯びて
あの方が輝くのを、
星々に照らされながら
高く身をもたげるのを?
みなさんには見えないの?
あの方の心臓が
雄々しく盛り上がり、
ゆたかに、高貴に
胸の中でふくらむのを。
両の唇から
歓喜に満ちて、おだやかに
甘い吐息が、
やわらかに吐き出されるのを・・・
みなさん!見て!
感じないの?見えないの?
この調べを聞いているのは
私だけなの?
こんなにも奇蹟に満ちて
静かに、
歓喜を嘆き、
宇宙のすべてを語り、
おだやかになだめながら、
あの方の中から響きながら、
私の中に入り込み、
自らも響きだし、
やさしく反響しながら、
私を取り巻いて鳴り渡る、この調べを!
ますます晴れやかに鳴り響きながら、
私の周りに打ち寄せてくるもの・・・
それは、やわらかな大気の
さざ波なのかしら?
それとも、歓喜にみちた
香りの大波なのかしら?
それらがふくらみ、
私の周りでざわめくとき、
吸い込めばいいの?
耳を澄ませばいいの?
それとも啜り込んで、
潜り込めばいいの?
それとも甘き香りのなかに、
消えいってしまえばいいの?
この波打つ凄まじきもののなかに、
この鳴り渡る響きのなかに、
この世界の吐息の
吹きすさぶ宇宙のすべてのなかに・・・
溺れ、
沈み・・・
我を忘れ・・・
この上なき歓び!
(イゾルデは、浄化されたように、ブランゲーネの腕に抱かれながら、トリスタンの遺体の上にやわらかに崩れ落ちる。取り巻いている人々の感動と忘我。マルケ王は遺体に十字を切る。ゆっくりと幕が下りる。)

日本語・ドイツ語:http://www.murashev.com/opera/Tristan_und_Isolde_libretto_English_German

ドイツ語・英語


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