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「ありたい姿」を描くための振り返り術

最近、コーチとしてクライアントの「ありたい姿」を描くお手伝いをしたり、本業や複業では組織の「ありたい姿」を描くこと・具体化・浸透をテーマに仕事に励んでいます。また友人とは「ありたい姿」の実現のためにピアセッションをするなど、自分自身の「ありたい姿」も大切にしながら日々過ごしています。

これまでも大学院受験(MBA)の予備校で社会人受験生のビジョンを描く支援をしたり、生徒のありたい姿を引き出すことを大切にして学校教員を務めたり学習塾を創ったり、NPOの組織再編のタイミングでビジョンの再構築のプロセスを経験するなど、「ありたい姿を出発点にすること」にこだわって仕事をしてきました。また自身のキャリアも「ありたい姿」に素直に転職も起業も複業もしてきました。

そんな自分が強く感じることは、個人であっても組織であっても、自分らしくて納得できる「ありたい姿」を描くために必要なことは、過去を丁寧に振り返り自分をまっすぐに見つめ、現在地を適切に認識することだと感じます。まず、いまの自己(自組織)に対する理解がないと、いくら未来像として「ありたい姿」を描いてみてもふわふわしたものになり、具体的な行動を起こすエネルギーにならず形骸化してしまうことが多いように思います。

今回は「ありたい姿」を描くために現在地を認識するためのプロセス、そして「現在地」から「ありたい姿」への広げ方について書きます。自分あるいは自組織の「ありたい姿」を考えたい方のヒントになれば幸いです!

過去を振り返り現在地を把握する

自分を受け入れる心の準備

出発点として、現在地を適切に認識する上で重要なことは「自分を受け入れる心の準備」です。なぜならば、現在の自分を正しく認識するためには、過去を振り返り、良いことや見たいことだけではなく自分の見たくない部分にも目を向けるべきだからです。また、拠り所にしていた成功体験を適切に手放したり、都合よく解釈していた過去に目を向け適切に再解釈することも重要になります。逆に、自分の過去をネガティブに捉えがちな人も同様です。アドラー心理学の目的論ではどんな行動にも目的があると捉えます。自分を否定的に捉えることで何かを守ろうとしている自分にも目を向けることになるかもしれません。いづれにしても、主観的な解釈・価値観と客観的で批判的な観察を行き来し、適切に現在地を把握することが大切です。

自分からの抵抗が起こるとき、その抵抗している自分に「気付く」こと。そして「なぜ、自分は抵抗しているのか?」深めていきます。例えば、見栄やプライド、過去に形成された価値観など、自分の深い部分に根付き、行動を導びく存在に気づくと自己理解は深まります。人に見せる必要はないので、「なぜ自分はこういう行動をするのだろう?」と丁寧に「ありのままの自分」と向き合いましょう。組織の場合は、ネガティブな側面にも目を向けられるチームの状態をつくることがファーストステップです。

過去の行動・感情から自分らしさ(価値観・強み・弱み)を明らかにする

自分にとって印象的な出来事を観察することで自分を深掘りしていきます。印象的な出来事が思いつかないという人は、幼少期からいまに至るまでの時間を横軸、幸福度や充実度などを縦軸にライフチャートを書いてみると良いでしょう。浮き沈みがあったときに起きていた出来事や環境に目を向けてみるのは一つの切り口になると思います。

一つひとつの出来事に対して①出来事&行動 ②感情 ③価値観・強み・弱み・学び④ネクストアクションを書き出していきます。この流れは、デイビッド・A・コルブの経験学習の理論に基づいて進めているイメージです。

具体的な行動・感情(①②)を抽象化して概念化(③)し、次の行動(④)に移していきます。具体的な行動・感情を書き出せば書き出すほど、抽象化した自分らしさを知る種が増えるので、たくさん書き出してみることがおすすめです。

例として自分のことを書くと、
① 弟が大学受験で迷っているときに本人の状況や興味を踏まえ、海外大学進学について調べて本人に話をしたら、目の色を変えて海外留学を決断した
② 本人が喜んでいたので嬉しかった
③ 選択肢との出会いと主体的な進路選択を支援することに大きな喜びを感じる
④ 教員になる、塾を創る

そのほかにも、①出来事&行動として後輩の留学・就職支援、妹の就職や転職の相談に乗ったこともあり、同様の価値観を感じることが多くありました。それらの振り返りを通じて自分がやりたいことがわかり、学校教員や学習塾創業にチャレンジすることができました。結果、やりがいや喜びを再現性高く実現することもできました。

ちなみに、日常的に取り組んでいると、本質的な自分が隠されている細かい出来事にも目を向けられるので、日記として取り組むことがおすすめです。私は上記をエクセルにして毎日書き出すことを習慣にしています。

例えば、
① 今日はコーチングのクラスに出た
② クラスの雰囲気がとても良くて楽しかった
③ 自己認識を深めたり、人の成長を支援したいと思っている人たちと学びを共有できる場が好き
④ 次のクラスにも出る。いつか自分でもこのような学びの場をつくりたい

一つの出来事でも、抽象化による価値観の整理は複数にまたがることも多いので、多角的に自分を見つめましょう。上の例でも、単に「コーチングが好き」ということもあるかもしれないし、「新しいことを学ぶことが好き」ということもあるかもしれません。または、「社会的意義を感じられる学びに喜びを感じる」かもしれません。

例えば、「高校のときの授業で数学が楽しかった」だから「数学が好き」と思って数学の先生になろうとしたとします。でも本当は、「先生が面白いだけだった」「難易度の低いところから順番にやらせてくれる学び方が自分に合っていた」かもしれません。その場合、数学そのものが好きなわけではないので、数学の先生になることをやめるかもしれません。適切な自己理解をするために、「本当にそうだろうか?」としつこく問うて見ることが大切です。

また、できれば信頼できる人と見せあったり、コーチをつけたりして自分以外の人からコメントや質問をしてもらうとさらに自己理解が深まります。ジョハリの窓で言う、「盲点の窓」や「未知の窓」など、自分では気づいていないこと自分のことに気づくきっかけになるでしょう。

いまどこにいるかわかれば未来を描ける

過去の体験や現在地点を未来へ転用する

上記の通り、過去の出来事を振り返り現在の価値観を明らかにすることで未来を描くヒントが得られます。

例として「選択肢との出会いと主体的な進路選択を支援することに大きな喜びを感じる」ということがわかれば、ネクストステップ(次の仕事)として、教員・塾を創るということを挙げました。実際には、留学カウンセラーになる、転職エージェントになる、今の会社で人事部に異動してキャリア支援を行う、大学の就職支援科に就職する、など選択肢は無限に広げられます。このように、抽象的な価値観を具体化するアイディアをたくさん書き出してみましょう。

ではここからどうやって選択肢を絞っていけば良いのかというと、別の価値観と組み合わせて選択肢を絞っていきます。例えば、今の会社でのリクルーターの仕事を通じて「大学生の進路選択に貢献することにやりがいを感じる」と思っていたり、激務な環境だから「ライフワークバランスは自分の人生にとって大事」と思っていれば、「大学の就職科で職員」が選択肢になるかもしれません。

過去の経験に紐づく価値観をたくさん書き出したほうが良いと書いたのは、このように自分の価値観がわかっていればいるほど、価値観の掛け算で、より自分に合った選択ができるためです。

また、自己成長のために、あえて自分の価値観と違う選択肢を選んでみるというフェーズもあるでしょう。例えば、今まで子どもを相手に仕事をしてきた経験から子ども相手に仕事をすることにやりがいを感じている。一方で、成長への行き詰まりを感じている。今後、新たなやりがいやまだ出会っていない自分に出会える挑戦をしたい。そう思ったときに、価値観のかけ算の中で、あえて一部をずらしてみるなど、納得感持って挑戦できるようになります。なんとなく違うことをしたいという漠然とした気持ちが、現在の自分を理解することで、どこの価値観を更新したいのか見えてくるようになります。

発想を広げて、自分を知る

ここまで過去の経験から帰納的に考えてきましたが、未来に対する発想から現在地を認識することもできます。また、現在地を認識した上で、あえて発想を広げてことで、突拍子もないアイディアと自分らしさがつながり、新たな選択肢になることもあります。

例えば、「いま100億円あったら何がしたいか?」という問いに答えてみます。小説を書きたい、ケーキ屋さんをやりたい、世界を旅したい、子ども食堂をつくりたい、など自由に書き出してみます。

そして、先ほどと同じこと+自分との紐付けをしてみます。
①出来事&行動(具体的な情景を描く) ②感情(そのときの感情を想像する) ③価値観・強み・弱み・学び(背景にある価値観を探る)④自分の過去との紐付け⑤ネクストアクション、です。

例えば、小説を書きたいについて考えてみます。
① 自分の経験から生まれた価値観や世の中の価値観を考察して、ストーリーにする。社会的なメッセージを発信し、世の中に良い影響を与える小説を描き、ベストセラーになり映画化する。
② 世の中で自分の小説が話題になっていて嬉しい。
③ 経験や考察を言語化し、それをそのまま表現するのではなく、何かを通して表現することにかっこよさを感じる。また世の中にポジティブなメッセージを届けたい。
④ 山崎豊子さんの小説など社会性のあるメッセージが込められた小説にかっこよさとおもしろさを感じる、自分の仕事を通じて自分のメッセージが人に届いたと感じたときとても嬉しかった
⑤ 自分の仕事を通じて世の中にメッセージを発信する。コンテンツを創る機会が多いので、自分が考察したものをストーリーに載せて伝わるように創っていく。小説を書く。

一見、突拍子もないアイディアであっても、自分から出てきたもの。自分の価値観が整理されていると、意外と過去の自分と紐づいていることに気付くことも少なくありません。自分の価値観と未来に対するアイディアのつながりが見えると、そこに道ができるかもしれません。

自分らしさと未来の描き換えを柔軟に

ここまで述べてきたプロセスを通じて、見出せた自分の価値観や描くことのできた未来像も定期的に見直すことがおすすめです。自分の成長によって、過去の解釈や価値観はアップデートされていくものです。

私自身、社会人10年目を終え、こだわっていた価値観が再解釈されたり、より高次のものになったりと、アップデートされている感覚があります。いま強いこだわりを持っていることも、さまざまな経験をすると、重要なものではなくなったりもします。特に、過去の成功体験やプライド、あるいはコンプレックス、執着していた出来事と価値観などは、経験と内省を繰り返すことで手放せると良いなと感じます。自由で豊かな未来が描くための自己探究(現在地の認識)は終わりなき旅ですね。

組織でも同じこと

最近思うことは組織でも全く同じことだなと思います。組織の歩んできた道をしっかりと振り返り、現在地を把握すること。組織だと一人ではないので「自組織と向き合う心の準備」が一段階難しいなとは感じます。

まずはリーダーが覚悟を決め、過去に積み上げてきた良い面にも悪い面にも目を向け、自組織の価値観・強み・弱みを認識すること。それによって、より良い未来が描けるでしょう。自組織探究についてもまた書きたいと思います。


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