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オンライン研究集会The World of Mathematical Physicsに参加してVol.2

Enterpriseチームのインターン生の金岡です!
インターン生としてPOLで働きながら、普段は大学で物理系の研究をしています。

今回の記事では11月6日から3日間にわたってオンラインで開催された東京大学カブリIPMU主催のThe World of Mathematical Physicsに参加した2日目の様子をお伝えします。(前回のレポートはこちらから)

数学界における男女共同参画後退の危機

研究集会2日目には、野尻美保子先生(KEK/東京大学カブリIPMU)、佐々田槙子先生(東京大学大学院数理科学研究科)から数物系における男女共同参画の現状と提案についてのご講演がありました。

特に数学界では男女共同参画が後退しつつあることが示唆され、大学院における女子学生割合の減少は、数学分野の長期的な展望を考えると特に危機的な状況にあるそうです。

なぜ男女共同参画が後退することが数学界において危機なのか?

それは女性であることを理由に優秀な研究者が研究の道から遠ざかり、自身の可能性を最大化できずに、良い研究成果が失われてしまうことになりうるからです。数学界における男女共同参画の目的は単に女性の割合を増やすことではありません。
平等に歓迎され期待 や評価を受けられる環境、性別による固定的役割分担をされない環境、少数派であることによる不利益や不安なく学問や研究に取り組める環境を整えていくことです。(一部資料より抜粋)

上記は数学界だけでなく、学問は全ての人に対して平等に開かれているという点において学問領域全体に通ずることです。また、誰しもが平等に学問に取り組める環境が整備されていないことは研究成果の損失だけでなく、自由で活発な議論を行う場さえ失われ女性だけでなくマイノリティに属する人間を学問から遠ざけている要因となるのです。

最近では、大学や企業でも女性教員の活躍推進や女性管理職の割合増加などが謳われています。実際、「女性教員の比率を高めるため、名古屋大学は、女性の増員数が目標を下回った部局に対し、ペナルティーとして2021年度の予算を減額することを決めた。」というニュースが話題になりました。しかし女性教員の数を増やすことが目先の目的となっていて、女性教員が自由に研究できる環境、女性教員の候補者となりうる学生が博士課程へ進学できる環境は整備されているのか?と疑問に思います。

では、日本の博士課程修了者の女性比率がどのような状況にあるのかみていきましょう。

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上記の図1は1989年から2018年までの他分野と数学分野の博士課程修了者の比較です。 資料からみられるように、この30年で他分野の女性比率が増加し傾向にあるが、数学分野における比率の大きな増加は見られず、 ここ10年ばかりは緩やかに減少している。理学系においても、1989年からは増加傾向にあるものの、現在2割に達せず依然として女性比率は低いです。

では、科学をリードする米国との比較はどのようになっているのでしょうか。

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図2からわかるように米国と日本では約20%(2018年)の差がみられます。さらに特筆すべきは米国の博士号取得者は40年で約25%も増加していることです。

この傾向から、理工系女子学生の博士課程進学を阻む要因は何なのでしょうか?筆者が考えるに、

1.キャリアパスを考える上でのロールモデルが少ないまたは接する機会が少ない
→博士課程修了後どのようにキャリアを形成していけば良いのかわからない
2.男性ばかりの環境で過ごすのが閉鎖的・やっていけるかわからないという不安がある
→未だ男社会のアカデミアで生き残らなければならないというプレッシャー
3.米国と違って給与が支払われることがスタンダードではない(女性だけに限らず)→就職した友人や同期を見て引目に感じてしまう

上記が阻む要因と考えます。

男女共同参画社会の推進のために今後必要と思われること

では、男女共同参画社会の推進のために今後必要と思われることは具体的に何なのでしょうか?

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上記の図は下記参照の研究集会ウェブページに掲載されている日本物理学会誌 Vol. 73, No. 7, 2018において物理学会員による大規模アンケートの調査結果です。

これから女性・男性会員ともに男女共同参画社会のために必要だと考えることは、男性の意識改革、家庭内での家事・育児の分担、多様な勤務形態の拡充がアンケート結果よりトップ3つとして挙げられます。しかし、男性と女性で必要だという意識が違う項目は、夫婦別姓、国際基準を目指した比較調査と政策への反映、一定期間の女性優先措置がトップ3として挙げられます。

事実、昨今の日本で夫婦別姓問題は議論が絶えないです。研究者においては、姓が結婚によって変わることによって論文検索でヒットせず別人として扱われるというような研究実績に関わる由々しき事態なのです。選択的夫婦別姓制度はアンケートにあるように女性側が訴えかけることが未だ多く、相互からのアクションが必要です。

また、初等・中等教育からのアクションも必要です。日本の中学生(15歳)の実力は男女トップクラスにもかかわらず、理系へ進学する女子学生は少ないと言われています。

どこで理系への興味が薄れてしまうのか?様々な要因があると思いますが、一つは親の考えが子供の進路に影響すると野尻先生は述べられていました。
親の「男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしく育てるべき」という考えが子供へ与える影響は大きく、女の子らしくないといけないという意識が子供に芽生え、理系分野から遠ざけてしまう。これも親による無意識なジェンダーバイアスです。

多様性のある社会のために

これらから早急に女子学生や女性研究者が直面している課題、ジェンダーバイアスやハラスメントについて真摯に考える必要があります。

講演会では、ハラスメントについてもっと調査すべきという意見も出ていました。交流会でも同世代の女子学生の間で男性教員からのパワハラで中退してしまった、大学に来られなくなった先輩や知り合いの女子学生が一定数いるということが話題になりました。やはりどこの大学でも問題になっているんだと再認識したとともに、そのような現実を共有できてしまっている、つまり男女共同参画が推進されている時代においても未だ問題はどの大学でも存在していることがショックでもありました。このような事態を回避するためにも女子学生または女性研究者のネットワーク拡大が急がれています。

さらに平等な研究環境から遠ざけている要因は何なのか?これらについて国や大学、研究者全体で日頃から取り組み、研究者が性別に関係なく研究に取り組める環境を整えていくことがこれからの日本の科学の発展のために必要不可欠であると考えます。

私は物理系の研究室に所属していて、女性は一人という環境で研究室での振る舞いや目に見えないジェンダーバイアスに悩むこともあります。自分では気づかないうちに小さなストレスが積もって疲れてしまうことがあるのです。一人の理系女子学生として、時々同じような境遇を持つ誰かに自分の気持ちや状況を話すことで、気持ちが楽になって前を向けるようになることが多いにあると日々の大学生活で実感します。

大学におけるジェンダー、ダイバーシティ、ハラスメントに対する意識は、未だ古いことが現状として挙げられます。女子学生や研究者が直面している問題や声を拾い上げ、古い意識を改革していくために、学生のうちからのジェンダー問題への授業または女子男子学生間における意見交換。大学においては研究者が研究に集中できる環境づくり(研究資金・出産・育児の補助、男性教員の育休取得推進と取得のための環境整備、ジェンダー・ダイバーシティに関する大学教員や職員への研修など)が必要です。

しかし、社会全体の意識が変わらないと何も変化が起きないと考えます。例えば、企業や大学の女性向けのイベントポスターや広告はなぜいつもピンクで、女性でも活躍できる!というような見出しが付けられているのでしょうか?このような無意識の偏見が知らぬうちに存在するということを大学も企業も忘れてはならない、何かを発信する際には自分が無意識に偏見を持ってしまっていないか?今一度問いかけるべきです。

大学だけでなく、産学協同で民間企業とも一緒になって今一度ダイバーシティの必要性及び無意識のジェンダーバイアスについて考え直すべきではないでしょうか?

以下が実際に研究集会で使用された講義資料リンクになります。理工系女子学生や研究者が直面している問題を知っていただくために、ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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