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思考の欠片 第63章 史上最悪バスジャック犯 物事の二面性

物事の二面性を考える。

2000年6月にリオデジャネイロ市内で発生した“史上最悪のバスジャック事件”。拳銃を持った男が11人を人質に立てこもり、その模様はテレビで4時間にわたり生中継された。バスの周囲を囲む警察の特殊部隊とメディア。人質に銃を突き付けながら叫ぶ犯人。その一部始終がリアルタイムでブラジル全土に伝えられる、まさに前代未聞の事件だった。

男は11人を人質にバスに立てこもった。そのバスを警察が至近距離で取り囲む。事件を聞きつけたメディアとやじ馬が集まり、すぐにテレビの生中継が始まった。すると男は車内から外に向けて発砲。逃げ惑うメディアとやじ馬たちで現場は騒然となった。犯人の男は警察に「逃走用の車」を要求した。

一向に要求に応じない警察に業を煮やした犯人は、驚くべき行動に出る。人質の女子大学生に銃を突き付け窓に連れて行くと、口紅を渡し文字を書かせた。その模様がテレビカメラに収められた。「逆さ文字」で書かれた犯人のメッセージ。ブラジル中がかたずを飲んでその様子を見つめた。

「彼は悪魔と手を組んでいる」「彼はやり遂げる」。そして、最後のメッセージが人々を戦慄させることになる……「全員を殺す。午後6時に」

午後6時まで20分となった午後5時40分、男は、メッセージを書かせた女子大学生の頭に布を被せ、バスの床にひざまずかせると……なんと、タイムリミットを前に女子大学生を撃ったのだ。パニックに陥る人質たち。女性が絶叫する。「彼女を殺したわ。床が血だらけになっているのよ」「言うとおりにしてよ。1人死んだのよ」。

そして、犯人は、その女性の顔に銃を突き付けた。

犯人はスラム出身の元ストリートチルドレンだ。ためらいなく銃を撃ち、人質全員の殺害予告をする凶悪犯サンドロが、生中継を続けるテレビカメラに向かってこんな言葉を叫ぶ。「おい、ブラジル! 俺を映してくれ! 俺はカンデラリアにいた」。

サンドロが訴えた「カンデラリア」。そこはブラジル人なら誰もが知る、かつての惨劇の舞台。さらにサンドロは叫ぶ。「イボーネを今すぐここに呼べ!」

カンデラリア教会は、ストリートチルドレンたちに敷地を開放し、多くの子どもたちがここで寝泊りをしていた。この教会で子どもたちの世話をしていたのが、ストリートチルドレンの母、イボーネ。そしてイボーネが心を通わせた1人が、まだ幼いサンドロだった。母親代わりとなって育てたのがイボーネだった。

1993年7月23日に悲劇は起きる。今も語り継がれる「カンデラリア教会虐殺事件」だ。パトカーに投石したストリートチルドレンへの報復行為として、深夜、教会で寝ている子どもたちに対し、車で乗り付けた2人の警察官が無差別に発砲。8人を殺害した。その現場にサンドロはいた。サンドロも警察の標的にされた1人だったのだ。

その後、成長したサンドロは、教会を飛び出し「生きるための犯罪」に手を染めていく。窃盗や強盗、違法薬物の売買などを繰り返し、刑務所に2度収監された。

威嚇の発砲をし、人質の頭に銃を突き付けるサンドロだったが、事件発生直後、意外な行動に出ていた。人質たちに「誰も殺さないし、傷つけない」と告げていたのだ。

そもそもサンドロがこのバスに乗り込んだのは、銃で乗客を脅して金をゆすり取ろうとしていただけだった。追い込まれたサンドロは、ブラジル中が見つめる中で、行き場のないバスジャック犯となってしまった。それが“史上最悪のバスジャック事件”の真実だった。

タイムリミット前に撃ち殺されたはずの女子大学生も、実は、サンドロは狙いを外していた。「100まで数えてから撃つ。でもお前を殺しはしない。俺が撃ったら、みんなで悲鳴をあげるんだ。いいな?」。サンドロの指示どおり、人質たちは「女子大学生が殺された」と絶叫した。サンドロと人質たちは、迫真の演技をしていたのだった

4時間が過ぎた時、サンドロは意外な行動に出る。突然、人質の女性を抱えたままバスを降りてきたのだ。おそらくは投降しようとしたサンドロに対し、特殊部隊の隊員は、わずか30センチメートルの至近距離から発砲。

ところが、その弾は人質の女性に当たり、女性は死亡。サンドロはそのまま警官隊に拘束され、パトカーで連行されるが、暴れるサンドロを抑えつけようとした警察官が誤って首を締め、サンドロは窒息死してしまう……。

サンドロの行動は客観的に見ると凶悪犯そのもの。ただ、警察の強硬手段は悲劇につながり、人質の女性とサンドロの死は「警察の大失態」として非難された。そして事件解決後に、バス内部の事情やサンドロの生い立ちを知った人々は事件の背景に心を痛めた。サンドロが引き起こしたバスジャック事件は人々の記憶に刻まれる「悲劇」となった。

この記事は東洋経済onlineから引用しました。

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