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“何もない”からこそ、何でもできる場所 | LACユーザー・小仙浩司さんインタビュー

2020年7月にオープンしたLivingAnywhere Commons八ヶ岳北杜(以下、LAC八ヶ岳北杜)は、“LivingAnywhere”を体現すべく生まれた拠点です。
拠点のテーマは衣食住や水道・電気・ガスといった既存のインフラから解放された「オフグリッド」で、常設のShopbot(図面データを送ると、合板を自動でカットしてくれる機械)やレーザーカッターを使い、ものづくりに没頭することができます。

今回はこのLAC八ヶ岳北杜のユーザーの小仙さんをインタビューしました。小仙さんは「みんなのダンボールマン」という愛称で親しまれているように、ダンボールのワークショップやダンボール調達の仲介などの活動を行っています。

お仕事の話から、LAC八ヶ岳北杜をとおしてご自身の活動とどのような相乗効果があったか、また使い勝手はどうだったか、さまざまなお話を伺いました!

ダンボールに興味を持ったきっかけは”路上生活者の家”

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ーーまず、現在されているお仕事を教えてください。

個人や中小企業向けにダンボール調達の仲介・流通をしています。
ダンボールは最低ロット数が決まっているケースが多く、小ロットの生産やオリジナルデザインのダンボール制作は断られるケースが多いんですね。

そこで僕が小ロットの案件をまとめて、大きいロットにしてダンボール業者に発注するといった役割を担っています。

ーー続いて過去の経歴について聞いても良いでしょうか。

建築事務所でグラフィックデザインを担当していたんですが、ちゃんとグラフィックの勉強をしていなかったこともあって、写真の補正や合成といった作業がまぁ大変で。

出版関係へ転職も考えましたが、色味や文字数が多くそれも大変そうだなと。それに対しダンボールは標準色が11色なんですね。色数も文字数も少ないし、出版物よりロットも少ないし(笑)

学生時代からダンボールのラフなグラフィックに興味を持っていたのもあって、「ダンボール DTP 求人」と検索してみたらダンボール印刷の製版会社がヒットしました。

面接でダンボールグラフィックにたいする興味を熱く語ったら、なかなかめずらしかったようでそのまま就職することになりました。そこで10年ほど勤めた後、横浜のダンボール工場に一年半ほど勤務し、独立して現在にいたります。

ーーダンボールに最初に興味を持ったきっかけは?

大学では建築を専攻していて、当時アノニマスやセルフビルド建築に興味を持っていました。ある時、友達を訪ねに九州に行ったら、泊めてくれるはずだった友達からドタキャンされてしまって。

駅の周辺でどこか泊まれる場所を探さなきゃと思っていたら、ダンボールを持った方々が集まってきて自分たちの家を作り始めたんですね。もともと興味があるものだからしばらく見ていると、いろいろなタイプの家ができあがっていくんです。

そのなかに、ある引越し業者さんのダンボールだけを使っている人がいたんです。他の人はいろいろなダンボール使っているので雑然としていたんですけど、その人のお家だけパンダがずらっと並んでいてかわいいなと思ったんですね(笑)

このときダンボールハウスもグラフィック次第で見え方が変わるというのを目の当たりにしたんです。

ーーきっかけはそんなところにあったんですね!(笑)

そうなんです。ちょうど僕が建築学生だった頃は、「スーパーフラット」(当時の現代美術の芸術運動で、平面的で二次元的な絵画空間を持ち、遠近法などの技法をあまり使わない表現)という概念が注目されていたんですね。このダンボールハウスもスーパーフラットだよなと思ったら、どんどん興味が湧いてきました。

ダンボールをもっとおもしろく。良さを広めたい。

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ーーダンボールの仲介・流通のお仕事について、もう少し詳しく教えていただけますか?

ダンボールってダンボール屋さんで注文するんですけど、普通のみかん箱タイプのダンボールにせいぜいロゴや品名を印刷するくらいだったら、小ロットでもネットで注文できるんです。

だけど、グラフィックデザインや紙の材質にこだわろうとすると、ダンボール屋さんに直接発注するって結構大変なんです。ある程度のロット数が必要だったり、まずデザイン的なこだわりを共有するのが難しかったり。

幸いにも、僕はデザインに興味を持ってこの業界に入ったので、お客さんのこだわりも理解できるし製造側にもいたので、出来ることや出来ないことや業者さんの気持ちもわかるんですが、なかなかお互いの言ってることや想ってることが伝わってない感じがあって。

その間のコミュニケーションをスムーズにするだけで、結構実現するアイデアもあったりするんですけど、間に入る人ってなかなかいないんですよね。ことダンボール業界に関しては。ロットの少ない仕事に、そんなコミュニケーションコストをかけてられないっていう。

なので、ダンボール屋さんの営業マンをする代わりにお客さんとデザイン的な打ち合わせをして、お客さんの資材担当者の代わりにダンボール屋さんと製造方法について折衝するっていうのが、僕の仕事です。

基本小ロットのお仕事が多いんですが、小ロットでも案件まとめると中ロットくらいにはなるし、打ち合わせも話のわかる相手と一回で良いから、ダンボール屋さんにとっても楽なのかなと。面倒な案件も多いですが(笑)

ーーなかなかニッチな市場ですね。ダンボールのワークショップもされているとお聞きしたのですが、ワークショップを始めたきっかけは?

異業種交流会で「ダンボール表面に印刷をするために使うハンコみたいなものを製造している会社に勤めています」と自己紹介しても、「ダンボールに印刷?ハンコ?」と全くピンと来てもらえないことが多くて、もっとダンボールのことを広めるワークショップをしたいと思うようになりました。

「こういう使い方したら便利です」みたいにダンボールの楽しみ方を伝えたり、僕が思うダンボールのおもしろポイントみたいなものを漫談っぽく喋ったりしていたら、ダンボールの人と紹介されるようになって、それがいつのまにか「みんなのダンボールマン」というキャッチコピーになり、今に至るという感じですね(笑)

“何もない”からこそポテンシャルしかない。村を作るように自分たちの空間を作れる

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ーーLAC八ヶ岳北杜を利用するようになったきっかけは?

工場を退職してフリーランスになった時に、小さい子供たちのいる自宅での仕事がなかなか馴染めなかったんですね。玄関先に駐車スペースがある借家だったので、買った車をそこに停めて家から電源やWi-Fi引っ張ってそこを僕の事務所にしていました。そして子どもが小学校に上がるタイミングで、僕と妻の実家がある岡山に引っ越すことにしたんです。

わりと全国に仕事の案件があったので、僕ひとり車で「HafH」や「Go To トラベル」を使って全国を周りはじめた時に知り合ったジョニーさんが、八ヶ岳でおもしろそうなことを始めてるのをオンライン配信で知って、去年の7月にLAC八ヶ岳北杜に来ました。

その後2020年10月に正式にLACの会員になって、今はLAC八ヶ岳北杜に2週間、岡山に2週間という生活をしています。

ーーLAC八ヶ岳北杜の魅力について教えてください。

近くには山や川などの自然が広がっていて、富士山も眺められるという魅力もありますが、それよりは都内や周辺地域へのアクセスやここに滞在している人のおもしろさが魅力ですね。最初にLAC八ヶ岳北杜に来たときは、ホントまだ何も揃っていなくて、ジョニーさんが所有しているバンと建物とポテンシャルしかない感じでした。

ーーはじめてLAC八ヶ岳北杜に来た頃は、なにもなかったんですか?

そうですね(笑)ようやくWi-Fiがつながったくらいの時期で、最初ここに来たとき、電気もつけずに地べたでPC開いて仕事している人がいて、「あれ?まだ来ちゃダメなところだったかな」って(笑)

晩ごはんもみんな各自で作っていて、どうしたもんだろうとうろうろしていたら「ごはん食べます?」「あ、良いんですか?」という感じでふわっと溶け込んでいきました。

ーー衝撃的な体験ですね。

さらに、来ていきなり施設のマニュアル作りの手伝いを頼まれて、言われるがまま原稿をまとめてたんで、この施設の目的や利用方法を理解してきたのですが、全部読んで来る人は少ないじゃないですか、たぶん。

一旦岡山帰ったあと、また来ようと思った理由は「伝えることややることがありすぎて、このままだとオープンできなくない??」だったんですね(笑)でも、それは言い換えれば、やり方次第でここの人たちと一緒に居心地の良い場所にできると気付いたんですよ。DIO(※1)したいって。

※1 DIO
Do It Ourselvesの略で、LACが大切にしている価値観の一つ。LACの拠点は遊休施設が多く、そういった場所をユーザーと一緒により良いものに作り上げていく文化がある。

ーーLAC八ヶ岳北杜を利用してみた感想は?

何もないけどたくさんあるって感じですかね。やることだらけ。むしろ暇しているときがないから逆に仕事ができない(笑)
ここもこうしたいといろいろ気が付いちゃうんですよ。それがすごく楽しくてやりがいだらけだなと思いますね。

ただ、ここでのやることが増えると仕事とのバランスが難しくなるので、付かず離れずの距離感を保って、永く関わっていきたいと思います(笑)

ーー自分が表現したいことを自由に表現できる場所ということでしょうか?

僕は表現したいというよりは、足りないと思うものを自分たちで作って用意するのが楽しいんですよね。自分の活動と生活がリンクしていておもしろいというか。

ーーまさに、ダンボールハウスの原点につながるというか、サバイブしている感覚ですよね。

そうですね。あのときは自分がノマドのような生活しているとは思っていませんでしたが、全部用意されていて「なんか過ごしやすいね」ではなくて、自分たちでやらないと実現していかないんですよね。でも、人が来るたびに実現できる環境が整っていくので、それがすごくおもしろいです。

LACは新しい生き方や働き方と向き合える場所

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ーー日頃は、LAC八ヶ岳北杜をどのように利用されていますか?

さきほどもお話ししたように、仕事の作業場として使わせてもらっているのと、空いた時間でLAC八ヶ岳北杜をより良い場所にする活動をしています。ここには広い作業台や工房もあるし、最近Shopbotも導入されたので、できることも増えました。普段リモートで仕事しながら、空いた時間で場作りに関われる機会ってあまりないじゃないですか。

ーーたしかに、いわゆる一般的なコミュニティとは違って、未完成で余白が大きいからこそ、最初は戸惑う人も多そうですね。

そうですね。ここって「オフグリッド」というテーマの他にも『Be outsiders』というスローガンを掲げているんですが、最初、LAC八ヶ岳北杜に来られた方は、ここにいる人たちはみんなグリッドから外れているアウトサイダーのように感じるかもしれません。

しかし、僕自身も「会社勤めをして定年まで勤める」や「キャリアアップするために転職」といった価値観の中(インサイド)にいて、そこを飛び出したら結構いろんなものが見えるようになったと思うんです。さすがにすべての既成概念から解放されたいとは思わないですが、ここに来て少し世界が広くなった気がするんですよね。

どうしても今は内にこもっていることを強いられる状況ですが、部屋の内外だけの話じゃなく、気持ちを少し外に出すのも良いんじゃないって。

そういった新しい生き方や働き方を考えるなら、とても魅力的な場所だと思いますね。

ーーなるほど……既成概念に囚われないLAC八ヶ岳北杜のような環境に身をおくことで、徐々に自分の世界が広がっていくということでしょうか。なかなか興味深いです。

逆に僕らもここだけにいると、どんどんアウトサイダーになっていくんですよ(笑)
アウトな人たちになってしまうのは違うよねと話していて。もともとここは保養所だった背景があるので、ふもとから上がってきた人と、もっとカルチャーを体現したい人との中間地点にしていければ良いなと感じています。ダンボールの仕事と同じように!

ーー今後の展望について教えてください。

今後は、全国の農家さんの収穫のお手伝いをしながら、ダンボールの営業をしていければと思っています。農家さんにとって出荷用のダンボールは商品パッケージなんですね。
農家さんだと収穫の時期がある程度決まっているので、こちらも出荷量の予測も立てられるし、季節に応じて南から北まで一周すれば順繰りに毎月違う仕事で回していけるじゃないですか。

そうなってくると、本当にAnywhereな生活ができるだろうし、さらにこのモデルをプラスチック業界などに横展開していって、プラスチックマンと名乗るのもおもしろいですよね。

また多拠点生活ということもあり、いろんな人同士のハブになれるというのは感じています。今後も引き続き、ダンボールを通じていろいろな人の出会いを紡いでいけたらと思います。

《小仙浩司さん(みんなのダンボールマン)》
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▼LivingAnywhere Commons八ヶ岳北杜

《ライター:俵谷龍佑

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