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湖畔の時間 の わたしの時間|装飾美術 佐藤千穂の視点

2020年11月に白樺湖で開催した野外イベント「湖畔の時間 2020」は、2日間で約1400名の方にご参加いただき大盛況となりました。

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イベントの成功に欠かせなかったのが、さまざまなスキルを活かして空間を共に創ってくれた、スタッフやクリエイターの皆さまの存在。

連載企画「湖畔の時間 の わたしの時間」と題して、関わったスタッフやクリエイターそれぞれの視点で切り取った白樺湖を、等身大の言葉でお届けしていきます。

第2回は、イベント会場の空間装飾を担ってくれた、美術プロデューサー・プランナーの佐藤千穂さん。手掛けたのは東屋やライブエリアを中心とした会場全体の装飾。イベント直前の持ちかけだったにも関わらず、既に形になりかけていたイメージを素早く汲み取り、魅力たっぷりの空間に仕上げてくれました。

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佐藤千穂(さとうちほ)
美術プロデューサー / プランナー
Minerva Fam Inc.代表
HANGOUT COMPANY inc.所属 http://hangout.company/people/chiho-sato
幼い頃からテレビやイベントで目にする出演者よりも、その背景や映り込むものに興味があったという直感的な興味を動機に、一般大学から新卒で民放某TV局の美術関連会社に入社。20代はテレビ美術におけるアートプロデューサーとして、様々な人気番組のスタジオセットや、大道具、小道具に至るプロデュースを経験する。30歳に一念発起し独立。女性にして、テレビ業界の知識を持つ異色の美術プロデューサーとして、企業やブランドの店舗やイベント、展示会などのアートディレクションを手がける一方、美術専門学校の講師をつとめるなど独自のキャリアを形成する。その活躍のフィールドを海外に広げ、今なお成長を続ける34歳。
http://hangout.company/people/chiho-sato
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──「湖畔の時間 2020」のお声掛けをしたのは、イベント開催を目前に控えたタイミングでした。改めて、関わってくださったきっかけを教えてください。

イベント本番が3週間後に迫った10月末、柴田さん(プロジェクトメンバー・柴田菜々)が声をかけてくださいました。なんでも、お客さんの期待値が上がってきたため、急遽「空間装飾もしよう」という話になったとか。

すでに世界観やクリエイティブデザインはできていたので、プロジェクトメンバーの想いを自然に引き出せるような装飾ができればと参画を決めました。

──白樺湖を訪れる以前に、「湖」や「湖畔」に対してのイメージはありましたか?

学生時代にバックパックで世界一周した際に、友人の車でスイスを周遊中に訪れた湖の静けさと雄大な姿は強く脳裏に焼き付いています。霧の中にひっそり、しかしどっしりと構えていて、まるで印象画のような光景でした。

それまでは、童謡の「静かな湖畔の森の影から」の歌詞から得られる漠然とした景色や、ネス湖の“ネッシー”のイメージくらいしかありませんでした(笑)

──初めて白樺湖を訪れたときのことを教えてください。

お話を頂いたすぐ後に、柴田さんが車で連れて行ってくれました。2人きりで緊張していましたが、プロジェクトへの熱量が感じられ、あっという間のドライブでした。

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到着して歩きだすと、まず目に入ったのが小さな丘の上の東屋!シンボリックな場所が会場内に欲しかったので、東屋を見つけてホッとしました。

日没前に到着し、お客さんと同じように陽の光の移り変わりを見ることができました。夜の湖畔は思ったよりも暗くてドキッとしましたが、目が慣れてくると星が綺麗に見えてきて。静けさも手伝って、感覚が研ぎ澄まされていきました。

私にとっては初めての訪問がロケハンでしたが、自然のカケラを湖がまとめている構図の美しさに、すっかり心を持っていかれてしまいました。

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──そんな白樺湖を、どんなイメージをもって装飾していただいたのでしょうか。

時間も予算も限られていたため、基本的には現場でのアドリブでした。図面もパースもなく、チームの皆さんとお話しながらフリースタイルで。

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こだわったのは、パッと見てちょっとドキッとするような空間です。森の中にふかふかのベッドが置いてあるような……お家の中に秘密の庭園があるような……。そんなワクワク感を大事にしました。

──屋外にアンティークな家具や小物が散りばめられているのが印象的でした!具体的にこだわった点を教えてください。

「まるでお家の中のような家具が湖畔にセットされている空間」にしたくて、とにかくチープに見えないものを!と、ストーリーのある古家具を中心に集めました。コストも考えて自分の足であちこち回って買い集めるのは、時間との勝負でしたね。

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初めて白樺湖を訪れたときから、シンボルとなる東屋のテーマは「星」にしようと決めていました。中央の一番高いところに大きな星をセットし、そこから細かい星のガーランドとカラフルな布を放射状に流し、星の軌跡をイメージした小宇宙を創りました。布生地の色味は、木本さんがデザインされたグラフィックに合わせています。

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日中はフォトスポットとして使ってもらえるように、ラタン製のピーコックチェアを置きました。このチェアは自然の中にもよく馴染み、ひとつあれば空間が成立すると思い古家具屋さんで調達したものです。

薪やペルシャ絨毯、テーブルの上にランプやキャンドルを飾って、ゆったりとくつろぎたくなる暖かい部屋のような空間に。額縁には「湖畔の時間」ロゴを入れ、フォトプロップとして思い出に残してもらえるように工夫しました。

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湖畔の灯りは最小限にとどめましたが、逆にここはシンボルなので夜の暗闇の中でも煌々と目立たせたくて、たっぷりのスズラン灯をあしらいました。今回のような屋外イベントでは、昼と夜で違った表情を楽しんでいただきたいので、陽の暮れ方なども考慮しながら。なかなか頭を使いますね!

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──イベント予算も考えて、コスト面にも気を使っていただいてしまいましたが、工夫した点はありますか?

束にして装飾に使用したススキは、実際に白樺湖周辺に生えているものなんです。ロケハンのときに秋風に揺らぐ姿にピンときて、早めに現地入りしたチームの皆さんに刈り取りをお願いしていました。

会場の雰囲気は壊したくないので離れたところから!できる限り大量に!というわがままなオーダーでしたが、笑顔で応えていただきました(笑)

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湖そのものの魅力を引き出すことで、コストをかけなくても楽しんでもらえる仕掛けも考えました。湖畔の木々の中にいくつか鏡を取り付け、気づいた人が覗き込むと、「湖畔とわたしだけの世界」が広がるようになっています。

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──当日は、ユニークな装飾に驚く人たちの姿もたくさん見られました!イベントを終えて、いかがですか?

仕込み予定だった日が雨で作業できず、当日の開場ギリギリまで装飾をしていました。もっと言えば、開場してからもあちこち飾り足したり動かしたりしていたんです。このゆるさが、来場者さんも含めて一緒に空間を創っているようで、「湖畔の時間」らしいなと感じました。

この手のイベントは大所帯になりがちですが、無駄のないミニマルなチームで、ライブのように空間を作れたと思います。仕込みもバラしも、プロジェクトメンバーの皆さんが泥だらけになりながら手伝ってくれて。全員が自分ゴトとして空間づくりを考えてくれていることに感激しました。

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──最後に、今回感じてくださった白樺湖の魅力や、これから訪れる人へのメッセージをお願いします。

終わったあとは白樺湖ロス……。私が訪れた11月の夜だけでも、たくさんの自然の魅力を感じることができました。

月明かりに照らされてわずかに見えるススキの影と、その動きでかろうじて感じ取れる穏やかな湖風。踏みしめたブーツの底から伝わる湿った土の感覚や、立ち昇る木の葉の匂い。かすかな虫の音と、ぼんやりと白く浮き上がる白樺の幹。

これは実際に現地を訪れ、自分の五感で感じて、初めてわかった感覚です。今回のイベントを通して、訪れてくれた皆さんにも白樺湖の魅力を伝えられていたら嬉しいです。この機会をくださったメンバーの皆さまには本当に感謝しております!

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「レイクタイム - 湖畔時間 - 」として新しいリゾートのスタイルや湖畔での過ごし方などの情報を発信しています。
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第1回、ロゴデザイン・アートディレクションを担当してくれた木本梨絵さんの記事もあわせてどうぞ。