素っ気なさとやさしさは共存する/人間交差点(映画「ゴースト・トロピック」感想)
レイトショーで「ゴースト・トロピック」を観た。
ベルギーで掃除婦として働く主人公が仕事帰りの終電を乗り過ごし、夜のブリュッセルの街をひたすら歩く話。
警察官。
救急外来の医者・看護師。
ガソリンスタンドの店員。
道中で出会うのは、寝静まった街の番人達。
みんな最初はそっけないのだけど、身の上話をしてくれたり車で送ってくれたり、なんだかんだ優しい。
そういえば、昔ヨーロッパに留学していた時もこんな感じだった。
めちゃくちゃ愛想が良いわけではないけど、困っていると声を上げたら絶対に無視しない。
そっけなさと優しさって共存するんだな。
エドワードホッパーやソールライターを彷彿とさせる、絵画的な色使いと構図が多いのも印象的。
電気を点けたり消したりする描写がしばしば登場するのだけど、このスクリーンから余計なものを削ぎ落とそうとするミニマルな画作りがとても好き。目が潤う作品。
鑑賞中、映画「The Half of It」のセリフを思い出した。
人には考え事をする時間が必要だ。
みんなが話すのに忙しい日中では出来ない。
だから夜があってよかった。
ゴースト・トロピックを観て改めて思った。
映画の真似をして、帰りに家の近所を徘徊してみた。
私の住んでいる街はあまり治安が良くないことで定評がある。
駅前のコンビニにたむろっているやんちゃボーイズ。
終電間近というのに帰りたくなさそうにイチャついている男女。
道端に座り込んで大声で言い合いをしている40代くらいの男女の集団。
どういう事情なのか分からない人達が沢山いるこの街は、社会の縮図みたいで好きだ。
大学時代の社会学の教授は、深夜の新梅田食堂街のマックのカオス具合を「人間交差点」と表現していた。
私の住む街も梅田のマックに似ている。
ゴースト・トロピックの舞台は梅田のマックには似ても似つかないけれど、色んな人生がそこにあるという意味では人間交差点だった。
世界にはそんな街が沢山あるんだろうな。