コロナ対策と人権と経済対策のバランスについての仮説

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最近IMFから、コロナ禍に見舞われた2020年のGDP予測が発表された。下にその国別の予測の図をブルームバーグが図にしたものを引用する。

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この図で注目すべきは、感染制御には比較的成功しているといってよい東アジア・東南アジア・オセアニアで経済パフォーマンスは勝敗が分かれている、という点である。

中国、ベトナム、台湾はコロナ対策に成功した国で、経済のパフォーマンスも良い。一方、ニュージーランドやタイはコロナ対策ではほぼ優勝したと言ってよいが、経済パフォーマンスは低調である。コロナ対策では比較的成功している豪州、韓国、マレーシアも、経済面ではコロナ無策といわれるアメリカと同程度である。

► 横道:アフリカが比較的好調で、タンザニアは「神に祈れ、仕事を続けろ!」と宣言して以降コロナ感染者が報告されなくなるという全くの無対策を貫きつつ、プラス成長を達しているが、サブサハラはHIV等で高齢者が少ないので参考にならないだろう。強行突破を選んだ(選ぼうとした)ブラジルなどは経済低調なので、結局感染が広がると自主的自衛行動で経済が減速してしまうのであろう:横道終わり ◄

本稿では、東アジアでの経済の勝敗の分かれ方について、感染制御の手段が何か、ということが違いを分けているのではないかという仮説を説明したい。すなわち、感染制御手段が一斉ロックダウンである場合には経済が低調になり、(プライバシー問題などを脇に置いて)個人・属性の感染リスクを識別して選択的に隔離している場合に経済のパフォーマンスが良い、という仮説である。これに関しては私が今まで各国の政策を見てきた印象から言っており、根拠をつけるには指数化のうえ数量比較が必要であることは先に述べる。

潜在的感染者だけを選択的にケアする

理想的に言えば、「感染者だけ選択的に隔離(治療)して、それ以外の人は自由に動けるようにする」ということにすれば、感染対策と経済/自由権のトレードオフを回避して必要最低限の規制とすることが出来る。この問題は経済のみならず人権とも密接に関係しており、パンデミック初期に入国規制を敷くか否かが問題になった際、「検査して感染者だけはじけばよい」という議論があった。これ自体は全く正論であり、SARS1の時はこの対処法が中心であった。

だが、検査だけで万事解決とはいかないのがCOIVD-19のの厄介なところである。このウイルスは検査で引っ掛けにくい潜伏期間が一定期間あり、加えて未発症段階でウイルスを撒き散らす特性がある(感染の半分程度は未発症だろうと言われている)。ある程度モデル化も行われており、「疑わしい症状を持つ人を全員検査する」という手法では、今の100~1000倍に検査能力を増強しない限り感染抑止効果は期待できないことが分かっている。

この問題に対応するため、《感染しているかもしれない人》を先回りして隔離するという方法がこのウイルスへの対処には有効である。この先回りの手段は、現在のところ主に2つの方法が実施されている。

一つは、接触者追跡である。これはすでに感染が分かっている人と濃厚接触した人も感染リスクが高いと判断し、選択的に検査や、あるいは検査なしでの隔離を行う方法である。ただし、この方法を取るには、行動歴と友人・知人関係を根掘り葉掘り聞いていくことになるので、当然ながらプライバシーや人権侵害の種になりうる。例えば、韓国ではLGBTのアウティングに繋がったケースではこれが問題になった。日本でも、直接行動歴を聞くことに限界がある。

もう一つは、感染リスクが高い(と考えられる)属性を持っている人を包括的に隔離対象とすることである。例えば、流行地域からの渡航者は検査の有無にかかわらず一括して14日間の自己検疫を求める方法は、台湾や中国、ベトナムにおいて流行初期から行われ、その効果を見込まれ多くの国で採用された。ただし、日本で1月末から2月頭にかけて「中国人と言うだけで一律入国規制するのは差別か」といった議論があったように、これは属性差別にもなりうる。

(経済パフォーマンスの)勝ち組と負け組の対策の違い

感染リスクに応じて選択的に隔離強度を変える方法を採用するか否かが、実際の経済パフォーマンスを変えているか、いくつか例を挙げて検討するに値することを示したい(根拠をつけるには指数化のうえ数量比較が必要であることは改めて述べる)。

属性による包括的規制:すでに書いた通り、台湾やベトナムは武漢封鎖の当時から、流行地域からの帰国者に包括的に問答無用の自己隔離を要請している。またロックダウンにしても、中国とベトナムでは都市単位が基本である。武漢以降も両国でたまに再発することがあるが、いずれも都市単位のロックダウンがその後行われる(日本で言うと都道府県単位か都市県単位での封鎖)。接触者追跡にしても、ベトナムは既報の通り接触者の接触者まで強制的に探し出して隔離する方針で、日本のように「接触者を検査して陽性なら隔離」といったものではなく、接触者と言う属性を持っていれば個人の検査と関係なく包括的に隔離対象となる(台湾や韓国でも同じ)。

プライバシーを侵害してのリスク評価:中国本土の報道では監視カメラで顔認識して追跡するシステムが"先進的""技術による解決"として報道されたこともあった。中国に比べれば民主的な台湾でも、海外渡航情報を横流しする(日本や西欧では違法)システムを採用した。「感染者だけ隔離すればよい」という方針を実現するのに、プライバシー侵害が容易な方法である、というのがこのウイルスに対する悩みどころである。

(比較)無差別ロックダウンニュージーランドやタイ、マレーシアは経済のパフォーマンスが低いが、これらの国では感染制御の主たる手段が非選択的な一斉ロックダウンである(タイの場合は軍事政権に対する反政府デモを抑圧する目的でロックダウン・集会禁止令が繰り返されていた側面はあるが)。

接触者追跡など個人別のリスク評価についても、感染爆発を起こした国では対応しきれておらず、ある程度抑えている国でも「接触者を検査なしに問答無用で罰則付き隔離する」といったような強力な規制を取っているのは韓国や台湾など限られ、接触者の接触者までそうとなるとベトナムやシンガポールなど数少なくなる。

これらの国から何を学んで何は学べないか

さて、ここまで書いたような細やかなリスク評価による選択的隔離は、書いた通り属性差別やプライバシー侵害などと板挟みであるため、東アジア諸国の施策をそのまま取り入れるのは難しい。ただ、本質が「細やかなリスク評価による選択的隔離」である、ということさえ意識すれば、それを日本や西側諸国で合法的に実現することは不可能ではない、と考える。

例えば、地域別の感染制御を積極的に取り入れていく、というのは日本でも不可能ではないだろう。憲法で移動の自由が確保されているため地域間移動自体は抑止できず工夫は必要になるだろうが、原理としては理解できるもので、例えばGoToトラベル開始直後に東京が外されたのはそれの一種である。

また、個々人の接触リスク評価をプライバシー侵害を抑えたうえで行うことも、テクノロジーにより解決する方法が模索されている。例えばCOCOAはそれにあたり、現在のところ情報源がbluetoothしかないという貧弱さにより効果が期待できるほどの精度が確保できていないが、私の知る限りでもいろいろ技術的なアプローチはあるので、なるべく早い実装が望まれるところである。


人権問題で規制に穴が開くのは西側ではやむを得ない部分があり、例えば豪州を含め多くの国で、冠婚葬祭など集会で集まる人数に規制をかけたが、政治デモのための集会の自由は侵すことが出来ず、私が見た限りでも、ホームパーティに罰金を書けた豪州でも集会は別枠で「感染対策をして参加しましょう」と書かれていた。これがBLMデモなどであれば「正義」という感じがするが、同じ法的根拠で「マスク拒否デモ」のようなものも欧米でしばしば目にするので、難しいものは難しいのだろう。この制限は受け入れたうえで、それでも何とかやっていく手立ては必要である。

最後に:これは仮説です

最後の最後にちゃぶ台返しになってしまうが、今回の仮説は、私が今まで各国の政策を見てきた印象から言っており、根拠をつけるには指数化のうえ数量比較が必要である。もしご興味のある経済学者の方がいれば、ぜひ研究を行っていただきたい、と考えている。国別データだけでは厳しいが、この検証については国別と四半期別のクロスのデータが得られるはずなので、規制の指数づくりに成功すればそれなりに見えるデータが得られるのではないかと期待している。

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