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「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第16話〜P様宅〜

本日のお客様はP様。

P様は闘病中で、入退院を繰り返していらっしゃいました。

体調が良くなって自宅に戻った際に、家事代行をご依頼いただくのですが……

近くに住んでいるという娘さんは、
「いろいろ事情があって、手伝いに来ない」
そう寂しそうに話されていました。

家事代行ではお掃除の他、洗濯や簡単な食事を作ることが多いのですが……
P様は長時間歩くのが体力的に厳しいので、買い物などを代行することもありました。

トイレやお風呂など身体介助の必要はまだないとは言え、病気を抱え一人で暮らすP様の生活環境は、大学で社会福祉を学んだ者として見過ごせず。

「P様、失礼を承知で申し上げます。お一人暮らしなので、条件に該当したら家事代行は公費で賄われるかもしれません。良かったら私も付き添いますので、役所へ相談に行きませんか?」

「それは知らなかった。連れて行ってくれるなら助かります」

こうしてP様と私は役所の福祉課を訪れました。
うまく説明できないP様に代わり、今の状況を伝えると……

「娘さんですか?」
役所の窓口の方に聞かれました。

「いいえ、P様の家事代行を担当している者です。お一人での生活に福祉のサポートが必要だと感じて一緒に伺いました」

「そうですか」
役所の方は不思議そうに私を見た後、P様に話しかけました。

「Pさん、今日はご家族のことや病状など込み入ったことをお聞きしますが、この方の前で話しても大丈夫でしょうか?」

(相談中は退席した方がいいかしら?)
そう思う私に気づいたのか、P様は私の手を握ってうなずきながら言われました。

「はい、大丈夫です。いつも話を聞いてもらっているので」
そうして窓口の方は、P様が利用できる福祉制度をいろいろと説明してくださいました。

「まずは医者の診断書と、記入した申請書を持ってきてください」
たくさんの書類をいただいて、P様をご自宅へ送り届けました。

「記入例を見ながら書けると思いますが、もし分からないところがあれば、ご連絡くださいね」

「ありがとう。本当にありがとう」

役所への申請から2ヶ月後。
障害者手帳を手にしたP様は、年金も上乗せして受給でき、ホームヘルパーも週4日、利用できることになりました。

「ケアマネージャーも付きましたし、私たちのお店は介護事業所ではないので、これからの家事代行は介護保険を使って依頼できるところに頼んでくださいね」

「それは寂しいから、これからも時々は来てください」

訪問ヘルパーは決められた単位内で利用するため、P様が希望するサポートが受けられないことがあります。

介護保険でヘルパーが対応できない部分--買い物や荷物整理などを、時々ご依頼いただきました。

その日も役所への提出書類を手伝うため、P様宅に伺うと…
見慣れない方がいらっしゃいます。

(ヘルパーさんかな?)
そう思いつつ…ご挨拶。

「こんにちは!家事代行の○○です」

「あぁ、あなたが。母から聞いてます」

「P様の娘さんですね。はじめまして!いつもお世話になっております」

「いろいろ手続きしてくれてありがとう。これからは私がやるから」

「それは……」
P様が戸惑っているご様子です。

「いいからこの書類にサインして!」
P様が手にしていた書類は『成年後見人』を裁判所に届け出るものでした。

「私はまだボケてないし…」

「こういうのはボケる前に手続きしとくの!年金の通帳も私が管理するから!」

(P様がお子さんを頼らない訳が分かったかも…)

「失礼ながら…今のP様はすぐに後見人が必要な状態とは言えないかと」

「他人が口をはさまないで!出て行って!」
娘さんに一喝された私を、P様がかばってくださいました。

「この方はずっと私の面倒を見てくれたんだよ。普段の生活も申請も。この方がいないと私は大変だった。出て行くのはあんたの方だよ!」

「なによ…心配して来てやったのに!」
そう言って娘さんは家を出て行かれました。

「ごめんなさいね。変なところ見せちゃって」

「いいえ…P様もいろいろ大変でしたね」

「後見人制度を使うなら、あなたにお願いしたいわ」

「そんな…お気持ちは嬉しいですが、私は士業でもないので難しいと思います。もしP様がご希望でしたら『任意後見制度』を利用することもできますよ」

あまり知られていませんが、役所では弁護士による無料相談日があります。
弁護士に「任意後見人」の手続きについて教えていただき、P様は公正証書を作成して何かあった時に備えることにしました。

「これで一安心。いつでもあの世に行けるわ」

「そんなことおっしゃらないで、長生きしてください」

こうしてP様は制度的にも守られて、穏やかに余生を過ごすことができました。

P様の娘さんは、私のことをよく思っていなかったと思います。
その後、娘さんの姿を見ることはなく……
最後は病院でひとり眠るように亡くなったと、P様のケアマネさんよりお聞きしました。

自分のような境遇の方がいなくなるようにと願っていたP様。
残った財産は「地域の社会福祉協議会へ全額寄付する」と公証役場で明記していたので、裁判所が指定した司法書士が手続きをしたようです。

福祉の制度はいろいろありますが、自分で申請しないと受給できないもの。

老人介護もシングルマザーの方も、何かしらでお困りの方も……
一人で悩みすぎず、まずはお住まいの役所で相談してくださいね。

心穏やかに過ごせる方が増えることを願っています。


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