この不確かな時代に、確からしさを追求するために。顧客ビジネスに関与する、WEBデザイナーの「基準」を目指す #羅針盤のつくりかた
そもそも、ビジネスとは何か。
「社会に出る前にこの本を読みなさい」
「社会人として、これは覚えておかないといけないから」
就活世代の私、野元は、大学のキャリア支援室や教授、先輩たちからこういった言葉をかけられることが多くあります。
目には見えないけれど、社会人なら身につけておかないといけない「何か」。
「これは知っとかんといけんから」と言われる度に、どうやって学べばいいの? それは本当に今、学ばないといけないの? と抱く違和感。
そんな時にTwitterで見かけたのが、川端さんの制作した図解や、記事でした。
情報や考えを伝えるために制作された図解や記事の、あまりのロジカルさに釘付けになりました。
今、自分に欠けていると感じているのは、この思考プロセスなのかもしれない。
そんな思いを抱き、株式会社nano colorの川端さんにお話しを伺う機会をいただきました!
川端康介(かわばた・こうすけ)
株式会社nano color(ナノカラー)代表取締役、デザイナー。起業10年で約1000本のLP制作と解析と運用を実施。27歳で入社した会社でEC事業を立ち上げたのをきっかけに、ECの世界に身を置くようになる。EC事業を担当しながらデザインや経営を独学で身につけてきた。データ解析 × ユーザー心理 × クリエイティブで真っ当な広告デザイン創出を目指す。好きなものは、ゾンビ映画。
お客さまの「これ作って」を、良い意味で信じない
ーーいつもTwitterで勉強させていただいている川端さんから実際にお話を伺えること、嬉しくて緊張します! よろしくお願いします。
僕も緊張します(笑)。よろしくお願いします。
ーーまずはじめに、川端さんのお仕事について教えてください。
ナノカラーは、LPを作る「制作会社」です。ただ、制作会社としてはビジュアルや造形よりも「機能」を重視しています。
お客さまから制作の相談をいただきますが、その相談の裏には、「ビジネスに何かの問題があり、その問題を解決したい」というメッセージがあるんですよ。
そのためには、お客さまのビジネスを理解することがとても大切です。未来の目標と現状との乖離、そこが問題であり、そこを埋めるのが課題です。課題を埋めるために、本当にLPは必要なのかどうか。そこを含めて僕たちは提案をしていく、そういうお仕事をしています。
つまり、制作物がビジネスの中で正しく機能するかどうかを重視する制作会社です。
ーー私もラブソルでノベルティ事業に携わる中で、お客さまにヒアリングをする機会がありました。何かを作りたい、とお問い合わせいただいた方にとって本当に解決したい課題とは何なのか。もちろん把握したいですが、難しさもあって。ヒアリングをする際は、どういったことを意識されていますか?
まず「企業がどこに向かっていて、今、何に困っているのか」を聞きます。これは、事業戦略と現状の問題とその定義を把握する為です。お客様は制作することを「解決策だ」と思い込んで相談をされるケースが多い。僕たちは、その思い込みが正しいのかどうかを見定めて判断するために、できる限り多くの事実を集める様に心がけています。
売上や新規獲得率が低いと相談いただきますが、「何と比べてどういう状態が低いと評価されているか」を理解しないといけない。そもそも現実的ではない高すぎる目標かもしれないし、競合の広告出稿量が増えて一時的な状態なのかもしれない。知らないと、せっかく作ってもなんの役にも立たない可能性がありますよね。
ーーお客さまの「これをして欲しい」をそのまま受けるだけでは、言われたものを作るだけの会社になってしまうのですね。
そして、言われるままに作るだけの仕事が始まる。
デザイナーさんの多くがお客様の「作って欲しい」に対して、いかに気持ちよく満足度を高めるか。そこだけに技術や時間を費やしてしまいがちだなあと感じていて。
相手の好みだけが顧客満足度に影響する関係性って、相手の言うことを聞くことが、「寄り添う」ことと錯覚してしまう。なぜなら、作る目的も、評価する基準も依頼主の頭の中にしか存在しないからです。当たり前ですが顧客はデザイナーではありませんので、デザイナーが相手の共通言語を話し、導かなければいけません。
だからこそ、制作者が自分の身を守るためにも、お客さまのビジネスに関与するというのは必要なことだと思っています。
読書でも勉強でもない、マーケティングの第一歩
ーー「ビジネスに関与する」今、めちゃめちゃドーン、と来てます。そのほうが面白そうですよね! そうなると、マーケティングなどのビジネス知識が必要になると思います。川端さんはビジネスをどうやって学びましたか?
…学んでいないです(笑)。
ーーえぇ!?
知識は大事ですが、漠然と学ばなきゃという危機感だけをモチベーションとして学んだ記憶がないんですよね。そもそも僕は、勉強が苦手で。頼ってくれる人がいて、その人にどうすれば役に立てるのか、それだけで十分だと思っています。
相手の役に立とうと思う例として、バナーの制作依頼をいただいたら、まず聞くのはどんなことですか?
ーーサイズとかデザインの方向性ですか?
それは、単に自分の作業やタスクを理解したいだけの質問ですよね。
依頼相手が広告バナーで果たしたい目的って何?それを理解するには、出稿媒体(どこで)とクリック先ページの目的(なにを)が聞くべき内容です。どれだけ満足できるバナーデザインも、ビジネスにおいての成果は数字で判断されるものですので、今のクリック率やページの成果も合わせて聞きましょうよ。
例えば、クリック率が1%のバナーがあります。でも、目標は1.2%なんです。その0.2%をどうやって上げるのか。誰がクリックして、誰がクリックしていない結果が1%なのか。クリックしなかった人は何を求めていたのか、そもそもクリック率だけを評価していいのか、とか。考える余地ってとても広大なんですよ。
これって、顧客ビジネス関与の一つですよね。でも、サイズとデザインの方向性を聞いているだけでは、こんな状況は生まれません。
「これをやれば必ず結果が出る」というセオリーもないからこそ、過去の情報を正しく解釈して未来を予測することが求められます。だからこそ、デザイナーの思いつきにお客さまの大切なお金を使わせるわけにはいかないじゃないですか。そんな風に、目の前で起きている事実やその背景をあらゆる角度から考えることがマーケティングの第一歩じゃないですかね。
ーーなるほど…! 実は、私大学を留年しているので、今は大学生と社会人の間にいるのです。周りから、「社会に出る前にこれは読んでおけ」とビジネス書やマーケティング本を勧められることが多くあります。でも、本を読んでもピンとくるものは少なくて…。「1%を1.2%にするにはどうしたらいいか考える」というのは分かりやすくて、なるほどと思いました!
うんうん。実際に考えてやってみて行き詰まった時に初めて、何か解決できる本はないかなと探して読んでみると、自分にとってちゃんと血肉になる。知識も経験も状況も違う人がおすすめする本を読むくらいなら、大好きなゾンビ映画を見てる方がよっぽど有意義な時間を過ごせますよ。
ーーゾンビ映画(笑)。
この部屋にある椅子の数、パッと答えられますか?
ーー私は、ラブソルで「ビジュアルレポート」の制作を主にしており、資料など情報をいただいて、テキストやビジュアルを使って一枚にまとめています。情報編集についても、川端さんにお聞きしたいことがたくさんあります! 川端さんは何かを作るとき、まず何から始めるのですか?
まずは、自分の中で「こうじゃないかな」という仮説を作ります。
ーー仮説を作る。それは、いくつも作るのですか?
いや、一つでいいと思います。よく、データや情報を「見る」といいますが、本当に見るだけだと単なる視覚的な情報摂取ですが、「こうじゃないかな」という仮説をもつと、答え合わせができます。これが「検証」です。次に、仮説とどれくらい違っていたのかと照らし合わせると「差分」が見つかります。
この差分を素早く埋めるのが、経験や知識です。せっかくの経験も知識も、仮説を持たないと頭や心を素通りしてしまいます。
例えば、この部屋には椅子が何脚あるか分かりますか? 今から数えないと分かりませんよね。でも、部屋に入る前に「この部屋にはテーブルが5つあるので各4脚だと計20個かな。しかし、別の同じ広さの部屋だと30脚あったな」という仮説があれば、部屋に入ると椅子の数を数えますよね。
こんなくだらなくてもいいので、自分の中で仮説を持って見てみると、事実はどうだったのかと検証ができる。でも、大事なのは椅子の数ではなく、これは部屋を設計した人の意図に辿り着くための大事なフローなんです。
こうやって仮説を立てると、情報の使い方を自分で決めて扱うことができる。
ーー仮説、立てられていませんでした…。今まで自分が時間をかけていたことは「羅列」に近かったのかもしれないです…。何か一つでも仮説を立ててやると、コンテンツとしての力がもっと強くなるのではと思いました!
それ、めっちゃいいと思います。仮説を立てて、検証して、改善して、その中で目的を果たせた事実だけが、その時の最適解になります。
ーー改善をしたらまた検証をして、その中で事実に最も近かったものが解になる、というわけですね!
そうです。ビジュアルレポートを制作することで、「依頼をした会社は以前と何が変化したのか」というところまで考えていくと、答えがもっと見えてきます。リツイート数やいいね数というような数値も評価基準の一つになりますよね。
ーーツイートにリプライがつくなどの反応があると、嬉しくてつい満足してしまうことがありました。
「いい」ってなんだろう? と考える。何と比べてどういう状態を「いい」と定義するのか考えると、さらに見えてくるものがあります。
あとは、ビジュアルレポートの対象者とその目的にもよります。誰にどんな感情を抱かせるのが目的なんでしょうか。イベントに参加して、後から振り返って見てみると、よくまとまっていて分かりやすかった!という反応を狙うと、参加できなかった人がそれを見て「次は参加したい」という感情を抱かせる。そしたら、次のイベント開催日を告知して申し込みフォームもつけておくと次回の申込者が増えるんじゃないか。
こんな風に仮説が新たな仮説を作っていく。誰に何をどうやって、を紡いでいくイメージです。
「図解」は、言語化のスタート
ーーちなみに、川端さんはなぜ図解を制作しているのですか?
図解ですか? 100%自分のためです。
コンテンツを作るとき、まず図を作るんです。図を作ると、ドラマの関係図のように僕の考えの成り立ちが整理されていきます。AとBは遠いようで連動している、CとDはAとBと同じ軸上にある、などに気づけます。こうして構造化すると、散らかった頭が整理され、つまり…? という抽象化ができる様になります。図解は、僕にとって言語化のスタートですね。
そして、図を投稿してフィードバックをもらう。そのフィードバックからまた調整する。自分の中の暗黙知を形式知に変換するための儀式の様なもので、さらに、自分の考えが市場でどの位置にいるのかを理解するメタ認知装置にもなります。
なので全て自分のためだけですね。
ーーす、すごい…! 言語化をするために図にして、構造化から入ると。
そうそう。人によって解釈や定義が変わる便利なことばってあるじゃないですか。例えば、さっき話していた「お客様に寄り添う」という表現。寄り添うの反対語や類義語を調べたり、ウィキペディアで調べたり、Yahoo!知恵袋やSNSではどんな人がどんな意図で使っているのか調べたりして。そうして、いろんな使う人と使われ方を構造化すると、僕は「お客様に寄り添う」という言葉をどの位置で捉えているのかが相対的に理解できます。
やっぱり自分のためですね(笑)。
ーーことばの意味だけでなく、位置付けや関係性を考えるのですね!
ですね。これはターゲットの心理状況を考える時にも使っていますね。
ーー最近、インフォグラフィックやグラフィックレコーディングなど、ビジュアルで表現するコンテンツを目にすることが増えてきました。今後ますますビジュアルが多く並ぶようになっていくと、テキストコンテンツの反応が鈍くなるのではないかなと…。
いやぁ、読まれないのは、読んだ人にとって「つまらない」からなんじゃないかな。面白いものであれば反応されるし、読まれる。表現方法はさておき、中身、コンテンツが対象者にとって良いか悪いかが全てだと思いますね。
ーーなるほど! 表現方法を考え過ぎることもあったのですが、そうではなく、本質的に考えるべきですよね…。
LPも、長いと読まれないと言われることがあります。
確かに、一番下まで読み進める人は10%いかないくらい。しかし考えなければいけないのは、読まれることと成果の良し悪しに相関関係はあるのかってことだし、そもそも長いって誰のどんな指標なのかも考えず、感覚的な感想で判断してしまうのも、良い状況ではないですよね。短くしたからといってコンバージョン率が上がるのかと言われると、その限りではないです。
読まれない=離脱されるということは、LPの長い短いの問題ではなく、「そこに求めている情報がなかったから」以外にないと思いますね。
「顧客ビジネスに関与する」消耗しないための働き方
ーーざっくりとした質問なのですが、川端さんは今後、どうしていきたいと考えていますか?
僕には業界を盛り上げたいとか、トップになりたいとか、後輩デザイナーを育成したいといった願望がありません。
僕は、顧客のビジネスにもっと深く参加したいし役立ちたい。今までの経験を活かしたり捨てたり試行錯誤しながら、ちゃんと成果を残したい。だから、自分で考えて作って提案し満足していただくまでをセットで考えています。そこまでやるからこそ、代えがたい経験が得られます。
ただ、もしかするとその先には、僕のスキルセットは選ぶ側の顧客にとって、選定の基準になれるのでは? と思っています。トップではなく、基準です。すると、デザイナーが顧客のビジネスモデルを理解するのは当たり前になり、データの解析や仮説を立てることも、ユーザー心理を読み解くことも当たり前になるかもしれません。副次的にそういう基準を作った功績ができたら、それはとても嬉しいですね。
ーー川端さんが基準の世界、すごく面白そうです!
「マーケティングはどうやって学んだらいいですか」と聞かれることは多いけれど、僕は手法論のお勉強がマーケティングとは考えておりません。
それは、仕事をしていたら絶えず直面します。「どうやって学ぼう」と考える暇がないくらい、目の前に存在しています。学んだ方がいい、じゃなくて、責任を持って顧客ビジネスの中でデザインを機能させるには必須であり、その結果が自分の身を守ることでもあります。 本を読むだけでは決して完結できないことです。
興味を持つのが大切ですよね。どうなっているのだろうと。興味の対象を分解してみましょうよ。少しだけ構造がわかるようになります。それを繰り返しましょう。共通しているものや全く違うものが認識できるようになります。
普段生きていると、自分が何を知らないのか、いまいち分かりませんよね。具体的に「やってみる」と初めて「自分が知らないこと」を知り、新たな知識が入る領域を認識することができます。そして、知らないことを「知る」と、自分に基準が生まれます。
ただ、分かっているつもりでも上手くできません。おすすめされた本で勉強するだけではこの状態。では、上手くできる人との違いは何なのか? 上手くできている人を注意深く観察すると、「自分とここが違う」という具体的差分が見つかります。「なんか分かんないけどあの人はすごい!」という感想ではなくなります。これが「気づく」です。
この差を理解すると、自分が摂取しなければいけない知識や経験が見えてきます。見様見真似でやってみると上手くいくときがあるでしょう。これが「分かる」です。
「分かる」を繰り返すと、自分の型が見つかります。それが技術です。その技術がもたらしてくれるのが「できる」です。自分にとって「できる」ことが市場から求められ、顧客のビジネスに貢献できれば、辛い消耗戦を繰り返さなくてもいい。
物事や相手への興味と問いと検証の繰り返しによって、「できる」が増えていくものだと思っています。ビジネスやマーケティングやデザインは、それを実践する枠組みの話です。
ーーそう考えるようになれたら、社会に出るにはビジネスを学ばないと…、と考えて嫌になる学生も少なくなる気がします。ちなみに、会社の方の目標はありますか?
改めて考えてみると、僕はお客様のやりたいことと自分のやりたいことを結びつけるのが得意だなと思っています。
1円の儲けもないのに、勝手にリサーチしたり、広告データを分析したり、調査結果をまとめて提案書を作ったり。それが制作物を機能させる上で絶対に必要であり、お客様にとっても必要だと信じていました。そして、何より僕が興味があったんです。その結果、とても喜んでいただけ続けて、今のスタイルが確立しました。
何度も喜ばれ続けたら、サービス化してしっかり費用をいただく。さらに続けば価格を上げる。その繰り返しです。競合他社の価格がいくらなのかとかは全く関係ない話です。
そうやって、仕事で生じる全ての時間も思考も自分への投資に変える発想って、とても僕らしいと最近感じています。良くも悪くも自分勝手なんです。
きっと会社は、今後もその繰り返しです。今まで解決できなかった領域に勝手に挑戦し、しっかり成果を出して喜んでいただく。一緒に働いてくれているメンバーもそんな環境を楽しんでもらえたら、それだけで僕はとても満足です。
***
川端さん率いる株式会社nano colorさんとのお仕事が気になった方は、こちらから!
取材・執筆:野元萌乃佳
撮影:池田実加
編集:柴山 由香、Special Thanks♡川端康介
バナーデザイン:小野寺 美穂
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