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Vol.22「変える」「教える」「学ぶ」「持ち回る」「吹き込む」

お父様が創業された不動産会社に、新卒社員として入社された三田さん。入社後は、様々な部署で知識と経験を蓄積し、研鑽を積んだ後、3年前に事業を継承されて2代目として社長に就任されました。
現在は、30人の社員をまとめる経営者として、不動産業界固有の課題を克服しながら、新しい組織の形を模索されています。業界特有の慣習にとらわれすぎず、元来あるべき組織と経営に向き合う三田さんに、お話を伺いました。

「売る・稼ぐ」の文化を【変える】

三田さんのお父様である創業者は、その経営スタイルを「根っからの営業畑を素地としたカリスマ型の経営者」として築き上げました。会社の歴史は50歳以上のベテラン社員を含む多くのメンバーが安定的な実績を積んできた賜物であり、20年以上のベテランも数多く存在しています。

しかしながら、不動産業界は景況感に左右されやすく、組織は営業中心の「売る」「稼ぐ」文化に依存していた、と三田さんは振り返ります。
「ベテラン社員の存在は大変ありがたいが、同時に若返りが不足しているとも言えます。これからの会社のことを思えば、組織を『変える』必要性を感じ続けていました」
さらに、と三田さんは続けられます。
「以前のように『1日1商談』というような社員全員に同じメッセージで発破をかける組織経営だけではたちいかなくなる。社員一人ひとりの良さを活かし、引き出していかなければ、会社としても成長できません。また、そのためにも、指示するだけではなく、指示の背後にある論拠を示し、コミュニケーションを深められる組織にならなければ、と常に思っています」
三田さんは、これまでのご自身の経験や体験と、市場の状況も踏まえた上で、自社のもつ課題感を1つずつ解きほぐしていかれました。

このような状況を鑑み、三田さんはどのように組織を変えていこうとされているのでしょうか?

「現状を否定するのではなく、現状を基にしてどのようにアレンジして現代風の組織に変革するか」
が、真っ先に三田さんがお話しくださった言葉です。これまでの実績や成果を否定するのではなくて、今あるものも取り入れながら、変えていく。その一環として、特に若手の採用と育成に焦点を当て、「現代風の組織への変革」を内外に示すために積極的にブランディングに注力しています。

「見せる・盗む」から【教える】【学ぶ】時代に

では、三田さんが考える「現代風の組織」はどのようなものでしょうか。
組織の若返りだけでなく、社内での営業技術などのスキル継承を含めた、大きなテーマに取り組まれているのです。三田さんが事業を引き継いだ当時の組織は、不動産業界全体が有する「売る」「稼ぐ」を中心とした文化を色濃く有していました。既存の従業員の多くは「不動産業界は稼げるから」という理由で入社し、叩き上げた方々で、「営業はセンス」「見て、盗んで、覚える」といった前提が根強かったと話されます。
しかし、昨今は「売上トップを目指す」よりも「自分自身を成長させたい」と考える人が増えたと、肌感覚として感じることも多いと言います。すると、人材の採用と育成についても、これまでのやり方や前提では運営にひずみが生まれてしまうことを覚悟した三田さんは、「成長したい」とは、「この会社に入ったらどんな経験ができるのか」「成長するために、会社からどういうサポートを受けることができるのか」といった具体的な応募者や新人の方々のニーズを踏まえ、会社での育成を見直されてきたそうです。
一方で、看過できない点もあります。「ベテラン社員はこれまで会社の屋台骨を支えてくれています。もちろん、これからも支えて頂かねば会社が成り立ちません」
時代とともに変わっていく、今後の事業成長を見据えて、新しい・若手の価値観に即した運営も必要である一方で、これまでの礎も壊すことはできない。両方の状況を満足させるには、ベテランと若手の共存が必須だと話されます。共存と言葉では言いますが、実際は、価値観にまで迫るようなお話ですから、そう簡単ではないですよね。
実際、どのような対応をされてきたのか、改めて伺いました。「若手育成のために個々のベテラン社員が個人的にOJTを行うのではなく、会社でオフィシャルな場を使った勉強会(アカデミー)を開催し、その講師役をベテラン社員に担当してもらっています」
これまで会社の売上や成長に貢献し、「営業はセンス」の文化で牽引してきたベテラン社員が、自らの知識や経験を言語化して若手社員に伝えるというのは大きな変化ですから、ハードルもあったのではないでしょうか。
「もちろん、課題意識のあるベテランは講師をやってくれるが、そうでない人にとっては、ハードルが高いという状況もあります」
三田さんは、それ自体が全員にいきなり浸透してきたわけではないけれど、という前提を持たせながら、ベテランの皆さんに、まずご自身の信念を伝えたそうです。
「社員が成長できる会社にする」「若手に焦点を当てるだけでなく、育てるのはベテラン」「教わるのは研修だが、教えることもまた研修」「尊敬されるようなベテランになってほしい」
まさに、前述した「指示するだけではなく、指示の背後にある論拠を示し、コミュニケーションを深められる組織にならなければ」という三田さんの考えを、より具体的な行動として表現されたのですね。

職位に関わらず【持ち回る】ことで生まれる一体感

三田さんが導入されたもうひとつの施策があります。それは、全体会議の場で、全員が持ち回りのプレゼンテーション会を行うという仕組みです。この会は、全社員が持ち回りで運営されているそう。毎回二人の社員が自分の得意なことについて20分間のプレゼンを行います。持ち回りに職位などの序列はありません。無論、順番が回ってくれば、社長である三田さんも発表を担当します。実は、三田さんご自身もプレゼンが得意というわけではないそうです。それでも、自らこのような場を設けて、ご自身も取り組まれているのです。社長はオブザーバーということはよく聞きますし、そこまで得意でなければ、正直やらないという選択もできる立場です。それでも、あえて挑戦される姿勢を崩さない三田さんに、その真意も伺いました。「社長自身もトライすることを見せ、社員の向上心も育てられたらなと思っています。また、平等に『持ち回り』で自分も入って行うことで、組織としての一体感をが生もうとしています」
当初は乗り気でなかった社員も多かったそうですが、いざやってみると、好評となっているそうです。まさに「ベテランと若手の共存」そのもの。そして、社長も自分から取り組む姿勢を見せ続けたからこその変化ですね。

新卒から見続けた会社に、新しい姿を【吹き込む】

ご自身が事業を継承される以前から、三田さんは自社の強みや課題を考え続けてこられたと言います。経営者としての立場になった今、かねてから考えていた、新しい組織の姿を「吹き込む」ことを1つずつ実践されていらっしゃいます。
「言語化されたベテランの知識と経験による若手の育成」や「全体会議の場での20分のプレゼンテーション会」は、三田さんが描く組織の取り組みの一部です。さらに加えて、「組織のフラット化」「面談の仕組みの導入」といった取り組みも積極的に進めてきました。
組織のフラット化は、膨れていた自社内の役職数を減らす試みです。営業の現場では、役職名が信頼を生み、商談が円滑に進むことも多々あるそうです。しかし、それが逆に自社の組織の統制を煩雑にしてしまうと感じていたそうです。役職数を減らすことは、対象となる社員にとっても心理的な障壁の高い方針だったことは想像に難くないですが、三田さん自ら丁寧に対応し、強い信念を持って実現されたのです。
さらに、面談の仕組みとして「社長との評価面談」「社長とのOne on Oneミーティング」を取り入れました。当初は、三田さんのかつての上司と、社長として面談という設定に緊張されたり、内容や伝え方なども試行錯誤が続いたそうです。しかし、こちらも回数を重ね、今ではご自身でもスムーズに進行できると実感されるまでになったそうです。三田さん自身も、この時間を大切にされているのだなと伝わるお話が印象的でした。お人柄もあってか、「社長が1時間、自分のために時間を割いてくれている」というのは、会社を知り、愛着をもつ機会にもつながりそうですね。

事業を継承されて、もう間もなく4年目になろうする三田さんは、4年目に突入する前に、無記名の社員アンケートを行い、社員が「会社を、組織を、社長をどのように見ているか」を客観的に知ることも行ったそうです。
「まだまだ課題は多いが、何とか前に進めている」という三田さんのお言葉には、これまでの達成感と今後の課題への挑戦意欲が強く伝わってきました。異なる価値観を抱くメンバーがいるからこそ、お互いの理解を深めていく機会や、ご自身も場に参加して研鑽する。三田さんが、1つずつ、ご自身と組織と丁寧に向き合い、常に未来に向けて組織を前に進めていこうとする姿勢が印象的な取材でした。

【取材協力】
株式会社東京中央建物
三田 正明様
https://www.t-c-t.co.jp/

《この記事に関するお問い合わせ》
ラボラティック株式会社 広報担当
info@laboratik.com


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