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「閉店か?変化か?」立ち止まらない価値観こそ、お客様との「絆」を産む #羅針盤のつくりかた

世界を襲った未曾有の事態。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言により、多くの飲食店や企業が打撃を受けました。

そんな中、昨年の7月に本郷三丁目にオープンしたレストラン Petite maison de Harryは、4月上旬からお昼のテイクアウトを始め、この状況下においてコロナ以前よりも売上が上がったとすら言います。

なぜ、街の小さなレストランがこの厳しい状況を乗り越えられたのか。6月のディナー営業再開を機に、アリーに見る飲食店のファン作りについて、探っていきます。

キーワードは「思考を奪う料理」「支え合い」

今回の #羅針盤のつくりかた は、第一回にご登場いただいた 本郷三丁目のレストラン Petite maison de Harry (以下:アリー)さんに、再び取材させていただきました。

Petite maison de Harry
東京・本郷三丁目にある小さなレストラン。フレンチの針ヶ谷祐介シェフとパートナーであるちづるさんの2人で切り盛りしています。

シェフの料理を心から愛するちづるさんと、ちづるさんが行うSNS発信やお店に関する全てのクリエイティブに全幅の信頼を寄せるシェフ。

ラブソルの代表2人の友人であり、公式HPを制作させていただいたことからお仕事をご一緒させていただくことになり、今回は2回目の取材となります。

1回目のオープン当時の記事は、こちらです。

開店から1年弱。地域に根付いた「アリーのおうち」

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ー2回目の取材、よろしくお願いします! コロナ以前も、ランチもディナーも連日お客様で賑わい「すごいなぁ」と思っていたのですが、今もお弁当をきっかけとしたリピーターがどんどん増えているとお伺いしました。あっという間に人気店になった秘訣を、聞いていければと思います!

針ヶ谷:ありがたいですよね、1年前はまだお店がなかったことが信じられないくらい。ここで出会い、私たちにとってもなくてはならない存在になっている大切な方がどんどん増えているんです。

ーリピーターがすごく多いですよね。お二人が接客で心掛けていることは、どんなことですか?

針ヶ谷:堅苦しいマニュアル通りのサービスはしないようにしています。お客様もリラックスしづらいじゃないですか。友達や家族のような感覚でお付き合いすることは、心掛けています

ちづる:常連さんが「最近野菜食べてないんです」っておっしゃっているのを聞いて付け合わせを野菜たっぷりにしたり、シェフがそういうアレンジをさりげなくしているのをよく見ますね。

ーそれは嬉しいですね。レストランっていつでも同じものを食べられる所だと思っていたんですけど、アリーは自分のために作ってくれていると感じます。

ちづる:Petite maison de Harryは「アリーの小さなおうち」という意味なので、「お店に来てもらう」というよりは、「帰ってきてもらう」ことを大切にしたいんです。家の中だと思えば、自然なやりとりじゃないですか。実際、お客様はご自宅や勤務先が近い方が7割を超えるので、地元の方々に愛してもらえているなと感じます

ーシェフが以前勤めていたお店でも、お客様との接点は多く持たれていたんですか?

針ヶ谷:これまで働いていたお店はキッチンとホールが離れていたので、お客様とコミュニケーションを取ることはほとんどなかったです。面白いですね、人と接しながら料理をするのは。

ちづる:オープンキッチンだから、お客様が食べている姿がダイレクトに見られるんですよね。美味しく食べている姿を見られることがすごく嬉しくて。

針ヶ谷:嬉しい! 陰ながら、ガッツポーズしてますからね(笑)。


「頭の中をいっぱいにする」料理の秘密

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ーアリーの料理は食べている時から「また食べたい!」という気持ちになるのですが、なぜそう感じるんでしょうか?

針ヶ谷:少しでも楽しんでもらいたいから、そのための工夫はしています。お腹が空いて無我夢中で食べるのもいいけど、何も考えずに作業として食事をするのは寂しいじゃないですか。何かを考えながら食べるって、すごい良いことだと思って。なんでこんな味なんだろう? とか。

ー「これ何が入っているんだろう!?」という話は、一緒に食事している人たちとよくします!

針ヶ谷:今回お弁当を始めたのですが、お弁当って日本の文化じゃないですか。ご飯に合うものをと考えると、和風のおかずがメインになる。でも僕はフレンチのシェフなので、醤油やソースは使わずに味付けをしているんですね。

ー醤油を使わずに、和風の味付けを作るんですか。

針ヶ谷:フランスには醤油はないですからね。でも、フランス料理の技法を使って醤油風味を作ることは可能です。ソースをキャラメリゼして、香ばしい照り焼きチキン風にしてみたり。醤油そのものは無理ですけど、「これは醤油を使ってるのかな?」ぐらいの味は作れるんです。

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ー馴染みがある味のはずなのに、何かが違う。だから食べながら「何が違うんだ!?」と考えさせられるんですね。

針ヶ谷:醤油は何でもおいしくしてくれるいい調味料である一方、食べた瞬間に「醤油味だな」とわかってしまう。それだと、お客様はそれ以上その料理について考えないですよね。「知っているものと何かが違う」、お店であればそこからコミュニケーションが生まれるし、何か1つ工夫を加えるだけで、食事の楽しみは増えると思うんです。

ちづる:同じソースでも、前に作ったソースとは違う味ってことも、よくあるよね。

針ヶ谷:その日の気温や前日の気温によって、入れるものを変えています。

ちづる:ローストポークにつける生姜のソース、寒い時期に始めたメニューなので、最初は生姜の香りが立った体が温まる味だったんです。最近、お弁当用に作った時は、暑くなってきたからか柑橘系な香りが立つ爽やかな味になっていて。

針ヶ谷:その方が時期に合うなと思って、レモンをたっぷり入れました。作り手としても、そっちの方が楽しいんですよね。 所詮僕も人間なので、楽しい方がいい。人の気分によって変えることも、大事なのかなと思っています。


緊急事態宣言直前の3月31日、もう店を閉じようと思った

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ー緊急事態宣言が発令された4/7からお弁当を始めましたよね。対応がすごく早かったじゃないですか。すぐに世の中の動きに合わせて、お弁当を始めよう!と切り替えられたものでしたか?

針ヶ谷:正直に話すと、3月31日をもって一度営業を見直すことにしたその最終日、僕、料理が作れなくなったんです

ーそうだったんですか…。先行きが見えない情勢の中、お店は開けていいのか、私たちは行っていいのかすごく迷う時期でしたよね。

針ヶ谷:とても寒い日だったことを覚えています。店内の換気のために窓を開けるたび、お客さんが「寒い」と言いながら、急激に冷めてしまう料理を食べている。そんな姿を、見ていられなくて。

料理人としての何かがぷつんと切れてしまったんだと思います。「こんな想いをして料理を作るくらいなら、もう辞めたい」と思いました。妻に伝えて、結局ランチはその日一回転で閉めてしまい、幸い夜の予約がなかったのでディナーも休みにしようと思ったら、常連さんが連絡をくれたんですよね。

こんな気持ちじゃ料理は作れないと迷ったものの、妻が言ってくれたんです。「こんな時でも来てくれる方がいるんだよ」って。自分たちの力ではどうにもならない状況で、気にかけてくださる方のためには何ができるのか。そこを考えることが自分たちの活力になるんだって、その夜だけは頑張ろうと気持ちが保たれました。

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ーちづるさんは、そんなシェフを見てどう思われたんですか?

ちづる:その日のディナーはなんとか頑張って欲しかったですけど、この先シェフがシェフらしい料理を続けられないと言うのであれば、辞めたらいいと思いました。人との距離をはかり、換気を十分にすることが正しい対応だったとしても、針ヶ谷さんの料理が作れないのであれば、作らない方がいい。じゃあ、アリーらしいご飯をどうしたら作れるか? と考えた時に、お弁当に行き着いたんですよね。お店をオープンする前から、いつかはお弁当もやりたいねと話していたので。

針ヶ谷:料理人として、たくさんの方に食べてもらいたいなと言う気持ちはずっとあったので、このタイミングで始められたことは嬉しかったですね。決めてからは、お店を閉めて一気に仕込みをしました。持って帰って食べても美味しい料理は何かを考え出したら、みるみるやる気が出てきて、もう楽しかったんですよね。

ちづる:うん、すっごく楽しかった。

ーこの状況でも、楽しかったと。

ちづる:今来てくれるお客様のために何ができるかを、考えられた時期だったと思っています。給付金を待っているだけでは何も生まれないから、自分で考えて歩かないとって。

針ヶ谷:連日暗いニュースばかりですけど、来てくださる方々はニコニコしているんですよ。もちろん生活の上で売上は凄く大事なんですけど、お金じゃない何かがすごく見えてきている気がして、それがすごく面白いよね。

お弁当は資材代がかかるから利益率は下がっているものの、その分新しい人と出会えているし、お客様と直接話す時間が増えた。「あの人ってこういう人だったんだ」、「ここから来てたんだ」って、距離が近くなったような…。目に見えないウイルスのおかげで、人が見えるようになったと思っているんです。

ちづる:1年前は出会えていなかったのに、今はもう頭に浮かぶ方々がいっぱいいます。こういう状況で来てくれること自体が奇跡なのに「こんな時にアリーがあってよかった」って言ってくださるんです。お礼するのは私たちの方なのに、それがすごく染みて。コロナがあったから新しい発見もいっぱいあったし、みんなで楽しめる方法はもっとありそうだよね。

針ヶ谷:「こんな時もあったよね。でも乗り越えられたよね」って、そういう風になれればいいなと思っています。


ウィズ コロナ時代のアリーのおうち

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ー6月より、人数を制限した完全予約制にてディナーの営業再開になりますが、待っていたお客様も多かったのではないですか?

ちづる:5月末頃から「店内での飲食はいつ再開しますか」というお声をいただいてまして、本当にありがたいですよね。今は6/4(木)までお休みをいただいて、準備を進めています。

針ヶ谷:コロナによって生活様式はもちろん、人自体も大きく変わっていると思うんです。友達や家族なら一緒にいられるけど、全くの他人がすぐそばにいることに、抵抗を感じてしまう時代が来るのではないかと。今回のことでテイクアウトの可能性をすごく感じたので、ランチとディナーの一部で続ける方向も考えつつ、営業再開するつもりです。

ちづる:アリーだからこそできることは何かと考えたら、人数を制限してでも、安心して食事ができる環境を整えることだと思いました。開店からもうすぐ1年、常連さん同士で顔見知りになったりして、思い描いていた幸せな空間が広がり始めたところなんです。

自分たちが暗くなってしまったら、お客様たちも暗くなってしまう。こうなったことは仕方がないから、自分たちは楽しく、そして接する皆さんにも楽しさと美味しい料理をお裾分けできたらいいなと思っています

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6月上旬より、ディナーの営業再開!

ランチは引き続きお弁当での提供となります。最新情報は、アリーのTwitterまたはHPにて、ご確認くださいませ。


ラブソルメンバーはアリーのご飯が大好きです! また食べられることを心から楽しみにすると同時に、この記事を読んでくださった方には、ぜひ一度体験していただくことを、全力でおすすめします!

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取材:小野寺 美穂
執筆:柴田 佐世子
編集:柴山 由香
写真:池田 実加

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