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100年先も豊かに暮らせる海と街をつくりたい。|LACひたちなかコミュニティマネージャー・小池伸秋さんインタビュー

都心から約2時間、電車でも車でもアクセス抜群の茨城県ひたちなか市阿字ヶ浦。美しく広がる穏やかな海が魅力的なこの街の海沿いに、2021年2月26日にオープンしたのが「LivingAnywhere Commonsひたちなか」(以下、LACひたちなか)です。

そんなLACひたちなかでコミュニティマネージャーを務めるのが小池伸秋さん。

小池伸秋さんはひたちなか市阿字ヶ浦で生まれ育ち、大学進学を機に上京。その後地元にUターンし、地域やNPOのボランティア活動にも積極的に取り組みつつ、仲間と一緒に阿字ヶ浦の海を守り育てていく「イバフォルニア・プロジェクト」を発足させました。
家業の「民宿満州屋」を継ぎながら、新たにキャンプ場事業も展開している事業家でもあります。

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今や阿字ヶ浦におけるコミュニティのキーパーソンとも言える小池さんですが、その背景には、夢破れた東京での挫折、そしてUターンして気づいた故郷への想いがありました。

今回はそんな小池さんに、これまでの経緯や、LACの拠点運営に関わったきっかけについてお話をうかがいました。

地元に戻ったのは、夢破れた東京での挫折がきっかけだった

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ーー今では地元に根付いたさまざまな活動をされてらっしゃいますが、以前は東京で働いてらしたのですよね?

はい。大学入学を機に東京に行って、社会人のスタートも東京でした。

高校まで野球をやっていたこともあって、当時は「スポーツライター」なりたいと思っていたんです。就職活動でマスコミやスポーツメディア関係など、いろいろな会社を受けていたんですが、これがなかなか難しい…。
そこで、いったんは内定をもらった大手の印刷会社に就職して働いていたのですが、どうしても自分的にギャップがあって。結局はそれが拭えなかったので、もう茨城に戻ろうと。まさに東京で挫折を感じて地元に帰ったわけです。

ただ戻ったものの、これと言ってやりたいことがあるわけでもなかったので、家の民宿の仕事を手伝いながら、NPOの活動やボランティアなどに参加していました。

ーーやりたいことが見つからない中でも、ボランティアなどの活動には積極的に関わっていたんですね。

そうですね。夢破れて地元に帰ってきて、多少の後ろめたさもありましたし、自信もありませんでした。今考えると、だからこそ「こんな自分でも何か人のためになることがしたい、役に立てれば」という想いが強かったんだと思います。

地元の人からのひと言がきっかけに。気づいた故郷の大切さ

ーーそこから、ボランティア以外の地域活動にも取り組んでいったきっかけはあったのですか?

その後、家業の民宿を継いだあと3.11の震災が起きたんです。全国的にはあまり報道されていませんでしたが、阿字ヶ浦も電気は4日間、水道も1週間止まるなど、そこそこ大きな被害を受けました。やはりこれを機に、地元への意識は高まっていきましたね。

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2012年にはつくばで大きな竜巻被害があって、そのボランティアにも参加していました。さらに翌年に1周年のイベントがあって、僕はボランティアのリーダーとして参加したのですが、その様子がたまたまNHKに取り上げられたんです。

すると、その放送をたまたま見ていた地元・阿字ヶ浦の人に「地元でもぜひなんかやってよ!」言われて、その言葉にハッとしたんですよね。「あ、僕はまだ地元のことをやっていないな」と。

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一度東京に出て、夢がかなわずに戻ってきたということもあって、それまでは自分の中でどこか地元と距離を置いていたところがあったんです。ただ、震災の経験、つくばの竜巻被害、さらにこのひと言がきっかけで、「これからはしっかりと地元と向き合って腰を据えていこう!」と強く思うようになりました。

ひたちなかの海の未来を考える「イバフォルニア・プロジェクト」

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ーー小池さんが取り組まれている「イバフォルニア・プロジェクト」とは、どんな活動なのですか?

お察しの通り「茨城×カリフォルニア=イバフォルニア」で、アメリカ西海岸のカリフォルニアをかけた造語です。もともとは、地元の若手経営者が集まって、「茨城で海岸を考える会」というかなりお堅い名称でした。

全盛期の阿字ヶ浦は、日本でも屈指の海水浴場としてとても栄えていて、年間約300万人が訪れるほどの人気の海でした。それに比べると、今では随分と人が減っていて、さらには夏だけしか人が来ないという状況です。将来的にこの海をどうしていくか、また阿字ヶ浦だけではなくひたちなかの海岸エリアの未来をみんなで考えようと始まったものだったんです。

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そこで出たのが「イバフォルニア・プロジェクト」でした。活動案は、発起人のひとりである小野瀬君のプレゼンが発端です。彼は海外に何年か住んでいた経験があって、「地元のひたちなかのビーチは、海外のように楽しくないのはなぜなのか?」と考えていたんですよね。

たしかに、海外だと海は海水浴をするためだけの場ではなくて、ただいるだけでもいい、おしゃれであり楽しくもあり居心地のいい場所でもあり、みんなが気軽に足を運べる場です。

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こういう視点は、地元しか知らない人間では、なかなか思いつかないものなんですよね。プロジェクト案を聞いて、率直にとても夢のある話で未来を感じました。それならば自分たちの手で作っていこうということで、このプロジェクトが立ち上がったんです。

100年先も豊かに暮らせる海、街をつくるがコンセプト

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ーーまさに今日も海岸ではビーチマーケットが開催されていますよね。

そうなんです。イバフォルニア・プロジェクトは「100年先も豊かに暮らせる海、街をつくる」がコンセプト。夏だけではなく、年間を通して人が訪れるようなビーチづくりを目指しています。

活動内容は公共事業的なことも多く時間もかかるので、まずは自分たちの力で始められるものとして「ビーチマーケット」を開催しようということになって始めたものです。

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海岸を利用したビーチマーケットなら多くの人が集まりますし、多くの地元のお店も知ってもらえます。

その資金集めのために、2019年にクラウドファウンディングで募集をかけたところ、ありがたいことに目標金額を超える支援をいただいて、その年の6月に第一回のマーケットを開催することができました。

これは地域にとってインパクトがとても大きく、多くの人にイバフォルニア・プロジェクトを知っていただくきっかけになりましたね。

イバフォルニアベースは、多様な人とのつながりの場

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ーー「LACひたちなか」の一施設で、コワーキングスペースでもあるイバフォルニアベースはどういった場所なのですか?

イベントだけの活動だとどうしても単発開催になってしまうので、プロジェクトとして根付かせて継続していくためには拠点が必要だと思いました。そこで作ったのが、「イバフォルニアベース」です。

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もともと海の家だったものを2019年10月に借り受けて、自分たちで少しずつ改装してきました。コワーキングスペース兼イベントスペース兼、憩いの場といったところでしょうか。

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これからはこの場所を、いろんな人に使ってもらって、多様な人とのつながりの場になればいいと思っています。仕事場としてももちろんですが、シェアキッチンもあるので、たとえば週末だけバーをやったり、イベントを開催したりするのもいいかなと。この場所をステップに、いずれこの地にお店を出すなんていう人が出てきてくれたら嬉しいですね。

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やはり、僕らメンバーだけだと人もアイデアも、広がりに限界があります。だからこそ、いろんな人に使ってもらって、それぞれの個性に染めてもらって、より多様な人に集まってもらいたいんです。

LACを活用し多くの人が訪れることで、新たな化学反応を起こしたい

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ーーLACひたちなかに携わったきっかけを教えてください。

はじめてLivingAnywhere Commonsを知ったとき、「自分らしくを、もっと自由に」というコンセプトにとても共感しました。イバフォルニア・プロジェクトのビジョンと共通する部分も多くて、多様なつながりやコミュニティを作っていくという点で、僕たちが目指しているものとすごくハマるのではないかと思ったんです。

そこから、友人の紹介もあって話がトントン拍子に進んで、一緒にやっていきましょうということになりました。

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イバフォルニア・ベースでは、独自の取り組みとして日替わりのコミュニティマネージャー制度を取り入れています。この施設を無料で使える代わりに、スタッフとして店番をしてもらうというシステムで、SNSを通じて募集をかけたところすでに40名くらいが集まってくれました。

こうした運営方法を取り入れることで、コミュニティマネージャー(通称:コミュマネ)さんとつながっている方が集まったり、新たなコミュマネさん同士のつながりや交流も生まれたり、僕らのつながりでは呼べないような人も集まってくれるのではないかなと。

LACをきっかけに来てくださる人たちが増えて、この場所をいろいろと使ってもらって、さらに新たな化学反応が起こればと期待しています。

阿字ヶ浦の海岸を通して、新しい海とのかかわり方を提供していきたい

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ーー今後、LACひたちなかの運営やイバフォルニアプロジェクトの活動ではどのようなことを目指していますか?

現状はマーケットだけというイメージが強いので、これからは「海とともに生きていくライフスタイル」を提案したいと思っているんです。

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海は、海水浴で入るだけではなくて、海辺を散歩したり、波音を聞きながら読書をしたり、生活に溶け込む使い方がたくさんあります。
昔はそうやってもっと身近だったのですが、最近はサーフィンや海水浴など海好きな一部の人だけが楽しむ場になっていて、海の敷居が高くなっているんじゃないかなと思うんです。海離れという言葉もあるくらいです。

おまけに日本は海に囲まれていて、切っても切り離せないはずなんですが、欧米に比べると活用方法があまりうまくない。
家や里山と同じで、海も人の手が入らないと荒れてしまいます。

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そうやって新しい海と人とのかかわり方を提供していくことで、海を後世に残すという意味も含めて、海に関わる人を増やしていきたいと考えています。たとえ海のアクティビティにあまり興味がない人でも来たいと思えるような、居心地のいい空間を作っていきたいですね。

LACひたちなかの魅力は「包み込んでくれる大きな海」と「人の温かさ」

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ーーずばり、LACひたちなかの魅力はどんなところですか?

海へのアクセスの良さ、海そのもの、そして人の温かさですね。

昔から、阿字ヶ浦は世の中に「海」を提供してきたところです。ここに来ればすぐ目の前に海があって、ただ見ているだけでも癒されます。
また土地柄、もともと多くの観光客が来ていたので、外から来る人に対して常にウェルカムな土壌が整っていると思うんです。多様性を理解したり、新たな視点を取り入れたり、受け入れる人の温かさがあるのも魅力だと思います。

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ーーこの場所での、おすすめの過ごし方はありますか?

ここは本当に海を眺めるだけでもリラックスできるので、ぜひ一度キャンプ用のイスを持ち出してチェアリング体験してほしいですね。海はワイワイ騒がしいイメージかもしれませんが、阿字ヶ浦のオフシーズンは落ち着いてゆったりできる空間でのんびり過ごせます。まさにチルアウトできる場です。

海はリセットにぴったりですから、人生の分岐点に立っている人は改めて振り返ってもらったり、新しい自分をみつけてもらったり、そんな風に見つめ直すタイミングにもおすすめです。僕でよければ、話くらいなら聞けると思うので、ぜひ教えてください。

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やっぱり海って、やさしく包んでくれるようなところがあるんですよね。僕も東京で挫折を感じて戻ってきたとき、どこか海が温かく迎えてくれたような気がしました。

たとえそれが故郷の海ではなくても、ここに来ればきっと同じような気持ちを感じてもらえると思います。太平洋の懐に抱かれて、いやされて、いろんなものをリセットして帰ってもらいたいです。

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都心からも近いですし、コワーキングスペースはLAC会員であれば無料で使えるので、ぜひふらっと日帰りでも来てください。

人生に一度でも、月に1回でも、来てもらったその人の人生の1ページに「阿字ヶ浦」が加わったらいい。そんな風に一人でも多くの人が、阿字ヶ浦を気にしてくれたらと思っています。

ただ滞在するだけではない、人とのつながりで新たな価値が生まれる場所

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「すべて人とのつながりで始まって、生まれてきたものばかりなんです」という小池さん。
ご自身がこれまで、さまざまな人との出会いやつながりで想いを実現してきたからこそ、LACひたちなかには、ただ滞在して仕事をするだけではない価値が詰まっているように感じます。

ご縁を求める人が集まって、その出会いがつながって、さらに新しい何かが生まれていく。そんな未来がイメージできる場所ではないでしょうか。

大海原にいやされたい、新たな人との出会いやつながりが欲しい。
そんな方はぜひ、一度LACひたちなかを訪れてみてください。

▼LivingAnywhere Commonsひたちなか

《ライター・島田みゆ


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