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好きを 好きなまま

12月上旬、出張で阿蘇へ渡った。
同僚を誘い、阿蘇の草原を舞台にしたリジェネラティブ(環境再生)ツーリズムを体験してきた。

生れ育った故郷よりも圧倒的に帰ってきた感覚になる熊本の大地。
いつもと変わらず、私を私たらしめる。

隠岐からは当然かなりの距離があったために割りと移動ばかりしていた4泊5日。ゆっくりとはできなかったものの、初めて観光というものに触れて学び暮らしていた大切な場所へ仕事で戻れたことにひとり感慨深いものを握りしめていた。

一般に立ち入りできない牧場をひたすら踏みしめる


帰路につく飛行機のなか、ぼんやりと考えていた。

もしも阿蘇に誰一人として友人知人が居なくなったとしても、たぶん自分はあの場所へ帰るんだろうなということ。些細なきっかけで18歳から通い続けた末に、関わる人の数は地元のそれを優に追い越していった。お世話になる人達が大切なのは大前提のうえで、自分が飽きずに魅了され続けているのは圧倒的に阿蘇の土地そのものなんだろうと確信しつつある。春にそこらじゅうで咲き誇る花々、青々とした真夏の草原がすべての生き物を癒やし、秋には黄金色の絨毯に姿を変えて揺れる。長い冬には哀愁の間で真っ白な雪に覆われたかと思えば次の春を迎えるための野焼きで一面真っ黒に。ユネスコ世界ジオパークに登録される広大な大地の移り変わりには、必ず人の手が加えられて、土地を生かし暮らす人の営みを守り古くからの土着文化や風土を継承しながら時代に合わせて当然アップデートもなされる。暮らしている隠岐にも、もちろんそれらの一端を感じる。

人は変わっていくし常に移動する生き物。
大地はプレートや気候変動をはじめ大小様々な単位で変化し続けるはずだけれど、土地そのものはずっとそこに在り続けるんじゃないかと思っている。

今回参加したツーリズムは阿蘇の草原が軸になっていた。この草原の存在が恐らくわたしの心を動かす熱源のひとつなんだろう。

ツーリズム参加者の面々と雲海のなかで目覚めた
合宿所で他業種の参加者と囲んだ朝食、ストーブ5台フル稼働でも全然寒い古民家


と、厨房で皿を洗いつつ書いていたら年が明けてしまった。

数時間前からはじまった一夜限りのBAR運営に携わるスタッフが忙しなく出入りしている。新しい年のはじめ、宿に明かりが灯っている事実は宿業を生業としている身として改めて嬉しいものだ。

コロナ禍がやってきた年、本来ならGWで繁忙期真っ只中の黒川温泉から、人も明かりも消えてしまったあの頃。胸のつかえと終わりの見えない日々に不安な気持ちで過ごしていたけれど、その年の暮れにはちゃんと常連さんたちが帰ってきた。年末年始の宿は「おかえりなさい」「お久しぶりですね」と宿を支えているお客さん同士の挨拶が交わされて、いつにも増して特別幸せな気持ちになる。歴史ってこうやって繋いでいくんだなと創業300年の宿で毎年実例を見ているようだった。あの染み込むような光景のなかに身を置いて生きていたいし、この島でもそれは創っていけると思う。

出張の帰りに寄り道した古巣の御客屋、古株たちは結婚や出産を経て大人になっていた


あと3年足らずで迎える40歳の節目を目処に、阿蘇へ戻ろうと決めていた。恩を返したい人や場所がある。それに前途したようにあの土地そのものに間違いなく惹かれ続けているのは確か。その価値観は大切に、この島の暮らしとも並行して生きていけないものか。きれいに半分ずつの生活は望まないし割合はどこかに傾くはず。1年後どこにいるか我ながらまだ定まりはしそうもないけれど少しずつ九州への帰り支度をはじめてみようと思う。宿業は多分この先もずっと好きでいる気がしていて、それだけに留まらない観光の枝葉にもまだまだ触れていきたいし、活かしきれていない自分のピースがどこか埋もれている感覚も常に抱いていてはいる。業界経験者というニーズがこの島への入口でもあったから、ここで自分にできることをずっと探し続けてきた。昔からある種の癖のように自分ではなく他者のこと、場所、それにまつわる過去や未来のことを考えて自分の役を割り振っていくところがあって、上手くまわるなら何を言われても構わないと自分を雑に扱う悪手でもあったのが未だに悩み。そこから時間をかけて、今は段々とわたし自身が芯から求めていることにちゃんと焦点を合わせて見つめたいと心が訴えている。そうして自分の足元を見ることが、いま暮らしている島や心を寄せている阿蘇と繋がって、自分と地域に何かしらの循環が生まれ続ける気がして。そろそろ自分の未来に手をのばしてみていいのではないか。そして今いるテリトリーからは徐々にはみ出していきたい。

ありがとう2023年。

新年におもうことは心身が健康であること。
なにをするにもこれが必要だと痛感する。
大きな幸せはいらないから日々のあれやこれやを楽しめるように。そして少しは誰かの役に立つような自分に。戦火にうずくまるこどもがごはんを食べられるように。観光で、平和のほんの数ミリでも手を添えられるように、今年も誰かに余白を渡しつづける。

2024年最初に聴いた音楽は松崎ナオ

昨年5月からはじめた書物はこんな感じ

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