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キューバの話 #1

写真を撮る人にとって、キューバは最も魅力的な国の1つだと思う。コロニアルな街並み、オールドカー、葉巻をくゆらす人々。そう、フォトジェニックのお手本のような国だから。

でも私にとっては、もう一回行きたいか、と言われると「うーん…」と答えにつまる国なのだ。

キューバを訪れたのは2016年夏のことで、転職の合間を使っての1人旅だった。

今思うと、いい歳なのかな航空券以外現地でなんとかしようと行き当たりばったりが強過ぎた。インターネットが規制されている国のため、宿や食事処の情報が思ったように集められないまま渡航してしまった。かろうじて頼りになるのは「地◯の歩き方」だけで、それもキューバとカリブの国々、といううっすい情報しかない1冊だけだった。

話し相手を探して観光客のこない、ローカルなコーヒースタンドに寄った時のことだった。カウンターしかないお店で相手してくれたのは威勢のいいおばちゃんで、私の顔を見て「最近はスペイン語の上手い中国人が多いわねー」と話し相手になってくれた。
「みてこれ、中国の首相が来てたのよ」と新聞を広げるおばちゃん。
「いや、だから日本人だけどね」と私。
奥にいる家族にむかって「ねぇ!ゲバラのコイン持ってない!?このチニータにあげたいの!!」
「ええと…まぁいいや」
なんかいっても私を中国人と呼ぶおばちゃんには悪意は全くないと思う。きっと日本と中国の違いをわかってない。アジア人を総じて”中国人”と呼んでるだけ。

久しぶりの感覚だった。

1人でハバナの街中を歩いていたら若いお兄ちゃんに「チニータ!(中国人ちゃん、の意)」に続けて卑猥な言葉を投げられた。1回だけじゃなく、外に出れば必ず、という感じだった。
中指突き立てて「日本人じゃ!!」と怒鳴ってやろうと思ったけどそんな元気もないし、なんかあったらと思ったらめんどくさい。ここにはSNSを賑わせる#metooなんて存在しなくて、男尊女卑や差別がどこにでも転がってる。

中南米は初めてじゃないし10年前のアルゼンチンでもガン見されたり色々言われたことあったはずで、こういうことには慣れてると思ってた。久しぶりのリアルな反応に、意外と傷ついている自分がただ取り残された。

私が帰国直後にフィデル・カステロがなくなった。目まぐるしく変わっていく、というキューバは、街や人は、どうなるんだろう。変わらず舌足らずのあのスペイン語で、私をチニータと呼ぶんだろうか。

旅に行くと大抵もう少し、人々と近くなれる。
それが旅の醍醐味でもあるんだけど、キューバの距離感は遠かった。

私はどこまでも異分子だった。

#旅 #海外 #フィルム写真 #キューバ

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