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プレゼンスライドで使っているそのアニメーションは本当に必要?

プレゼンスライドにおけるアニメーション機能は、使わずに済むなら使わない、使う理由がある箇所にだけ使うのが基本です。あくまで必要に迫られて使う補助的な機能であり、過剰な演出は逆効果です。一方、ページ切り替え時のアニメーションは、ページが変わったことを認識させるために効果的です。

PowerPointを使い始めた頃のことを思い起こしてみてください。マウスをクリックするたびに、テキストが画面の外から現れたり、写真がにじみ出てきたり、画面全体が回転しながら次のスライドに進んだり、といった派手なアニメーション機能を、誰でも一度は使って楽しんだ経験があるのではないでしょうか。

筆者は古い人間なので、はじめて人前でプレゼンをしたときに使ったツールは、オーバーヘッドプロジェクター(OHP)とOHPシートでした。当時は、Macのクラリスワークスというソフトウェアを使ってスライドを作成して、それを透明なA4サイズのOHPシートに印刷して、OHPシートをオーバーヘッドプロジェクターに手で載せてスクリーンに表示しながら、ときにはその透明シートにペンで直接書き加えながら、プレゼンをしたものです。さすがに、ポジフィルム写真のリアルな”スライド”とスライド映写機を使ったプレゼンは経験がありませんが、それでも、アナログなプレゼンを実際に経験している最後の世代だと思います。そんなアナログ時代も知っている人間にとっては、パソコン画面の中でいろいろなアクションを付け足せるPowerPointのアニメーション機能を知ったときは非常に感動して、とりあえず自分のプレゼンでも多用したものです。今でも、PowerPointの使い方を覚えたばかりの人が、最初にとりあえずやってみることの一つになっているのではないでしょうか。

そんなプレゼンスライドのアニメーションですが、はたして本当に使う必要があるのでしょうか?使うとしても、どういった場面で使えばいいのでしょうか?

図1 アニメーションは本当に必要なのか?

筆者のスタンスを先に言っておきましょう。筆者は、基本的に、プレゼンスライドにアニメーションは必要ないと考えていて、最初は、アニメーションをまったく使わずにプレゼンスライドを作ります。それを使って何も問題がなくプレゼンができるようなら、それでスライドは完成です。そして、「この箇条書きのテキストは話の流れ的に順番に表示させたい」、「この画像はクリックしたら別の画像に入れ替わるようにすると違いがよくわかる」といった特別な理由や意図がある場合に限って、アニメーション効果を加えます。別の記事でもお話ししたとおり、デザインに関しては、理由がないことはやらない主義なので、ちゃんとそうする根拠があることだけやります。と言っても実際は、アニメーションを使うことはほぼありません。使わずに済むケースがほとんどです。

デザイン的によろしくないと思うアニメーションの使い方の一つが、とにかくすべての要素に動きを付けまくることです。みなさんもそんなプレゼンを時折見かけると思います。一般的に、アニメーションやアクションが多すぎると、画面が次から次へと変化してしまい、じっくりと内容を見る余裕がなくなって、非常に目障りに感じてしまいます。もちろん、コンテンツが次々と現れては消えるようなプレゼン手法もあります。「〇〇メソッド」というような個人名が付いた手法を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。例えば、短いテキストを大きく配置しただけのページを次々と表示させながらプレゼンを進めるような方法です。ですが、こういった特殊な効果をねらった方法は限られた用途にしか使えません。アニメーションには見ている人を飽きさせない効果もあるでしょう。しかし、日常の業務や学業における一般的なプレゼンでは効果的かと言われると、甚だ疑問です。

他にも、クリックするたびに画面に次々と新たなコンテンツを表示させた結果、それらが画面にどんどん重なってしまい、非常に見づらくしてしまうことがあります。これもデザイン的に問題があるアニメーションの使い方です。重なってしまって見えないということは、2次元空間に収まらないほどの大量の情報を1ページに詰め込みすぎているということです。これはつまり、ページ分割の仕方が間違っている、あるいは構成そのものがおかしいということになります。

さらに、現実的な話をすると、コンテンツが何重にもオーバーラップしているスライドは、パソコンでの編集作業が大変です。画面に見えていない、他の要素の裏側にあるものを編集していると、どっちが前面でどっちが背面かわからなくなってきますし、アニメーションの順番も、どっちが先でどっちが後か混乱してきます。そのあたりを編集しやすくしてくれる機能が、PowerPointには無くは無いですが、いずれにしても編集作業が大変になるのは間違いありません。

スライドの各ページは、ページ全体を静止画として見たときでも、ちゃんと全部の内容を視認できて理解できる、というのが理想だと筆者は考えています。プレゼンスライドはそうなるようにデザインされるべきだというのを基本スタンスとしています。もし、スライド内の要素が重なってしまって裏側にあるのが見えない場合は、それは複数ページ分のコンテンツを1ページに無理矢理詰め込んだことになるので、本来、ページを分けるべきです。ちなみに、内容が重ならないレイアウトにしておくと、印刷したときにもそのページに配置した全てのコンテンツがちゃんと見えるので、配付資料として使いたいときにも、とても好都合です。

一方で、スライドのページ切り替えのときのアニメーションについてはどうでしょうか?いわゆる、PowerPointで言うところの「画面切り替え」時の動的な効果のことですが、これに対する筆者の考えは、他のアニメーション効果に対する考えとは少し違っています。他で使うアニメーションとは違って、筆者は、この画面切り替えのときの動的な効果を積極的に使うようにしています。といっても、画面が回転したり、波打って出現したりするような派手なアクションは使わず、せいぜい、じわじわと新しい画面がにじみ出てきたりする(フェードやディゾルブ)程度のアニメーションです。

なぜ画面切り替え時にアニメーションをよく使うのかと言うと、それは、次のページに進んだことを見ている人にわかってもらうためです。画面切り替えのときも、余計なことはできるだけやらないという意味では、動的な効果を使わずにそのまま、ただ画面が切り替わるだけでもいいときもあります。しかし、すべてのページのデザインが完ぺきに統一されていると、画面切り替え時に動的な変化がなければ、見ている人はページが変わったことに気づかないことがあります。専門的な内容のプレゼンスライドの場合はとくに、似たようなグラフや図のページが連続することもあって、ますますページが切り替わった瞬間が視認しづらくなります。ページ切り替えはプレゼンの構成上の重要なファクターなので、やはりページが変わったことは、見ている人にしっかりと認識してもらいたいところです。なので、画面切り替え時に限っては、できるだけアニメーション効果を使うようにしています。

当然、ページ切り替え時の動的な効果も含めたアニメーションにおいても、プレゼンスライド全体における統一感が重要です(こちらの記事こちらの記事も参照)。したがって、めったやたらといろいろな種類のアニメーションを使うべきではありません。用途に適したものを選んで、プレゼンスライド全体を通してずっと同じものを使い続けるのがよいと思います。

これは好みの問題になってしまいますが、アニメーションを使うとしても、あまり目立たない控えめなアニメーションが望ましいと個人的には思っています。「ああ、これはPowerPointでよく見るアレね」といった感じで、見る人にすぐばれてしまうようだと、ちょっとかっこ悪いですよね。あらゆるデザインに対して言えることですが、それを見た人が、デザインの効果を認識することなく、内容にだけ集中できるようアシストするのが、デザインの本質です。

プレゼンスライドのアニメーションは、あくまで必要に迫られて使う補助的な機能だと考えています。したがって、「使わずに済むなら使わない、使う理由がある箇所だけに使う」というのが基本スタンスになると思います。アニメーションは演出効果が大きいのは確かですが、過剰な演出は百害あって一利なしです。そのアニメーションが、本当にあなたのプレゼンにふさわしいかどうか、よく考えてから使わないといけません。






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