見出し画像

Stripe:創業者が語るユニコーン企業の出口戦略


 プライベート・エクイティ・ファームであるカーライル・グループの創設者、デヴィッド・ルーベンスタイン(David Rubenstein)氏が各界の著名人を招いて行う「The David Rubenstein Show」というトークショーがあります。そのトークショーに、「Stripe」の共同設立者兼社長のジョン・コリソン氏が招かれた回のインタビュー・コンテンツを紹介したいと思います。

 Stripe(https://stripe.com/)は、サンフランシスコとアイルランドのダブリンに本社を構える2010年に設立された未上場のスタートアップ企業です。Stripeは、135以上の通貨と195を超える国のカード決済をサポートするオンライン決済サービスをクラウドサービスを通じて提供し、その他、サブスクリプション管理や不正防止、仮想カード発行、融資プログラムなどのサービスを様々なプログラミング言語や開発フレームワークに対応するAPIを通じて提供しています。

Stripeが提供する様々なサービス(クリックして拡大)

 Stripeの様々なサービスは、スタートアップからShopify、Amazon、Googleなどの大手企業まで、100万社を超える幅広い顧客層に利用されており、毎日2億件以上のAPIリクエストを処理し。その年間の決済取引額は、2023年現在で1兆ドルを超えています。
 Stripeは創業時に「Y Combinator」からシード投資を受け、その後、Sequoia Capital、Andreessen Horowitz、Kleiner Perkins、Fidelity Investments、Tiger Global Management、Peter Thiel、Elon Muskなどの著名な投資家からの出資を得ており、2024年7月時点での企業評価額は700億ドルに達しており、全世界のユニコーンの中でもトップ10に入るいわゆる“デカコーン”企業です。

ユニコーン企業リスト(TOP 10)(2024年09月19日付)
ソース:Crunchbase(クリックして拡大)

 実は同社、2022年から2023年にかけては、Stripeの事業が伸び悩み、2022年末には、従業員の14%を削減するリストラを断行。その後、事業のスリム化が進み、2023年度にはキャッシュフローが黒字化。2024年度の同社は、成長軌道への回復過程にあると聞いています。
 また、創業14年でこの規模の企業であれば、いつIPOするのか?という関心が高くなるのは当たり前ですが、今回、デヴィッド・ルーベンスタイン氏が踏み込んで単刀直入にインタビューしています。(どうやらジョン・コリソン氏にとっては、触れられたくないテーマの質問だったのか、それとも本心なのか、”当面、IPOは眼中にありません”的な回答が返ってきています。)






(1)トークショー・インタビュー


[デヴィッド・ルーベンスタイン](カーライル・グループ)
 最も価値のあるテクノロジースタートアップ企業の1社に、「Stripe」があります。この企業は、約10年前に大学を中退した2人の兄弟によって設立されました。Stripeは、人々の支払い手段を再構築している企業です。先日、その創業者の一人であるジョン・コリソン氏と、ニューヨークのオフィスでお話しする機会がありました。


① Stripのビジネス


[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 まず、Stripeとは一体どんな企業なのでしょうか?

[ジョン・コリソン](Stripe)
 Stripeは、オンラインで簡単に決済できるようにするものです。このアイデアは、私たち自身がインターネットビジネスを始めたときに思いつきました。テクノロジーやプログラミング言語、クラウドホスティングなどがどんどん進化している一方で、実際にビジネスを運営し、世界中からの支払いを受けるということが非常に難しいと感じたのです。例えば、オンラインでメディア・ビジネスを立ち上げて、月額20ドルで過去のコンテンツにアクセスできるようなサブスクリプション・サービスを提供するとします。その際、どうやってクレジットカードや銀行口座の情報を受け取れば良いのでしょうか?Stripeは、そのためのインフラを提供しているのです。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 Stripeという名前の由来は何ですか?

[ジョン・コリソン]
 Stripeは、元々「Slev」や「SL payments」といった名前で、間にスラッシュが入ったものでした。これはちょっとしたソフトウェアエンジニアリングのジョークだったのですが、皆が困惑する結果になりました。金融業界の人々には、怪しい詐欺集団だと思われてしまったんです。これについては、うまくいかないことがすぐに分かり、名前を変えることにしました。
 我々は、最適な名前を考えつつ、使用可能なドメイン名も探す作業を始め、「Pay Demon」という名前なども一時は検討しましたが、なぜか悪い名前に惹かれてしまうんですよね。最終的には「Stripe」に落ち着きました。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 Stripeを立ち上げる前、つまり以前は人々がどのようにして支払いを行っていたのか、教えてください。Stripeが誕生する前からビジネスは行われていましたが、その問題にどう対処していたのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 当時、最も一般的な方法は銀行に行くことでした。Bank of AmericaやChaseのような銀行でマーチャントアカウントを取得するのが普通でした。しかし当時、銀行はインターネット企業についてあまり理解していなかったんです。彼らはソフトウェアの専門家ではなく、銀行が提供するのは、ウェブサイトに組み込むソフトウェアではありませんでした。正直なところ、銀行にとっては少し趣味のようなもので、本業の延長線上のものでしかなかったのです。銀行のCEOが自身のビジネスについて話すとき、それが中心的な話題になることはまずありません。インターネットビジネスを簡単に運営できるようにする専門家はいませんでした。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 あなたは最初、スタートアップ企業向けにサービスを提供していましたが、やがてFortune 500、Fortune 100、さらにはFortune 50企業とも取引を始めましたよね。その過程で、何か変化はありましたか?
 Fortune 50企業のCEOと会うときには、スーツを着てネクタイを締めなければならなかったのでしょうか? どのように取引を進めたのか、教えてください。

[ジョン・コリソン]
 大手企業は、使っているテクノロジーが少し古く、ユーザー体験があまりスムーズでないというイメージを持たれるかもしれません。しかし、その企業の人と話すと、それは彼らの望んでいる姿ではありませんでした。大手企業は、より魅力的なユーザー体験を提供したいと考えて、我々に相談してくるケースが増えており、彼らはテック企業の提供するような優れたユーザー体験を求めているのです。
 例えば、フォードとは、オンラインで直接車を購入できる仕組みについて話しています。必ずしもディーラーを通す必要がないようにするためです。また、Hertzとは、車のレンタル体験をモダナイズするプロジェクトを進めています。全てがHertzのアプリ内で完結し、支払いもアプリで完了するようにし、レンタルカウンターでの待ち時間と手間をなくせないか検討しています。Amazonも同様で、世界中の人々が簡単に支払いできるようにしており、Urban Outfittersでは、オンラインで購入して店舗で返品したり、その逆が簡単にできるようにしたいと検討しています。これらの大企業は、スタートアップが行っていることを参考にし、「私たちも同じレベルの顧客体験を提供したい」と思っているのです。
 ですので、我々がテクノロジーやスタートアップの世界で培った基盤が、今こうして大手企業と話す際にも非常に役立っていると感じています。



② IPO、企業評価、VCとの関係


[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 シリコンバレーでは「ユニコーン」と呼ばれる言葉がありますよね。これは、急成長し、非常に高い評価額を得た企業を指します。Stripeは、その中でも特に大きなユニコーンと言えます。かつて、90億ドルの評価額で資金を調達したこともありましたよね。最近は少しその額が下がったようですが、それでも90億ドルは非常に高い評価です。多くの人が「そんなに高い評価額なら、なぜ上場しないのか?」と疑問に思うのではないでしょうか。Stripeは非上場企業ですが、なぜ今まで上場していないのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 多くのテクノロジー企業の上場は、少し早すぎるのではないかと感じています。Stripeの場合には、まだ事業を大きく変革して成長させる余地がたくさんあります。新しい製品を絶え間なく開発し、新たなビジネスラインを構築している最中です。もちろん、公開市場においてもそれらの取組みは可能ですが、文化的にも、上場企業は、四半期ごとの業績やガイダンスが過度に注目されてしまうように思います。上場企業は、成長段階よりも、シグモイド曲線でいうところの“収穫段階”に適した企業文化に辿りつくのではないでしょうか。
 一方で、Stripeは、まだ急速に成長しており、新たな製品に再投資し続けています。加えて、社員への報酬制度や優秀な人材の確保においても、非上場企業の方が有利だと考えています。上場企業だと、株式は誰でも市場で購入できてしまい、希少性がなくなります。また、上場企業は一時的な過熱を経験した後、長期間にわたって株価が横ばい、もしくは低迷することもよくありますが、非公開企業ではそのリスクは少ないと思います。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 以前、CFOをされていた方が退職された時、あなたがその後任として、社長とCFOを兼任されたんですね。その時の気持ちや、どう感じていたのか、教えていただけますか?

[ジョン・コリソン]
 幸運なことに、現在は本物のCFO、昨年入社したステファン・トムソンという方がいますが、ご存じの通り、私は約1年間、暫定的なCFOを務めていました。この経験は非常に有意義で、すべての創業者が一度は自分のビジネスのCFOを経験するべきだと思っています。それは、ビジネスの実務的な側面を深く理解することができるからです。
 私がCFOを務めていたのは2023年のことで、ちょっと不思議な時期でした。年初に大規模な資金調達を行いましたが、かなり大きなプライベートマーケットでの調達でした。その時期、2023年の始まりを振り返ると、皆が不安を抱えていて、投資を避けようとしていました。だからこそ、投資家に投資をしてもらうための努力が必要でした。
 その年は、景気後退を見越して、費用の見直しや経費削減にも注力しなければならない時期でもありました。実際には景気後退は来ませんでしたが、それに備えた準備は有益だったと思います。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 また、社員のリストラをしなければならなかったと伺いました。そのような決断は難しかったのではないでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 もちろんです。特に、ある意味では会社の責任でもありました。我々は必要な人員を予測していましたが、それが間違っていました。特に2023年や2024年の見通しが甘く、2022年の時点でその予測を見誤りました。優秀な人材がたくさんいる中で、会社にとって適切な組織構造ではなくなってしまった状況だったので、当然難しい決断でした。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 シリコンバレーの企業は、時々IPOを先延ばしにすることがありますよね。4年、5年、6年、10年と、時には14年も待つケースもあります。あなたの会社にとって、IPOは視野に入っているのでしょうか、それともあまり意識していないのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 そうですね、いずれはそういう時期が来るかもしれませんが、そのような大きな物語は、そのことがメディアに注目される瞬間であるがゆえに、非常にトランザクションにフォーカスされたものになります。しかしながら、Stripe内部の会議を見てみると、我々は主に「製品が顧客にとってきちんと機能しているか?」「新規顧客の成長はどうか?」「売上成長やEBITDAなど、ビジネスの基本的な財務状況はどうか?」といった点に集中しており、トランザクションやそれらの計画に多くの時間を割くことはあまりありません。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 また、プロの投資家、特にセコイア・キャピタルのような大手ベンチャーキャピタル企業から多くの投資を受けると、「素晴らしい製品だし、良い経営をしているから、もっと資金を提供するよ。でも、いずれ投資したお金は回収したいと思っているよ。」と言われることもあるかと思いますが、10年も経つと、IPOや投資資金の回収についての彼らからのプレッシャーを感じることはありませんか?

[ジョン・コリソン]
 私たちのベンチャー投資家は皆、複利で本質的価値を高め続けている企業に何らかの形で出資しており、それが彼らの興奮するビジネスなのだと思います。そして、例えばセコイアのような投資家を見ても、彼らが優れたベンチャー投資家であるかについては、もはや議論の余地はないと思います。彼らは、出資者に対して自分たちの実力を証明する必要はないでしょうし、それはすでに確立された事実です。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 テクノロジー企業が一番注目されていた時期、いわゆるバブルの時期に、あなたの会社の評価額が95億ドルくらいまで上がったと聞いています。スタートアップとしては驚くべき数字です。しかし、その後、テック業界が落ち込んだことで、最近では60億ドルほどまで下がったという話もあります。95億ドルから60億ドルに下がったことに対して、なにか落ち込むことはありましたか?それとも「これがテクノロジー業界の常だし、また上がるだろう」と冷静に捉えているのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 そうですね、価格に対して人々は面白い反応をします。上場市場では、2021年にSaaSやフィンテックに対して大きな熱狂がありました。Stripeと似た上場企業、例えばShopify(SHOP)やSquare(SQ)のような企業も、2021年にははるかに高い評価を受けていましたが、金利や経済環境の変化に伴い、それらの評価は下がりました。当然、それらは評価額に反映されるべきですが、非公開市場の場合では、それが少し複雑になります。他の企業が、現実的でない評価額を維持しようとするのを見かけますが、価格は需給のバランスや将来のキャッシュフローの推定値に基づいて決まるものです。価格について現実を直視しないのは、誰の利益にもならないと思います。



③ 株式のセカンダリマーケット


[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 社員が入社したばかりで、彼の株の保有量がまだ少ない場合についてです。その方は、あなたやご兄弟ほどの資産を持っていないかもしれませんが、少なからず株を保有しています。そして、「少し株を売却したい」と言うかもしれません。 株式公開していない場合、彼らはどうやって株式を売却できるのでしょうか?その場合、会社が彼らの株式を買い戻すのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 そうですね、我々はこれまでに2回、自社株の公開買い付けを実施しています。投資家とマッチングし、時には企業が自ら生み出したキャッシュを使って、株式の買い戻しを行い、株主に株式を売却する機会を提供しています。昨年も行い、今年も再び実施しましたし、今後もおそらく同様のプログラムを行う予定です。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 次に、このインタビューの視聴者が「この人はとても賢い方ですね。Stripeのことは聞いたことがあるし、素晴らしい会社です。評価額が次のラウンドで600億、700億、800億ドルになるかもしれません。投資してみたい」と思った場合の話です。既存のベンチャーキャピタルを通さずに、Stripeに投資する方法はありますか?

[ジョン・コリソン]
 投資家が直接的に関与しているわけではありませんが、Stripeに出資している企業の株主になって、Stripeの株を間接的に持つようなケースもあります。例えば、FidelityがStripeの一部株式を保有しているため、それを通じて間接的にStripeにエクスポージャーがあるかもしれません。ただ、覚えておいてほしいのは、私たちのビジネスは既に新規株式発行による資金調達をしていないということです。我々は現在、キャッシュを生み出しているので、取引される株式は従業員に流動性を提供するためのセカンダリーマーケットでの取引に限られています。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 今までに株式を売却したことがありますか?

[ジョン・コリソン]
 そうですね、私も過去に一度、公開買い付けを通じて株式を売却したことはありますが、今は長期的に会社にコミットしています。



④ 共同創業者との関係


[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 あなたは共同創業者であり社長だったそうですが、もう一人の共同創業者兼CEOはどなたですか?

[ジョン・コリソン]
 私の兄であるパトリックがCEOで共同創業者です。彼とは長い間一緒に仕事をしてきました。Stripeを創業してから14年が経ちますが、その前にも一緒にビジネスを立ち上げた経験があります。その経験がStripeを思いつくきっかけの一つでした。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 よく「兄弟間のライバル意識」という言葉を耳にしますが、あなたもお兄様とそういったライバル関係はありますか?彼はあなたより年上ですよね?

[ジョン・コリソン]
 もし兄と私がライバル関係にあったら、うまくいかなかったかもしれませんが実際には我々のこの関係は非常に価値があると思います。
 一般的に共同創業者との関係は、それぞれ異なっていますが、シリコンバレー全体を見ても、共同創業者の関係は不安定なことが多いです。大手企業、例えばApple、Microsoft、Google、Facebookなども、創業時のチームが必ずしもそのまま続いているわけではありません。
 Stripeの場合、インターネットのGDP(国内総生産)を成長させ、インターネット経済を拡大するというアイデアに我々は非常にエキサイトしていますが、14年経って、ある程度の基盤は築けていますが、これからの10年、20年でさらに面白いことができると思っています。長期的な視点で取り組めるのは、信頼できる共同創業者との関係があるからです。それによって事業も安定し、楽しさも増し、長く続けやすくなります。パトリックとの関係はとても恵まれていると感じています。



⑤ 創業秘話とビジネス拡大の契機


[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 それでは、あなたのバックグラウンドやどうしてこの道に進んだかについて伺いたいと思います。お話を聞く限り、ニューヨーク出身ではないのですね。

[ジョン・コリソン]
 そうなんです。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 元々どちらのご出身ですか?

[ジョン・コリソン]
 私はアイルランド出身です。そこで育ち、その後大学進学のためにアメリカに来ました。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 アイルランドで育たれたそうですが、きっと学校では優秀だったのでしょう。それでもハーバード大学に入るのはアイルランドからだと難しいと思いますが、なぜハーバード大学を選び、そしてなぜ中退されたのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 ハーバードに通って、当時は、とにかく外に出て世界を見てみたいという気持ちが強かったのです。学問は好きで、学校や勉強も楽しんでいたのですが、もっと違う場所に行きたかったんですね。小さなコミュニティで育つと、そう感じることはよくあるかもしれません。そんな気持ちから、ハーバードに進学しました。
 大学時代に、Stripeを立ち上げました。私はハーバードにいて、パトリックは少し離れたMITにいました。2009年頃、我々はこのアイデアについて話し始めました。当時は、たくさんのインターネット企業が誕生していたのですが、どの起業家に聞いても、支払い処理が一番の悩みだと言われていました。我々はまだ19歳と21歳で、業界での経験は全くありませんでした。面白いことに、Stripeのような規制の多い金融サービス企業を始める上で、その経験の無さがかえって役に立った部分もありました。実際、Stripeのようなものを作るのは非常に複雑なんですが、我々は少しずつその世界に足を踏み入れていきました。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 ハーバード大学には1年だけ在籍されて、その後中退されたのですね?

[ジョン・コリソン]
 はい。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 ご両親には「次のビル・ゲイツかマーク・ザッカーバーグになるよ」とお話されたのでしょうか?それとも学位を取ることの重要性について何か言われましたか?

[ジョン・コリソン]
 実は全く逆なんです。大学に行くためにアイルランドを離れるとき、母に言ったんです。というのも、以前パトリックが大学を中退していたので、母からは、「行くなら4年間きちんと通って、全部やり遂げなさい」と言われて、私は「もちろん、4年間通って卒業するよ」と答えたのです。でも、その約2か月後には、Stripeのコードを書き始めていました。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 最初の資金はどのようにして調達されたのですか?

[ジョン・コリソン]
 多くの人がやるように、まずは友人や家族、繋がりのある人から少しずつ資金を集めました。最初の投資家は、ポール・グレアム、サム・アルトマン、そしてピーター・ティールでした。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 彼らは初期の段階で支援してくれたんですね。その時点ではまだ収益もなく、アイデアしかなかったのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 私たちには少数の顧客と少しの売上がありましたが、特に言及できるようなものではありませんでした。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 会社が軌道に乗り始めた後、どのタイミングで「本格的な事業だ」とベンチャーキャピタルに訴えかけることができるようになったのですか?

[ジョン・コリソン]
 初期の投資家は、創業チームやプロダクトなどに非常に注目します。Stripeの初期投資家も、まさにそうした部分に着目していたと思います。当時、私たちには50社ほどの顧客がいたと思いますが、とても説得力のあるデモを用意していて、それは、「いかに素早く決済できるようになるか」を示すものでした。実際、今でも誰かにStripeを紹介する際には、Stripe.comにアクセスしてログインすれば、わずか5分で世界中からの決済を受けられるようになるという点をお見せできます。それは当時のデモでも、現在のデモでも同じです。
 また、投資してくれている投資家には、彼らが知っているテック系の起業家に「決済に関する課題はありますか?」と尋ねることをお願いしていました。すると、投資家は自分の投資ポートフォリオの企業の1社に電話をかけて、「君たち、決済で何か問題を抱えていない?」と尋ねると、電話口の向こうから、既存のプロバイダーがいかにひどいか、怒鳴り声が聞こえてくるような状態で、いかに当時の決済プロバイダーに多くの問題があったかを示していました。結局のところ、初期の投資家は、「これは良いアイデアであり、良いプロダクトであり、現実に存在する問題を解決している」と評価していてくれていました。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 あなたはテクノロジー業界ではかなり有名ですよね。ニューヨークの街を歩いていても、みんながあなたに気づくかどうかはわかりませんが、シリコンバレーでは、きっと多くの人が「これが私の履歴書です」と話しかけてくるのではないでしょうか。シリコンバレーのレストランに行っても、誰かに声をかけられたり、何かを頼まれたりせずに過ごすことはできるのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 実際、そんなことはなく、問題はありません。我々は企業向けにサービスを提供しており、テレビに頻繁に出るわけでもないですし、そもそも多くの人が決済業界にそれほど興味を持っていません。むしろ、そのことは好都合であって、地味な業界にいるのは悪くないと思っています。



⑥ 長期ビジョンと社会貢献


[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 今、おいくつですか?

[ジョン・コリソン]
 33歳です。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 仮に、43歳、53歳、63歳になったとき、どのような自分でいたいと思いますか?裕福な起業家でいたいのか、もう一度会社を立ち上げたいのか、それとも素晴らしい慈善家やアートコレクターになりたいですか?10年後、20年後、30年後にどんな野望をお持ちですか?

[ジョン・コリソン]
 まず最初に、私はStripeの企業運営に非常に満足していますし、20年後も引き続きStripeを運営していると思います。この分野は、時間をかけて取り組む価値がある問題だと思っています。現在、決済業界は大きく変化しています。15年前は、ほとんどの人がクレジットカードでオンライン決済をしていましたが、今では国ごとに異なるシステムが存在しています。たとえば、インドのUPIや、中国のAlipayやWeChatなどです。こうしたシステムを結びつけるためには、Stripeのようなプラットフォームが必要です。商取引のデジタル化はまだ初期段階にあり、とてもやりがいのある課題です。私は20年後もこの問題に取り組んで喜びを感じているでしょう。
 一方で、我々は慈善事業にもますます関心を持つようになっています。より草の根的な方法で行うことを学んでいるところです。我々はバイオメディカル研究所の設立を支援したり、さまざまなプロジェクトにも関与しています。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 ビル・ゲイツから、ギビング・プレッジにサインするように勧められたことはありますか?

(訳注)
"The Giving Pledge"とは、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが2010年に共同で設立した慈善活動のイニシアチブです)

[ジョン・コリソン]
 まだ彼にはそのことについて話していません。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 このインタビューが終わったら、きっと彼から電話がかかってくるでしょうね。

[ジョン・コリソン]
 我々はすでに多くの寄付を行っており、プログラムに参加しています。

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 よく起業家は、「素晴らしいアイデアが1つあるんだから、自分は賢いし、もう1つ素晴らしいアイデアを思いつけるだろう」と言いますよね。「今、1つ素晴らしいアイデアがあるから、別の会社を立ち上げたい。自分は賢いから次の素晴らしいことも考えられるはずだ」と。あなたも別の会社を立ち上げたいという強い野心があるのでしょうか?それとも、今の会社が人生をかけて情熱を注ぐ場所になるのでしょうか?

[ジョン・コリソン]
 一つの良いアイデアを持つだけでも難しいものです。チャーリー・マンガーの「シンプルなアイデアを本気で取り組む」という素晴らしい言葉がありますが、もしかしたら多くの人が自分の核心的なアイデアを十分に大切にしていないのかもしれません。Stripeの基本的なアイデアは、「コストを下げて簡単にすれば、もっと多くのインターネット企業が成功し、インターネット商取引が発展するだろう」というものです。このアイデアを我々は本気で追求しています。

チャーリー・マンガー

[デヴィッド・ルーベンスタイン]
 このインタビューを見ている誰かが、Stripeについて何かを学びたいと思ったときに、あなたが伝えたいことをまとめるとしたら、どのように説明しますか?Stripeについて知っておいてほしいことを要約してもらえますか?

[ジョン・コリソン]
 一つのアイデアを本気で取り組むという考え方ですね。私たちも「インターネットビジネスが簡単にお金を受け取れるようにしたい」というシンプルなアイデアから始め、それをとにかく追求し続けました。ただ、シリコンバレーの起業家たちは、振り返って自分たちのストーリーを整理して、最初からすべて計画通りだったかのように話すことが多いと思います。「私たちの使命は最初からXYZを解決することだった」と言う感じに。でも実際のところは、少しずつ試行錯誤しながら進んでいくことが多く、その過程で学びがあるんです。ドメインに真剣に向き合えば、そこから多くを学べると思います。
 たとえばStripeも、初めはグローバルな決済インフラとしてこれほどの大きなチャンスがあるとは思っていませんでしたが、顧客から学んでいきました。また、大企業がStripeを使うなんて想像もしていませんでした。AmazonやHertzのような大企業が顧客になるとは、創業当初はまったく思っていなかったんです。でも、徐々に大企業が私たちにアプローチしてきて、彼らが私たちのサービスを必要としていることに気づきました。また、DoorDashやInstacartのように、当初は非常に小さな企業が、今では成功して上場企業になっています。
 結局のところ、多くの人が見落としがちなのは、その分野にしっかり向き合っていれば、自然とその分野について学べるということです。市場の声に耳を傾けることで、多くのビジネス成功が生まれるのだと思います。



(2)オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

The David Rubenstein Show(Bloomberg)より
(Original Published date : 2024/09/19 EST)

[出演]
  The Carlyle Group
    デヴィッド・ルーベンスタイン(David Rubenstein)
    Co-founder

  Stripe
    ジョン・コリソン(John Collison)
    Co-founder and President

[収録]
    6月11日にニューヨークで収録



以上です。


<参考コンテンツ>


<御礼>

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 
だうじょん


<免責事項>

 本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。


いいなと思ったら応援しよう!