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「南海トラフ地震と直接関係がありそうか否か」を暫定的に調べる方法。

 4月17日午後11時14分ごろ、豊後水道の深さ39㎞でマグニチュード(M)6.6の地震が発生しました。愛媛県愛南町と高知県宿毛市で最大震度6弱を観測しました。まずは地震の被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

 南海トラフ地震との関連性がいつも以上に話題になりました。発生場所が特に南海トラフの震源域に近かったからです。そして、今回も専門家からよく聞かれたのが「南海トラフ地震とは直接関係ない」というコメントです。直接関係があるとか、ないとか、どういうことでしょうか。


南海トラフ地震との関連をどう判断するか

 南海トラフ地震との関連をどう判断するか―。あくまで暫定的で簡易的ですが、大学・大学院で構造地質学を専攻していた自分が防災担当の新聞記者として長年やってきた方法を紹介したいと思います。

 大きめの地震が起きたとき、大まかに2つの要素に注目します。「深さ」と「メカニズム」です。それぞれ説明します。

まずは「深さ」

 まず「深さ」ですが、なぜ重要かというと、南海トラフ地震はフィリピン海プレートが陸側のプレートに沈み込むことで起きるからです。起きた地震の深さがもしこの2つのプレートの境界の深さと同じなら、「プレート境界が動いた=南海トラフ地震の震源域が動いた」という可能性が出てきます。

 気象庁からの図を引用します。右側から沈み込んでいるのがフィリピン海プレート、②で赤くなっているところが震源域です。地震の深さがこの赤いところの深さだと、危ないということになります。

【引用元】気象庁
https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/nteq/nteq.html

 例えば「フィリピン海プレート 等深線」とグーグル検索してみてください。フィリピン海プレートが日本列島の下にどういうふうに沈み込んでいるかがこれで分かります。

 有名なところでは、気象庁気象研究所の弘瀬冬樹さんのホームページ(https://www.mri-jma.go.jp/Dep/sei/fhirose/plate/PHS.html)にある次の図が出てくるかと思います。

【引用元】気象庁気象研究所HIROSE Fuyuki's HP
https://www.mri-jma.go.jp/Dep/sei/fhirose/plate/PHS.html

 ここで豊後水道の今回の地震の震央付近を見てください(青線で描かれた円の上あたり)。ちょうど30㎞の赤い線(等深線)が通っているかと思います。つまり、地震があった場所では地下30㎞の深さにプレート境界があることが分かります。一方、気象庁の発表によると、今回の地震の深さは39㎞だったので、「プレート境界より深い=フィリピン海プレート内部で起きた可能性が高い」と推定できます。これはひとまず安心材料になります。逆にちょうどプレート境界の深さと重なっていた場合は、一気に緊迫感が高まります。今回の場合、速報値は深さ50㎞だったのでフィリピンプレート内部の地震とはっきり言えたのですが、その後に深さが39㎞に修正され、9㎞しか違いがなくなってしまったので微妙な感じでした。

次に「メカニズム」

 深さが微妙でしたので、次に「メカニズム」を見てみましょう。国立研究開発法人防災科学技術研究所のHi-net高感度地震観測網のサイト(https://www.hinet.bosai.go.jp/?LANG=ja)に行ってみてください。ホームページの一角に「AQUAシステム震源速報」というコーナーがあります。

【引用元】防災科学研究所Hi-net高感度地震観測網のサイト
https://www.hinet.bosai.go.jp/?LANG=ja

 ここに速報で描かれるボールのようなものが「震源球」と呼ばれるもので、地震のメカニズム(発震機構)を示しています。球には白い領域と色の付いた領域(黄色い領域)があります。ざっくり説明すると、白いところには押す力(圧縮)がかかっていて、色の付いたところには引っ張る力(引張)がかかっています。この図は正断層型を示唆しますが、もし白と黄色が逆になった場合、つまり、この図で白いところが黄色い領域になり、黄色い領域が白い領域になっていたら、メカニズムは逆断層型ということになり、プレート境界が動いた可能性が出てきます。

 大きめの地震の場合、気象庁も少し時間が経ってからこの震源球をホームページ(https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/mech/index.html)で公開します。「発震機構解」と呼ばれています。今回の豊後水道の地震で気象庁が描いた震源球が次の図です。AQUA震源速報とは少し走向(向き)が違うものの、いずれも正断層的なメカニズムを示唆しており、プレート境界で起きるような逆断層型ではなかったと言えます。先ほどの深さだけでは少し微妙でしたが、このように「深さ」と「メカニズム」の合わせ技で「南海トラフ地震と直接の関係はなさそうである」と推定することができます。

【引用元】気象庁発振機構解(精査後)>CMT解
https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/mech/cmt/fig/cmt20240417231448.html

想定南海トラフ地震の発震機構解を満たす地震の例

 ちなみに、気象庁の資料によると、想定南海トラフ地震の発震機構解を満たすような地震とその震源球は次の通りで、意外とちょこちょこ起きています。ただ、やはり今回の豊後水道の地震の震源球とは配色が違うことがよくわかると思います。

【引用元】南海トラフ地震関連解説情報について -最近の南海トラフ周辺の地殻活動-[PDF形式:17.7MB]
https://www.jma.go.jp/jma/press/2404/05a/nt20240405.html

 

まとめ

 まとめます。何か大きめの地震が起きたとき、まっさきに「深さ」と「メカニズム」に注目します。①フィリピン海プレートの等深線をみて、地震が起きたのがプレート境界だったのか、フィリピン海プレートの内部だったのか、陸側プレートの内部だったのか、を推定します。次に、②地震の発震機構解(震源球)をみて、逆断層型か否かを見ます。

 もちろん実際に南海トラフ地震と関係があるかどうかは、もっと複雑な検討が欠かせません。多くの専門家がかなり検討を重ねても、南海トラフ地震との関係性ははっきり言えないのが実情かもしれません。ただ、こうしたことを知っていて、自分でちょっと調べてみるだけで、少しだけ落ち着くことができるのではないかと思います。少なくとも私は大きめの地震が起きたときは、このあたりをすぐに調べて、社会部の初動の参考にしています。

 間違った理解や記述がありましたらご指摘いただければ幸いです。プレートの等深線や発震機構解に一人でも多くの方に興味を持ってもらうことで、防災や「南海トラフ地震臨時情報」の理解が少しでも進めばと願います。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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