見出し画像

研究からデザインの道へ【プロフィール】

2023年2月に株式会社ラボクリエイトという会社を立ち上げて、企業の研究開発や大学の学術活動におけるクリエイティブな面をサポートするビジネスを始めました。一言で言えば、研究開発や学術活動に関するコンサルティング。ですが、ただ依頼主様の相談にのってアドバイスするだけではなくて、依頼主様の意向をくみ取って様々なコンテンツのデザインや制作も自ら行う「理系デザイナー」です。

具体的には、資金調達のための企画提案書やプレゼンスライドといったビジネス資料の企画、制作、デザイン、編集をやったり、製品や技術を紹介するフライヤーやプレゼンスライドをデザインしたりしています。企業や大学研究室のウェブサイトの制作もやっています。また、それらに必要なイラストやグラフィックなどのコンテンツの創作も行っています。その延長で、さらに研究開発の中身にまで踏み込んで、企業の試作装置の立案・設計・製作を行ったり、それらを使った実証試験に協力したりもします。

noteでは、これらの仕事に必要なテクニックやノウハウを紹介していきたいと思っています。せっかく様々なことを学んで出来ることも増えてきたので、note記事の形で記録に残していこうと思っています。

これまで

現在、筆者はデザイナーのような仕事をしていますが、デザインを学んだわけでもなければ、デザインの専門家でもありません。もともと大学の専攻は工学系の機械工学専攻で、学位は「博士(工学)」です。以前は大学の研究所で研究者や教職員として学術研究に取り組んでいました。専門分野は、熱流体制御、流れの可視化計測、画像解析、機械制御など、完全なエンジニアリング分野です。

大学の研究所では、微細加工関係、生化学分析関係、海洋関係など様々な分野の研究プロジェクトに巻き込まれ、多くの企業との共同研究案件にも携わってきました。最後は、サイエンスやエンジニアリングとデザインを融合させることでイノベーションを起こすという活動に軸足を置いて、研究者というよりプロデューサーのような役回りを担っていました。工学系の研究者のみならず、デザイナーや人文社会科学系の研究者、さらには一般市民もいっしょに取り組む実践的なデザイン研究プロジェクトに関わることで、装飾としての「デザイン」ではない、いわゆる「デザイン思考」といった、より広義な意味での「デザイン」を知ることになりました。こういった経緯で、いつのまにかデザインも専門分野のひとつになっていました。

なぜデザインの道へ?

いわゆる表層的な装飾という意味でのデザインを意識するようになったのは、大学4年生のときで、研究室で卒論研究に取り組んでいるときでした。所属していた研究室は流体力学、とくに乱流を研究対象としている研究室で、熱流体現象の計測やコンピュータシミュレーション、可視化が主な研究テーマでした。可視化というのは、目には見えない水や空気の流れを理解するために非常に重要な技術です。リアルな実験においては、例えば煙をたいて空気の移動を目に見えるようにしたり、コンピュータシミュレーションでは、計算で得られた速度をグリッド状の矢印で表示したりするといった行為を可視化と呼びます。自動車の空力試験の様子や、天気図での風速分布のCG映像を想像してもらうとわかると思います。このような可視化では、本来、目に見えない現象をどれだけ直感的に理解できるようにするか、伝えたい科学的な情報をいかにわかりやすく伝えるかが大事です。さらに言うと、せっかくなら美しくかっこよく見せたくなります。これはまさにデザインであり、流れの可視化という科学的で工学的な技術において、デザイン的な視点は非常に重要です。

当時、研究室の教授から、「研究や実験にかける時間と同じかそれ以上の時間を、その成果を相手に伝えるための行為に使いなさい」と言われたことがあります。研究室に入って研究を始めると、どうしても研究や実験に全力を注ぎがちですが、研究とは、ただ文献調査をして実験して計算して結果を出せばいいというものではありません。それをミーティングでプレゼンしたり、学会で発表したり、ポスターにしたり、論文を書いたりすることで、他の誰かにその成果を伝えてはじめてそれをやった意味が生まれます。例えば、「100のことをやってそのうち30しか伝えられない研究」と「60のことをやって50を伝えられる研究」を比べてみてください。どっちがよい研究でしょうか?答えは明らかです。やったことが100であっても、そのうち他の人に伝えられなかった70のことは、やっていないことと同じです。それよりも、60しかやっていなくても、そのうちの50を伝えられた研究の方が、はるかに意義がある研究であるという評価になります。伝えることはそれぐらい大切だということです。

何かを相手に伝えたいときに、見た目のデザインは非常に重要です。わかりやすく、効率的に情報を伝えるために、私たちはできる限りの工夫をするべきです。そのための時間や手間、コストを惜しむことは、結果的に大きな損失につながってしまいます。見た目のデザインのせいで、わかりにくくなる、伝わりにくくなるのはもちろん言語道断ですが、さらに、美しくない、ダサいというのも百害あって一利無しです。美しい、かっこいいと感じさせることができれば、それだけで好印象を持ってもらえますし、伝えたい内容がより魅力的になり、高い付加価値が加わることになります。「デザインがよいとメリットがある」のは確かにそうですが、それより「デザインがダメだとデメリットがある」ということの方が深刻な問題なので、それを忘れてはいけません。

得意なのは「理系デザイン」

もともと理系の研究者で、デザインそのものを学んだわけではない筆者が、事業提案書やプレゼンスライドといったビジネス資料をデザインするという仕事をしているわけですが、その強みはどこにあるのか。ただ単に、見た目の装飾を工夫して魅力的に見せるだけなら、本職のプロのデザイナーに任せればいい話だと思います。その方が、凝ったデザインにしてくれてインパクトのある見た目に整えてくれることでしょう。もし、誰でもすぐに理解できるような内容を一般の人に見せる広告のようなものであれば、その方がいいはずです。

企業の新規事業提案書や独自技術の紹介プレゼンスライドなどの内容はかなり専門性の高いもので、ある程度、中身を理解できないことには、その見せ方をどうすればいいか考えようがない場合がほとんどです。その内容を考えた当人たちが当然、その内容にもっとも詳しいわけですが、彼らは往々にしてデザインの知識とテクニックが乏しく、魅力的に見せるためのデザインをすることができません。本職のデザイナーに頼もうとすると、逆に彼らはデザインは得意であってもその内容が専門的すぎてさっぱりわからない。ある程度理解してもらうためには、それ相応の時間と手間をかけて内容を彼らに説明しなければならなくなって、非常に非効率です。

理系の専門的な内容を理解することができて、なおかつそれを魅力的に見せることもできる、そんな「理系デザイン」を筆者は目指してやっているつもりです。理系で専門的と一口に言っても工学系や生物系、化学系など様々な分野があって、当然、よく知っている分野とそうでない分野があるものですが、何でもいいので一つ極めた道があることが大切です。それがあると、他の専門分野に対しても、どうアプローチすればいいかをわかっているため、教えてもらったときの理解も早くなります。

内容をわかった上でデザインすることができると、見た目のデザイン以上のこともデザインできます。例えば、構成をこうすればいいとか、この箇所は省略してもいい、こんな事柄も加えた方がいい、といった中身そのものに関する提案やコンサルティングを、第三者の視点からできます。さらに、素材となる内容とラフな構成案だけ依頼者様からもらえれば、あとはこっちで内容を分析してデザインしてみる、といったアプローチも可能です。どう見せるかという構成もデザインの一部なので、内容の大筋さえわかっていれば、生煮え状態からでもある程度デザインされたものを提案することはできます。本当に大事なのは、見た目のデザインよりも、中身のデザインですから。

内容をわかった上でデザインすること、見た目のデザイン以上のことまでデザインすること、ラフな内容でもどうにかすることを、「理系デザイナー」である筆者は得意としています。


この記事が参加している募集

#自己紹介

230,655件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?