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連載小説 hGH:序



 一年以上寝かせている案件がある。

 うちのチームの主力選手のひとりがドーピングに手を染めているようだ、というものだ。ヒト成長ホルモンという薬で、買っている確証はあるのだが、使っている証拠はつかめていない。

 私が最初にその報告を受けたのは去年の六月だった。

 野球のデータをふくめ、球団にかかわるさまざまな事象の調査を委託している会社からあがってきた。

 選手の格、薬物の種類などから、われわれ球団側もうかつに手をだせないまま時間だけが経過してしまった。ゼネラルマネージャーとしては頭の痛い案件だった。

 それが、先日ちがう角度から事態が進展した。

 その選手が試合中に怪我をして一軍登録を抹消になった。復帰にはなんの問題もない軽症ではあったが、それをうまく利用することにした。

 これでようやく動くことができる。

 私は、GM補佐の柴田をGM室に呼んだ。




 井本は月に一度ヒト成長ホルモン薬を買っていた。


   始 hGH:1



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