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【実録釣りレポ】伊豆下田のワーケーションで釣り三昧?人三昧?

最初に断っておく。

当初、この記事の狙いは、下田の釣りの魅力をめいっぱい紹介することだった。

2019年12月16〜18日に開催された「2泊3日@伊豆下田 地域課題解決ワーケーション」への参加にあたり、「ワーケーションで釣り三昧」という青学駅伝チーム顔負けの”大作戦”を練り上げた私は、釣り道具一式を持参。

クーラーボックスから溢れんばかりのサカナの写真を自慢話とともに掲載し、全国数百万人は下らないと思われる”釣り好きビジネスパーソン”を下田でのワーケーションへと誘う計画であった。つまり私は“ワーケーション×釣り大使”としての崇高なミッションを勝手に遂行すべく、意気揚々と下田に乗り込んだのである。

にもかかわらず、この記事には、サカナの写真がただの一枚も掲載されていない。そう、賢明な読者は既にご察しの通り、な〜んにも釣れなかったからである。もっといえば、「アタリ」の「ア」の字すらなかったのである。

でも、それがどうして、なかなか楽しいワーケーションであった。正直な話、大漁のときよりも楽しく、豊かな時間を過ごすことができたのである。その理由も含めて、「2泊3日@伊豆下田 地域課題解決ワーケーション」の期間中、「LivingAnywhere Commons下田」を中心とする半径300mぐらいの小さなエリアで体験した、濃密かつ豊かにしてゆる〜い出来事について、ゆるゆるとご紹介しようと思う。

下田は釣り天国。なかでもLACは釣り場徒歩2秒。

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▲LAC4階の西向きの部屋の障子を開けると、真下は稲生沢川河口というかほとんど海。ぜいたくな立地です。とはいえエレベーターがないので、4階まで階段で何度も行き来していると、少しゼーゼーします。

下田といえば海である。海といえば釣りである。よって、下田といえば釣りである――。

実際、下田には福浦堤防や犬走堤防など、伊豆を代表する超一級の堤防がある。また、沖合10kmに浮かぶ神子元島(みこもとじま)をはじめ、潮通し抜群の沖磯、地磯も数知れず。古代ギリシアで確立された三段論法は、時空を超えて、現代の下田にも当てはまるのである。

それはともかくとして、釣りの基本は「とにかく地元の人に聞け」。これに尽きると言っても過言ではない。

ひとことで海とか川といっても、所変われば何とやら。地形や潮の流れも違えば、棲みついているサカナや回遊してくるサカナの種類、食べているエサも全然違う。したがって、釣り方も自ずと変わってくる。ただ闇雲に釣っていたのではラチがあかない。“郷に入っては郷に従え”ではないけれど、地元の人々が長い時間をかけて洗練させ、確立してきた釣り方を忠実に真似てみるのが大漁への近道なのである。

地元の人、地元の人……釣り場にリサーチに行く時間も惜しかったので、とりあえず、LACコミュニティマネージャーの梅田直樹さんに聞いてみた。ちなみに、私の狙いはシーバス(いわゆるスズキのこと)であった。

「シーバスね👍 ルアーをチョチョイと投げれば釣れるよ👍 だいたい夜の11時ぐらいから夜釣りだね👍 LACの目の前でこんなでっかいスズキを釣った友だちがいるよ!もうこんなん!!」

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▲LACコミュニティマネージャーの梅田さん。IZUFORNIAパーカーがとてもカッコいいので、今度伺うときは事前に仕込んで、着ていこうと思っています。

なるほど目の前で釣れるのか……

LACの目の前を流れるのは稲生沢川(いなおさわがわ)。下田の中心市街地を貫き、下田港へと注ぎ込む二級河川で、その魚影は濃い。駅前の東急ストアの駐車場から川を覗き込むと、ボラやキビレ(黒鯛にそっくりの魚)、シーバスが悠々と泳いでいるのが見える。

“玄関開けたら2分でご飯”という懐かしのCMがあるけれど、LACの場合、“玄関開けたら2秒で釣り場”なのである。地元の人のなかには、「稲生沢川は下田のなかでは汚いほうの川」とおっしゃる方もいるけれど、首都圏在住の私からすればなかなかゼイタクな話である。

ちなみに、梅田さんの話はかなり信憑性が高いと思った。なぜなら梅田さんは下田生まれ下田育ちの48歳。生粋の下田人だ。それに当たり前ながら、コミュニティマネージャーといえば、コミュニティのマネージャーだ。コミュニティには周辺の海や川、そしてそこに棲みつくサカナも含まれるはず。

その管理人である梅田さんが「釣れる」と言うのだから、もう間違いなく釣れるのだ。いってみれば、稲生沢川の河口部は、梅田さんの“管理釣り堀”みたいなものである。釣れないはずがないのである。私の「ワーケーションで釣り三昧 大作戦」はほとんど成功したようなものである。くっくっく。

17日夜にはワーケーションの拠点の1つである総合商業施設「NanZ VILLAGE」で懇親会や交流会が催され、下田やお隣の南伊豆町の方々も参加して大いに盛り上がった。楽しい時間を過ごしながらも、私は夜が深まるのを虎視眈々と待っていたのである。

深夜の出撃

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▲深夜の新下田橋のたもとより。昼間は車がビュンビュン通っていますが、夜はさすがに交通量少ないです。ちなみに左の写っているオレンジ色のスジは釣り糸です。アタリがなくていかに焦っていたかが伺い知れます。マトモな写真を撮る余裕すらなくなってたんですね……。

23時すぎ、とうとうその時がやってきた。持参したタックルとLACの玄関先に置いてあった玉網を持って、闇夜へと出撃する(LACには釣り具がたくさん常備されています)。

脳裏に浮かんでいたのは、シーバスの刺身を肴に、下田の地酒・純米吟醸「黎明」や下田特産のレモンを絞ったサワーをグイグイやりながら、ワーケーションで仲良くなった仲間たちとキャーキャー盛り上がっている光景である。武勇伝とウンチクをこれでもかと語りまくるのだ。

スタートは、LACの目の前に架かる「みなと橋」から。

シーバスは身を隠すことのできる場所にじっと潜み、ベイト(エサ)がやってくるのを待ち構えている。橋脚など人工構造物のまわりや、常夜灯によってできる明暗の境目を攻めるのが定石といわれる所以だ。セオリー通り、私は「みなと橋」の橋脚付近にルアーを投げ込んでいった。

アタリなし……

ルアーをチェンジしながら竿を振り続ける。

アタリなし……

ワームも投げてみる。

アタリなし……

ちょっと上流の新下田橋の橋脚付近を攻めまくる。

アタリなし……

さらに上流に移動しながらルアーやワームを投げ続ける。

アタリなし……

1時半頃まで粘ってみたが、アタリはゼロ。惨敗、撃沈である。

ちなみに筆者の釣り歴は短くない。南房総をメインフィールドとして、漁師さんの仕事がなくなるのを心配しながら釣りまくってきた。私のせいでレッドリストに登録されてしまった魚種もいるのではないかと、日々、供養を欠かすことがない。それがどうして。こんなハズじゃ……

ちょっ、ちょっ、梅田さん!

心やさしき下田の人々に、釣れない理由をズケズケと聞いてみた

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▲下田市魚市場のすぐ目の前の堤防。

翌朝は6時に目が覚めた。

しかし、どうにも納得がいかない。あらためて地元の人々のアドバイスを仰いで、アタリすら取れなかった理由を突き止めよう。とりあえず、LACから歩くこと5分、武ガ浜の造船所跡地の岸壁に向かった。

まずは、“ヒュッ、ヒュッ”と空気を軽快に切り裂きながら、ルアーを投げている釣り人に聞いてみた。

筆者
地元の方ですか。なんか釣れましたか?

釣り人
「うん、家はすぐそこ。いやー、なんも釣れない、アタリもないよ。昨日はたまたまヒラメとコチを釣った人がいたらしいけど、それ以外はからきしダメ。今日も全然。ん、シーバス? ベイトがいないからダメじゃないかなぁ。ぼくはカマスを釣りに来たんだけど、今日はダメだねぇ……」

何も釣れないとイライラするはずなのに、物腰はどこまでも柔らかい。偏光サングラスの奥の目は優しい笑みをたたえている(見えなかったけど)。そうか地元の人でも釣れないのか。なるほどなるほど。心穏やかにLACに戻る。
 
次にお話を伺ったのは、LACの真向かいにある大正7年創業の老舗和菓子屋「金栄堂」のご主人・土屋善昭さん。

17日夜に「NanZ VILLAGE」で開催された懇親会・交流会に参加してくれた土屋さんは、何を隠そう釣りの達人。以前は船を所有して、下田界隈のサカナというサカナに恐れられていたスゴ腕なのである。

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▲釣り道具を車に詰め込むのに集中しすぎて、スピードライト含めてライティング機材をすべて忘れました。結果、ご主人の顔が光り輝き気味なのはご愛嬌。

ご主人
「あー、何も釣れなかった? 下田の釣り場はね、今日みたいな海風が吹いてるときは釣れないの。ぜんぜん食わなくなっちゃう。海風が吹くのは、だいたい雨の降った後とか」

筆者
「あ!一昨日の夜から明け方にかけて、けっこう雨が降ってました!」

ご主人
「来た日が悪かったねぇ、ワッハッハ。いやいや、うちの娘も釣りが好きで、船でヒラメとかタイとかガンガン釣るんですよ」

娘さん
「お父さんはいつも運が悪いんだよ」

ご主人
「てへへ」

おかみさん
「今度はお子さんもつれて来てくださいよ(筆者の家庭は俗にいう子沢山です)。夏はとくにいいとこがいっぱいあるから。もちろん白浜もいいんですけど、ちょっと引き波が強い。子連れにはもっと南の入田浜とか田牛とか、最高なんですよ」

なるほどなるほど、来た日が悪かったのか。な〜んにも釣れないのは私の腕のせいではないことが、これで完全に証明された。

それにしても、釣りを入り口にした金栄堂さんのセールストークは超絶妙。ボーズの言い訳に1本スジが通ったことへの安堵も手伝って、名物「下田の海の塩バターどら焼き」を6つも買い込んでしまいました。市内の外浦海岸の塩を使用したこの逸品は、素晴らしい塩加減。特にフンワリと焼き上げられた皮がめちゃくちゃ美味しゅうございました。個人的には、上野の名店「うさぎや」のどら焼きを凌ぐ出来栄えでしたね。

さて、念には念を入れて、プロのご意見も聞いておくか。ということで最後に向かったのは、伊豆急下田駅近くのスクランブル交差点・中島橋交差点に店を構える釣具店「波布釣具店」。渋谷でいえばスタバやTSUTATAが入居する「QFRONT」と同じようなポジションの店である。

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▲7、8分の会話の中で「エサが売れない」という言葉を5回ぐらい聞いた気がします。今度はルアータックルではなく、フカセ釣りやカゴ釣りのタックルを持っていき、地元経済の活性化に一役買いたいと思います。

店主のおばあちゃん
「今はカマスやってる人が多いんじゃないかな。ルアーでやる人が多くてねえ、エサが売れないんですよ。そこの川はキビレとか、カワハギとか、スズキとか入ってるんだって、ひょこっといってやったらピクピクピクってきますよ。潮が動いてるときにやったら、どっかでなんか釣れんじゃないかな。でも今年はひどい。魚自体がねえ釣れなかったから。風が吹くと、ここはダメだしねえ」

要するに、釣れない年の特に釣れない日に下田に来てしまったというわけだ。「ワーケーションで釣り三昧 大作戦」が失敗に終わったのは、私のせいではないのである。ど〜だ、まいったか!とほほ。

波平さんになってたまるか!

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▲金栄堂の名物「下田の海の塩バターどらやき」は下田高校の生徒とのコラボレーション商品。個人的には原材料に「ところてん」が入ってることが気になりました。どこに使用されているのか、今度お伺いした時に聞いてみたいと思います。

そんなこんなでワーケーションも終わり、帰路につく時間がやってきた。

さて、残された問題は家族である。18日の晩御飯の用意はいらないと宣ってきた手前、魚を持って帰らないと示しがつかない……「サザエさん」の波平さんよろしく、LACから徒歩5分の「道の駅 開国下田みなと」で買った魚を自分で釣ったことにして、家族に自慢してやろうという考えが一瞬、頭をよぎった。

でも、やめた。

というのも、道の駅のイチ押しは金目鯛と伊勢海老。ご存じの通り、金目鯛は深海魚である。金目鯛の釣り船もあるにはあるが、乗船料は2万円ぐらいする。船釣りで金目鯛を釣ったという作り話をするのも1つの手だが、それはそれで乗船料がバレたらヒンシュクを買いそうだし、シーバスを釣っていたら伊勢海老が掛かったというのも、かなりムリがある。小1の次女はダマせても、小4の長女は厳しい……いや、もとより波平さんを真似する必要なんて毛頭ないのである。

で、考えた。

ボーズだったことを正直に告白したうえで、「下田の海の塩バターどら焼き」を食べながら、下田で出会った人々やLACの話をしよう。サカナなど釣れずとも、下田に流れるゆったりした時間は素晴らしく、そこに住む人々とのふれあいは楽しい。その魅力が伝われば、リベンジに行くチャンスは必ずや訪れるはずだ。下田の人々に会いに行くついでに釣りをすればいいのである。言うなれば「ついでに大作戦」。「ワーケーション×釣り大使」としてのミッションを果たすためにも、青学駅伝チームの「やっぱり大作戦」には負けていられないのである。

それはともかく、今度LACに行くときは、天気のいい日がいいなぁ。

<ライター・以可多屋(いかだや)>


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