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「お客様ではなく、もはや親戚」レストラン・アリーに見るファンを超えた関係のつくりかた #羅針盤のつくりかた

2019年7月 本郷三丁目にオープンしたレストラン Petite maison de Harry。コロナウイルスの影響により多くの飲食業が打撃を受けた中でも、「アリーのご飯が食べたい」と多くの方に支持され、むしろ売上を伸ばすという状況を生み出していました。

「お客様でもファンでもなく、親戚」レストランとお客様の関係を超えた距離の近い人間関係が育まれるこの場所は、どのように作られたのでしょうか。

「愛される料理の秘密」編はこちら

シェフとちづるさんが「当たり前」のように続けてきた様々なコミュニケーションの裏には、底知れない愛がありました。

Petite maison de Harry
東京・本郷三丁目にある小さなレストラン。フレンチの針ヶ谷祐介シェフとパートナーである ちづるさんの2人で切り盛りしています。

シェフの料理を心から愛するちづるさんと、ちづるさんが行うSNS発信やお店に関する全てのクリエイティブに全幅の信頼を寄せるシェフ。

ラブソルの代表2人の友人であり、公式HPを制作させてもらったことでお仕事をご一緒させていただくことになり、今回は2回目の取材となります。

1回目のオープン当時の記事は、こちらです。

アリーのSNSはリアルなコミュニケーションを生む

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ー今回は、アリーのSNSの運用方法やグッズ展開についてお伺いしていきたいなと思っています。

ちづる:アリーの常連さんはTwitterやInstagramをすごくよく見ていてくださっているんですよね。フォロワーが多いわけではないんですけど、それにしても反響が大きい気がします。コロナの影響でお弁当を始めようと決めた時も、1回つぶやいただけなのに街で常連さんお会いするたびに「楽しみにしているね」って声をかけてもらったり。

ーオープンして1年足らずですが、街に根付いていると思うんですよね。お客様は、地元の方が多いですか?

針ヶ谷:そうですね、勤務先が本郷三丁目という方も含めて、7割くらいは地元の方だと思います。

ちづる:常連さんから聞いたんですけど、Twitterを見た方がSNSをやっていない近所の方に情報を広めてくれるらしいんですよ。「あの人に教えたら、今日買いに行くって言ってたよ〜」って。「じゃあ待ってますね」なんてやりとりは、よくしています。

ーSNSでの発信が、さらに口コミで広がっていくんですね。TwitterとInstagram、どちらもちづるさんが担当されているとのことですが、日々こまめに発信することは大変ではないですか?

ちづる:大変だと思ったことは一回もないです。シェフの料理が美味しいから知ってもらいたいだけで、食べていない人は人生損するって思っちゃうくらいなんですよね。

針ヶ谷:気がつかないうちに写真や動画を撮られているんです。僕もちょっとだけ、SNSを覗くようになりました。

ちづる:最近では、常連さんが画像をくれたりするんです(笑)。みなさんすごく素敵に写真を撮ってくださるので、「使ってもいいですか?」とお聞きしたことが始まりだったんですけど…。すごく面白かったのが、ちょっとしたアクシデントがあって、私が全くSNSの投稿をできない日があったんです。その姿を見て察してくださったのか、常連さんが自分のランチの写真を撮って「今日アリーさんがまだつぶやけていないので、私が代わりに」って、ツイートしてくださったんです。それを、私がリツイートさせてもらったりして(笑)。

ー常連さんが、もはやアリーのSNS担当者のような存在に…(笑)

ちづる:嬉しいですよね。アリーの名前でエゴサーチ(SNSでつぶやきを検索すること)は定期的にしているのですが、いつの間にか新しいハッシュタグが生まれていたり、嬉しいことばかりなんです。ついつい、話しかけにいっちゃいますね。

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ーSNSで投稿したものに、アリーさんの公式アカウントからコメントをもらえるって、お客さん側も嬉しいんですよね。InstagramとTwitterでは、どう使い分けをしているんですか?

ちづる:投稿内容は大きくは変えていません。ただ、Instagramは拡散がうまくできないので最近はStoriesをよく使っています。売切の情報だとか、その日だけの話をStoriesにあげたりしていますね。

ーちづるさん、さらにホームページに載せるブログも書いていらっしゃるじゃないですか。どんなスピードでやったら実現するんでしょうか…。

ちづる:すごく驚かれるんですけど、それも決めていないです。眠かったらやらないですよ、別に今日じゃなくてもいいやって。ただ、シェフの料理を見ていると、書きたくなっちゃうんですよ。「もうこれ絶対美味しい!」「これは伝えねば!」って。そうなった時は、ガーっと一気に書いていますね。毎週のメニューを載せるときも、テンションが上がっているのは間違いなく私です(笑)

ーちづるさんがシェフの料理の一番のファンであること。公式アカウントの運営は難しいと言われますが、この愛情に敵うものはないですね。

ちづる:仮にこれが義務付けられていたら、私だってすごく嫌だと思うんです。シェフは強要しないし、私がただ楽しいと思ってやっているからこそできることなんですよね。

「レストラン」という業態に縛られない場所

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ーアリーと言えば、お店にある黒板やグッズなど、ちづるさんが描くたくさんのイラストも人気ですよね。コロナの影響で始めたお弁当には、毎日日替わりのイラストがついていて、常連さんはそれも楽しみにしたそうで。

針ヶ谷:これ、すごい可愛いですよね。最初は「誰か気がついてくれたらいいな〜」とこっそり始めたものだったんですけど…。

ちづる:常連さんが、すぐに気がついてくれたんです。集めてくださる方やお子様にも喜んでもらえていると聞いて、すごく嬉しくて。

ーどうして、イラストをつけようと思ったんですか?

ちづる:アリーがオープンするもっと前から、いつかお弁当を売りたいとは考えていたんです。私たちがお弁当を売るなら、食べる以外に何かもう一個楽しめることがあったらいいなと。最初は、お花を添えようって言っていたんですよね。

針ヶ谷:毎日違うお花が一輪ついていて、その花言葉を添えようと。花弁って呼んでいたよね。

ーめちゃめちゃ素敵じゃないですか…!

針ヶ谷:「ただ食べるだけで終わらせたくない」っていう気持ちが、強いんですよね。料理を作る上でも、「この味はなんだろう?」と会話を生むような余白を残したい。お弁当も同じで、「美味しい」の他に「面白い」「楽しい」…いろんな感情が味わえるといいなと思うんです。

いつかと思っていたことが、今回コロナの影響で突然、実現したわけですけど、「どうせやるなら私たちが楽しいことをやれば、お客さんにも楽しんでもらえるんじゃないかな」って。

特にコロナの時期は、みなさん家に閉じこもって感情が普段よりも少なくなっていたと思うんです。そういう中でちょっとでも感情を生み出せたら、いつか「あんな時があったなぁ」って思い出に残るじゃないですか。お客さんの日常が少しでも楽しくなるためには、何ができるのかなって、考えただけなんです。

ーSNSの発信が上手だとか、そういう小手先のノウハウじゃないんですね。ここまで愛される理由は、お二人がこれほどまでにアリーに来るお客様のことを考えているからなのだと、感じました。

ちづる:オープンしてもうすぐ1年、楽しいなと思う場面はたくさんあるんですけど、アリーに来た知らない方同士が、アリーを通じてお話ししている姿を見る時、すごく幸せなんです。

ー隣の方が食べているものが気になって、思わず話しかけてしまったりします。本当にアットホームなんですよね。

ちづる:SNS上でも同じなんです。「いつもつぶいている方ですね!」なんていう出会いが生まれたりして。最初は、私とシェフだけだった。お店ができて、お客さんがどんどん加わって…。なんだろう、アリーという存在が、みんなのものになっていく感覚なんです

アリーというキャラクターが生まれたことで、「愛してもらってるなぁ」と感じる機会もすごく増えました。エコバッグを買ってくださったお客様が、毎回なでなでしながら来てくださるんです。「他のお店でも大人気なのよ」って、教えてくれたり。

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ーこのエコバッグは、発売から1週間足らずで完売してしまったんですよね。レストランは食事をする場所だと思っていましたが、愛されるとこんなにも「みんなの大切な場所」になるのだと、驚いています。

ちづる:こんなに大切なひとが増えているなんて、1年前の私たちには想像もできなかったことなんです。大変なこともたくさんあったし、コロナによって大きな変化もあったけど、だからこそ、本当に今、お客さんにこれからも来てもらうにはどうするかを考えないといけない

ーお2人が前向きなスタンスだからこそ、集まる方も明るい気がして。素敵な環境ですよね。

ちづる:自慢なんです。小さなお店だから会話が聞こえてしまうのですが、悪口や暗い話をしている方が本当にいない

針ヶ谷:愚痴もそうだし、大変な環境になっても「なんだか大変だねー」って顔はニコニコしている、みたいな。

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ー美味しい料理や温かい接客を前にして、なかなか人はネガティブになれない気がします。なぜかポジティブになれちゃう場所。アリーにまた行きたくなる秘訣が、わかる気がしました。

ちづる:最近では「アリー語」なるものも生まれているんです。「この鶏胸肉、私の知っているお肉じゃない」とか、「食べるとなくなるんですけど」みたいな、アリーを知っている人同士では「わかる!」ってなる言葉


ー「SNSでファン作り」みたいな話を聞くつもりだったのですが、違いますね。セオリーじゃない。改めて、人と人との生きている繋がりの力を感じました。

ちづる:人と人、一対一で接したいんですよね。もともとお客様の名前はすぐに覚える方でしたが、コロナで予約制にしたことで、もっとたくさんの方のお名前を知れるようになったんです。自分だって嬉しいじゃないですか、名前を覚えてもらえるって。

予約いただいた時に必ずつけていたメッセージカードも、大切にとっておいてくださって、それでカードゲームをやっていますという方がいたり。新しい遊びまで生まれちゃったりして。もう本当に、愛してもらっています

ーシェフは料理が好きで、ちづるさんはシェフの料理が好きで、お客様も、料理とお二人の人柄が好きで。各々が好きなようにアリーを愛して、どんどん楽しいことが生まれる。その秘訣は、「やりたいことをやる、自然体である」それにつきますね。

針ヶ谷:すごいことをやっているとは、全く思っていません。好きだからやっている、それだけだから。もちろん僕たちはこれが仕事だから、売上は大事。ただ、このコロナの時期を振り返って思うのは、お金じゃないプラスαをすごくもらったと思っています。

人との出会いもそうだし、普段だったら生まれなかった会話も、全部。通常営業ができなかったこの数ヶ月の経験は、これから先の半年、1年先にいい方向に連れて行ってくれると信じています。これから先、何をやっていくかの考えは、いっぱいあります。ピンチになったからこそ、アイディアはたくさん浮かんできました。

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ーどんなことが起こるのか、ワクワクします。いよいよ、通常営業が再開しましたね。

ちづる:時間制を取り入れたり、席数を減らしたり…。コロナ以前の営業方法にはどうしても戻せないですが、安心していただける環境で営業していきます!

針ヶ谷:どんな困難な状況になっても、人が食事をしなくなることはありません。それに対して、料理を作って提供するのが僕たちの仕事です。お客さんからいただくご意見もすごく嬉しいので、一緒に考えて…。次は何が来るんだろう? なんて話をしながら、楽しんでいけたらいいなと思っています。

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「アイスがテイクアウトできるようにならないか…」「美味しいスープをお鍋で持って帰れるようにしたい…」アリーのいちファンであるラブソルメンバーからの無茶なお願いにも、「いいね、やってみたい!」と答えてくださるお二人。これからも、期待を楽しく裏切ってくれるに違いありません…!

6月23日(火)より、いよいよ通常営業が再開となりました!

最新情報は、アリーのTwitterまたは公式HPにて、ご確認くださいませ。

こちらのHPは、ラブソルで制作させていただきました。

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取材:小野寺 美穂
執筆:柴田 佐世子
編集:柴山 由香
写真:池田 実加





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