オフライン展示会の未来について

コロナ禍で様々な業界が大打撃を受けている。その中でも特段厳しい情勢に立たされているのが、展示会(ウェビナーではなく、オフライン形式)主催業界だ。この数か月間、三密の究極体である展示会は開催中止・延期を余儀なくされており、当面は再開のメドが立っていない。

今後、オフライン展示会はどうなっていくのか。展示会開催が再開したとしても未来は暗く、ジリ貧状況に陥ると私は推測している。何故か。展示会の肝である来場者そして出展者数が従来ほど見込めないからである。そのように考える根拠を整理してみた。

◆来場者数が減少する3つの理由

1)サボり目的のサラリーマンたちが来なくなるから

…意外とこの理由は大きいのではないか。展示会に足を運ぶと目立つのは、いかにも「暇をつぶすために会社を抜け出してやって来ました」といった様相のサラリーマンたちである。オフィスの中ではサボり辛くても「展示会に行ってきます」と言えば大手を振って合法的に会社から抜け出せるので、サボリーマンにとって展示会は素晴らしい大義名分となる。
ましてやBtoB系の展示会は平日朝~夕方まで開催しているため、直行直帰が可能。勤務時間中の好きなタイミングで時間を潰すことができる展示会は、フレックスなサボりを手助けしてくれる。

しかし今回のコロナ禍で在宅・リモート勤務が主流になるとそもそも会社に出社しない=抜け出す必要がなくなるため、わざわざ展示会場まで足を運ぶ目的がなくなるのである。彼らサボリーマンたちは出展者にとって望まざる客であるが、主催会社にとっては来場者数をカサ増ししてくれる有難い存在。その太客の来場がゴッソリ途絶えるのは主催会社には大打撃である。

2)不景気に伴って出張費が削減されるから
…今後景気が冷え込むことは明らかであり、どの企業も3K(交通費・広告費・交際費)の削減に走るだろう。交通費申請に上限を掛ける企業も出てくるため、地方そして海外からの来場者は激減する。「普段なかなか商談できない地方企業と、展示会という特別な機会を使えば接点を持てる」というのが展示会に出展する魅力の一つである。そのことを考えると、地方ユーザーの来場が途絶えるのは主催会社・出展者にとっては手痛い。

3)感染への不安による外出規制・自粛が掛かるから
…「地方からの来場者が減少する」と前述したが、首都圏からの来場者も減少する(東京開催の展示会と想定)。そもそも社外の人と商談する場合には事前に上長申請することをルール化している会社が増えており、従業員の外出規制が強まっている。

特に大企業ほど外出/外部との接触規制ルールが厳しい印象。展示会のウリとして「大型予算を抱えている大企業のユーザーと商談できる」ことが挙げられるがその大企業のサラリーマンたちが来場しないとなると、これまた主催会社にとっては苦しい。小口のユーザーばかりが来場しても出展者は満足しない(出展料の投資対効果が見合わない)からだ。

そもそも会社からの規制がなくとも、各人の健康志向・感染予防意識が高まっている現状、三密空間である展示会場にリスクを冒して訪問する人がどれほどいるのか。「その状況を押し通してでも展示会に足を運ぼう!」と行動するサラリーマンは少ないのではないか。

そして来場者だけでなく出展者が減少する理由も3点ある。

◆出展者数が減少する3つの理由

1)オンライン営業で事足りるから
…外出自粛期間中、日本の商談スタイルは大きく変わった。従来は対面営業を良しとする文化だったが、コロナ禍を契機としてWeb会議ツールを活用したオンライン営業が浸透した。

確かに対面営業と比べて顧客との関係性が築きにくいというマイナス面はあるものの、商談に掛かる時間・金銭的コストを削減できるし、何よりも手軽に商品をデモンストレーションできるというプラス面が大きい。出展メリットの一つとして「普段の営業では膨大な商品数をそれぞれの顧客先に持っていくので手間が掛かる。一方、展示会だと会場に商品を持ち込めば済むので効率よくデモンストレーションができる」ということが挙げられるが、このメリットはオンライン営業でも充当できる。そうなると、展示会に出展する必要性が薄くなる。「展示会も効果あるけど、オンライン営業で事足りるよね」という認識そして理解が広まると、多額の費用・マンパワーがかかる展示会出展という選択肢は霞んでしまう。

2)企業イメージへの考慮(従業員への配慮)がなされるから
…コロナ集団感染の可能性がまだ払拭できていない状況下、展示会に出展するということはどういうことか。乱暴な言い方をすると、”東京ビッグサイトまで遠路はるばる社員を派遣し、有象無象の来場者に長時間の対面営業を強いる”ということである。社内外からの企業イメージを毀損してまでも出展に踏み切る会社はあるのだろうか。

3)広告/販促費用の支出が抑制されるから
…これは言わずもがな。前述の通り、不景気になると3K(交通費・広告費・交際費)が真っ先に削減対象となる。展示会はブランディング目的の広告/宣伝というより売上拡充に直結する販促機会に位置するので、広義の解釈では広告扱いにはならない。ただし中小企業の多くは「広告/宣伝部」「販促部」と区分けしていないので、広告費抑制→出展費用の見直しへと響くだろう。

以上で考察した通り、出展者・来場者双方が減少することは明らかだ。
そして残念ながら、展示会においては出展者・来場者は両軸の関係性である。来場者減少→展示会の価値が下がる→出展者も減少→参加する魅力が下がるので来場者減少→∞…、と負のスパイラルが発生してしまう。話題・タレント性がイベント成否のカギを握るBtoC系展示会・展覧会ならまだしも、特定業界に限定されたBtoB系の展示会は一度でも価値を落としてしまうとV字回復させるのは難しい。

ではリアル空間におけるオフライン開催を取りやめて、オンライン開催へ切り替えればいいのか?そんな簡単な話ではない。むしろ既存のオフライン展示会の主催会社が安易にオンライン開催に舵を切る行為は非常にリスキーであり、失敗する可能性が大きい。その理由は2点挙げられる。

◆オフライン→オンライン展示会へ切り替えると失敗する理由

1)オンライン形式では営業売上が減るから
…オフライン開催における展示会主催会社の旨味として、「出展ブースの立地/サイズに応じて出展料金を設定できる」ということが挙げられる。これは不動産物件において「上層階や日当たりがいい部屋は高い」「1LDKよりも3LDKの部屋の方が高い」のと同じ考え方であり、来場者の動線上に位置するブース(出入口にある、大通りの通路に面しているetc)や、出展面積が広いブースはその分出展料金が高くなる。オフライン展示会ではいかに目立つか、いかに来場者の目に留まるブースを取れるかが出展成否の要となるため、出展者は高い費用を払ってでも好立地のブース/大規模サイズのブースを確保する。

しかしオンライン形式での展示会だと、ブースの立地/サイズという概念が存在しない。せいぜいバナー表示の位置/サイズ大小/回数を変える程度でしか差別化できない。ブース立地/サイズの差異に基づく値付けができなくなる(できたとしても極端な値付けは難しい)ため、主催会社側が出展者から稼ぐ売上は大きく下がってしまう。

2)寡占状態を手放すことになるから
…展示会主催業界の特徴として、とにかく寡占状態であることが挙げられる。日本でいうとリードエグジビションジャパン、UBMジャパン(現社名はインフォーマ マーケッツ ジャパン)といった展示会主催を専門に営む会社が存在するが、その数はかなり少ない(なお業界団体やメディア団体も展示会を多く開催しているが、あくまで業界内での親睦・広報としての事業であり収益化を主目的としていないので除く)。

なぜ展示会主催専門会社が少ないのかというと、業界への参入障壁が高いことが原因である。というのも展示会主催で必要なモノ、展示会場を確保するのが困難だからだ。大規模な展示会場は限られている。関東でいえば東京ビッグサイト、幕張メッセ、パシフィコ横浜、東京国際フォーラム程度。

既存の主催会社が先行して翌年以降の展示会場予約をしている現状、主催業界に新規参入しようとしても肝心の展示会場の枠が空いていない(東京オリンピックによる展示会場使用制限の問題はさておき)。”展示会場という有限的な枠”の存在がある限り、主催業界への新規参入を防ぐことができるのだ。よって既存企業の寡占状態が保たれている。

これはある種、広告業界において電通が圧倒的に強い理由とも重なる。
電通の強みはメディアバイイング力に尽きる。先行してメディアの広告枠を一気に買い占めているので、「広告を出稿するなら、その広告枠を確保している電通を通す必要がある」という仕組みができている。広告枠が有限的である以上、その持ち主である電通に発注が集中するのは当然のことである。(もっとも最近は、広告枠が無限状態のインターネット広告の主流化に伴い、メディアバイイング自体の優位性はかなり落ち込んでいるが…)

話を戻すと、展示会主催会社は寡占状態で甘い蜜を吸い続けていた。これがもしオンライン開催へと移行すると、状況は一気に変わる。当たり前だが展示会場は不要であり、どの会社でも主催することが可能となる。寡占状態から一気にレッドオーシャンへ。従来は主催業に踏み切れなかった広告代理店やIT企業が参入した場合、来場者の集客プロモーション/出展者への誘致営業力で太刀打ちできなくなるのではないか。あくまで既存の主催会社が持つ強みはオフライン開催でこそ発揮できるものであり、オンライン開催に挑むのは得策ではない。

以上の懸念点を考えると、

・先細りでジリ貧な未来が待っているが、オンライン開催は更に地獄
・従来よりも小規模になるが、寡占状態を維持できるオフライン開催を維持すべき

というのがオフライン展示会業界の展望・取るべき路線だと考えられる。
斜陽産業はカッコ悪いものの、下手に業態転換に取り組まずに生き永らえる道を進む方が賢明である。

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