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忘れたくても忘れられないんじゃなくて、忘れることを諦めた

今年の仕事を納め、帰省するための新幹線に乗り込む。

夜も深まってきたというのに、駅には切符を求める人の長蛇の列ができていた。

『ネットで購入された切符は後ろの券売機でお受け取りくださーい』

駅員さんの呼びかけに従って、券売機の方に足を向ける。

久しぶりに新幹線に乗る。
券売機の位置が変わっていた。 


学生時代、長期休みが訪れるたびに「明日から帰省する」と話していたクラスメイトたちに憧れていた。

高速バスや新幹線に乗って帰るなんて、ちょっとした旅行みたいだ。

それだけじゃない。
親元を離れて、学業やスポーツに打ち込んでいるという生き様がかっこよく見えた。


社会人になり、一人暮らしを始めたわたし。
挑戦できる幅が広がった喜びは、次々と立ちはだかる困難な事象を全て打ち砕いてくれた。
若さは無敵ってやつ。 

楽しかった。
仕事もプライベートも。
たとえ、上手くいかないことがあっても。


今年の秋くらいからだ。
きつくなってきた。
新しいことに挑戦する体力が全く残っていない。

そんな自分に気づいた。

何もせず、一日布団にくるまれるだけの休日も増えていた。

その中でも、一番変わったのは“誰か”を求めるようになったこと。

わたしの中にある原動力みたいなものが、“人”を望むようになっていた。

ハウルの動く城のカルシファーが『薪をくれなきゃ死んじゃうよー!』と言うように。

孤独になった訳じゃない。
一人がこわくなった訳でもない。

日常の生活は滞りなく、進んでいる。


でも、楽しくない。
楽しむ必要あるのかと言われれば、それまでだけれど。


わたしは楽しみたい。
明るく生きたい。
笑いたい。


一人じゃ叶えられないのだろうか。
そんなことはないと信じてやってきたけど。


学生時代の記憶に頼りすぎていたのかもしれないと思った。
忘れることは諦めて、次に進むことにする。
そう決意したところで、混雑していた新幹線はがら空きになった。


あと一駅で目的地に着く。
空席になった隣の座席に置いたお土産袋が憧れの“帰省”を演出してくれていた。 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!