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街と人、人と人とを繋ぐ | LAC熱海コミュニティマネージャー・廣野みすずさんインタビュー

2021年10月、LivingAnywhere Commonsに新しく5つの拠点が加わりました。そのうちの1つが、「LivingAnywhere Commons熱海」(以下、LAC熱海)です。

LAC熱海の最寄駅であるJR熱海駅までは、東京駅から新幹線で45分。普通電車でも乗り換えなしで2時間かからずに行くことができます。駅から15分ほど歩くと、熱海銀座商店街に着きます。この古さと新しさが同居する熱海銀座商店街の一画にLAC熱海の拠点があります。

「熱海の一番の魅力は人です」

力強く言い切るLAC熱海コミュニティマネージャーの廣野みすずさん(以下みっすーさん)に、LAC熱海コミュニティマネージャー就任までの経緯や、LAC熱海の特徴、かつては温泉街として賑わいを見せた熱海が抱える課題と魅力についてお話しいただきました。

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ずっと熱海にいるつもりはなかった

── ついにLAC熱海がオープンしました。まずはLAC熱海の特徴について教えていただけますか?

LAC熱海は、「guest house MARUYA(以下MARUYA)」「naedoco」「ロマンス座カド」の3つの施設で構成されています。3施設とも新たに建てた施設ではなく、昔からある古い建物をリノベーションしてつくったことが共通しています。長い間使われていなかった物件を、オーナーさんの思いと共にたくさんの人が関わってつくりあげた場所なんです。

「MARUYA」は、かつては喫茶店やパチンコ店の倉庫として使われていた場所で、その後10年間は空き家だった物件をリノベーションしてつくりました。コワーキングスペースの「naedoco」は、オーナーさんはいますが約57年間使われていなかった2階部分をリノベーションしています。全室個室のゲストハウス「ロマンス座カド」は、熱海最後の映画館でした。

それぞれの建物に個性があり、一見すると全く違う雰囲気なのですが、長い時間そこに存在していたからなのか、不思議と一体感があります。たくさんの人が関わり、それぞれの建物の物語を引き継ぎながら今の姿になっています。

── 熱海最後の映画館に、57年間使われていなかった建物!どの施設も気になります。みっすーさんはどのような経緯で、LAC熱海の運営に携わるようになったのでしょうか?

前職の介護の仕事を辞め、1年間日本各地をまわりながら農業や島暮らしをしていたときに、LAC熱海の拠点の1つである「MARUYA」と出会いました。

もともと古民家のゲストハウスが大好きでした。その中でも特にスタッフやゲスト同士の距離が近い、アットホームな雰囲気のところが好きで、旅の途中にそんなゲストハウスを探しては立ち寄っていました。「MARUYA」もそのうちの1つです。

── はじめはゲスト(お客さん)として訪れたんですね。

そうです。そこで「MARUYA」のトイレに貼ってあった「ヘルパー募集中」の貼り紙を見て、当時の女将に「ヘルパー募集していますか」と聞いてみたんです。ちょうど長野で高原野菜の収穫のアルバイトが終わったタイミングで、次の行き先をどこにするかまだ決めていなかったので。ただその時はスタッフが足りていたようで、「またタイミングが合えば」とすぐに働くことにはなりませんでした。

── なるほど。その後また「MARUYA」と関わるきっかけがあったのでしょうか?

「MARUYA」に限らず、ゲストハウスともう一歩深く関わってみたいという思いがあり、その後は、ご縁があった瀬戸内海の豊島(てしま)にあるゲストハウスで働いていました。

豊島での仕事が終わるころ、タイミングよく「MARUYA」の女将から「空きがでるから働きに来ないか」と連絡がきたんです。次はどうしようかなと考えていたときだったので、「あ、じゃあとりあえずヘルパーとして働くか」と、軽い気持ちで熱海に向かいました(笑)。

── すごいタイミングですね!

はじめは熱海にずっといるつもりはなくて、「半年くらい働いたら、次は東北に行きたいな」なんて考えていたんです。

ところが働き始めてみると、シェア店舗の再生プロジェクトに関わる機会もいただき、地域の人ともより深く関わるようになって…。ゼロからイチをつくることにも興味があったので、「MARUYA」の運営をしている株式会社machimoriの社員になり、本格的に運営に携わるようになりました。

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── その後は、街づくりに関わる仕事が増えていったのでしょうか?

街づくりをしている感覚や「熱海をよくしていきたい」という思いは、正直あまり強くはないんです。熱海には楽しい人がたくさんいて、単純に熱海の人が大好きというか。「自分と関わる人が楽しそうにハッピーになったらいいな」という思いの方が大きいですね。ゆくゆくはその輪を熱海だけじゃなく、どんどん広げていけたらとも思っています。

と言ってもその後、順風満帆というわけでは全くなくて。コロナの影響で「MARUYA」を一時的に休業せざるを得なくなってしまったり、手がけていたプロジェクトがあと一歩のところで白紙に戻ってしまったりと、うまくいかないこともたくさんありました。

── 大変な状況でも、心折れずに続けられている理由はなんでしょうか?

2つあるのですが、1つは単純に人が好きだからだと思います。熱海の面白い人をいろんな人に知ってほしいですし、熱海に遊びに来てくれた人と熱海の面白い人を繋いでいきたい思いが原動力になっています。

もう1つは、大切な人たちがかけてくれた言葉です。諦めそうになったときに会社の上司から、「みっすーがやりたいと思っていることや考えていることは絶対大事だから。信じているからちゃんと描き続けて」と声をかけてもらったんです。その言葉が当時すごく支えになって、今でも大切にしています。

名古屋にいる前職の先輩からも、「自信を持って自分たちを呼べるように、熱海を面白くしてよ」と言われて、「そんな簡単に名古屋に帰っていられないな。自分の好きな人たちを自信を持って熱海に呼びたいな」と、自分を奮い立たせることができました。

── そこから何か転機があったのでしょうか?

あらためて、「人を繋ぐ人になりたい」という思いを社員研修の場でプレゼンしたら、新しい事業部として「エリア・コミュニティ・マネジメント事業部」を立ち上げることになりました。

その頃コワーキングスペース「naedoco」にはコミュニティマネージャーがいなかったので、まず「naedoco」のコミュニティマネージャーになりました。ちょうど同じ頃にLACさんからもお話をいただきました。熱海の中心市街地再生の事業を手がけていたmachimoriの活動や自分のやりたいことと繋がっていると感じたため、LAC熱海のコミュニティマネージャーにも就任することになりました。

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多様な人が行き交う熱海の魅力と課題

── 熱海に住み始めて3年が経つそうですが、みっすーさんから見た熱海の魅力を教えてください。

一番はやっぱり人同士の距離が近くて、地元の方がアットホームに迎えてくれるところです。LAC熱海がある熱海銀座商店街を歩いていると、行き交う人同士がよく挨拶していますし、顔見知りの方からはご飯やお菓子をおすそ分けしてもらうことも多いです(笑)。

熱海には、90歳超えのマスターがいる喫茶店、オリジナルソングをつくる店主がいる居酒屋、店内にあるカラオケで上手な人が歌っていると気になって見に行ってしまうおでん屋のおばあちゃんなど、魅力的な人がいるディープなお店が多いんです。おばあちゃんは気分が乗ってくると、ドラムがわりに手に持っている菜箸でリズムを刻んでいます。

── なんだか楽しそうな光景が目に浮かびます。逆にここが熱海の課題だと感じることはありますか?

家を借りたいと思っても、物件が少ないことですね。古くてトイレもあまり綺麗じゃないといった物件はあるのですが、いわゆる一般的なアパートはあまりなくて。熱海は「課題先進地」と言われていて、高齢化や空き家率の増加が問題になっています。それなのに借りられる物件の数は少なく、借りたいと思うような綺麗な部屋はさらに少ないんです。

それから、スーパーはありますがショッピングを楽しめるような娯楽施設が近くにありません。遠出をするときは、車があった方が便利だと思います。

── 熱海ならではの課題もあるんですね。それでも最近は、熱海に移住する人が多いと聞きます。

そうなんです。最近は熱海に魅力を感じて移住する人が増えました。「自分の持っているスキルを使って、熱海で何かやりたい」という方が移住してきてくれている印象です。そんな人たちが集まってくるのも熱海の魅力の1つですよね。

── 移住する人たちは、熱海のどんなところに惹かれて移住を決断するのでしょうか?

関東からアクセスが良くて二拠点生活ができること、海と山の両方に囲まれていること、新旧入り混じる街並みに惹かれたことなど、理由は本当に人それぞれだと思います。そこから熱海での繋がりが増え、熱海にどんどんハマっていく人が多いですね。

── 地元の人、移住してきた人、旅や観光で訪れる人など多様な人が行き交う熱海で、コミュニティマネージャーとして取り組んでいきたいことはありますか?

地元の人や熱海に遊びに来てくれた人を巻き込んで、繋がりを増やしていける企画・プロジェクトをどんどんつくっていきたいと考えています。またLAC会員の方で「熱海でこんなことがやりたい!」という声があれば、それを一緒にかたちにしたいですね。

誰かの「熱海でこんなことがやりたい」をかたちにする過程で熱海の街の魅力を存分に伝え、熱海の人との繋がりをつくるのが、LAC熱海のコミュニティマネージャーの役割だと思っています。

ちょうど今も、先日オンラインイベントでお会いした方と11月後半にLAC熱海で行う予定の企画を一緒に考えているところです。

またLACは全国に拠点があるので、せっかくなら各拠点で完結するのではなく、合同イベントを行って、全国各地にある拠点との繋がりもつくっていきたいですね。

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ふらりと気軽に立ち寄り、熱海での「異日常」を味わってほしい

── これからLAC熱海をどんな場所にしていきたいですか?

LAC熱海のコンセプトは『「ふらり熱海」で異日常を味わい、ヒト・モノ・コトの交差点で「つくる熱海」を実現する』です。

「ふらり熱海で」とは、各方面からの旅の中継地にもなり、都心からも気軽に立ち寄れる熱海でという意味です。そこでもう一つの日常「異日常」を体験していただきたいと思っています。

山と海に囲まれ、レトロな街並みと新しい店が入り混じる熱海は、地元の人や熱海に移住してきた人、旅人や観光客など多様な人たちが行き交う場所です。たくさんの人の思いが重なってつくられた熱海で、これまでの物語を感じて、新たな人と出会い、今度はその人自身が「つくる」側になってもらえたらと思います。地域の人と一緒につくるのもいいですし、ほかの人の思いに共感して「この人のために何かやりたい」というのもいいですよね。

熱海の物語を感じ、人と出会い、「つくる」を通して、新たな物語を紡いでいく。そんな循環を目指しています。

── 最後に、LAC熱海に興味がある方にメッセージをお願いします!

LAC熱海は、公共機関でもアクセスしやすい場所にあります。それこそ最初は、「LACってなんだろう」「熱海ってなんだろう」くらいの気持ちでふらりと気軽に遊びに来ていただきたいです。

一度熱海に来て「MARUYA」に泊まってもらえれば、そこから先は私たちスタッフが全力で熱海の街の魅力をご案内します!街と出会い、スタッフと出会い、熱海で暮らす人たちと出会うと、きっと熱海にハマってもらえるんじゃないかと思います。まずは気軽な気持ちでふらりと熱海に遊びに来てください!

《ライター:赤錆 菜々

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