アジア諸国に学ぶ新型ウイルス対策

新型コロナウイルス感染症COVID-19についての情報をお求めの方は、厚生労働省の情報ページか専門家の情報をフォローしてください。私は専門家を紹介する立場にはありませんが、例えば以下の方などが穏当かと思います。
・押谷 仁(東北大学
・高山義浩(huffpost記事一覧
・岸田直樹(@kiccy7777
筆者は医療や行政法の専門家ではありません。単なる素人の感想なので医療情報としての信頼は置かないでください。基本的に自分が納得するためだけに書いたものであり、他者を納得させるために書いたものではありません。

流行期対策に舵を切った欧州諸国

イギリス、フランス、ドイツ、スペインは「初期の流行期」「封じ込めは不可能」という認識で対策をとっており、同じく流行期と認識している日本とよく似た施策を実施している(「日本と違ってすごい」的な煽りを入れるのは謎であるが)。

救急が必要と判断した症状のある者、濃厚接触の疑いのある者、感染地からの渡航者、にかぎられていたものを、感染した児童がいる学校全体や近隣住民に広げ、一般の医師からの求めにも応じることになった。1日400件だったキャパシティは数千にふやした(日本相当施策12)。……検査についても、能力を超えるため、軽症や無症状者が感染しているかどうかをみる検査の中止が予定されている……全国規模で5000人以上の閉鎖空間での集会禁止(日本相当)。……4日にはマスク徴発(「徴用」とも訳されている)が発令された(日本相当)。
――新型コロナウイルス感染拡大にも慌てないフランスの手腕 Newsweek日本版 2020年3月9日

特にイギリスは日本よりもはっきりと封じ込めを否定した戦略をとっており、普通は受け入れられにくいであろう封じ込め放棄後のシナリオについてあっけらかんとしてリスクコミュニケーションを行っている(もっとも、これができるのは後発組ゆえの有利さだろう)。

「正直に言わねばならない。もっと多くの人たちが今後、愛する家族を失うだろう」
――集会自粛も学校閉鎖も「しない」 英国が言い切る理由は. 朝日新聞. 2020年3月13日
ボリス・ジョンソン英首相は12日、イングランド主席医務官と政府首席科学顧問と並んで会見し……「熱や咳のみられる人は1週間自宅で自己隔離して下さい」(日本相当)……「イギリスの実際の感染者は他国の検査数と陽性率を見ると5000人から1万人いるとみられます」……集団免疫を獲得するまで先は長いので今からあまり頑張りすぎないように……ハッピーバースデーを2回歌いながら石鹸と温水で手を洗う
――新型コロナ なぜ一斉休校しないのか? 英国の首席科学顧問がお答えします イランでは長さ90mの墓穴  木村正人 3/13

アジアの封じ込め成功を支持するWHO

欧州諸国が「封じ込めは不可能」という立場をとる一方で、WHOは、アジアでの実績をもとに「封じ込めは可能だ」という意見を取っている。

テドロス氏 このパンデミックは制御可能だ。中国や韓国では新規の感染を急速に減らすことができている。全ての国が感染拡大の規模を変えることができ、各国の意志にかかっている。……封じ込め策をやめて拡大の緩和に移行すべきだとは言っていない。総合的な対策が必要で、封じ込めがその中心であるべきだ。
―― WHOが新型コロナでパンデミック表明 会見要旨. 日本経済新聞 2020/3/12

では、アジアの国でどのような政策が行われているか、WHOは何を支持しているのか。今回はそれを少し見て行こう。

シンガポール

まず、疫病の発生から現在に至るまで非常によくコントロールできている国として、シンガポールを挙げよう。シンガポールは経済的に豊かであり、同時に昔は「明るい北朝鮮」と言われたほどの管理国家でもある。「シンガポールで無理なら世界中どこでも無理」と言わしめる厳格さを誇る。下記記事の時点では、感染確認者の30倍ほどの濃厚接触者まですべて隔離対象としている。また、感冒症状がある場合1日2度の体温測定が義務付けられるなど、発熱検査も強力である。

1965年の独立以来、政権党は変わらず、厳しい出入国管理も維持し、ウイルスをまき散らす可能性がある人々の監視を正当化できる厳格な法律もある。
1月末に初めて、中国人旅行者の感染例が見つかったタイミングで、140人に及ぶ政府の専門チームが、患者への聞き取りや濃厚接触者の特定と隔離のため設置された。
保健省当局者によると、航空会社に乗員乗客名簿の提出を求め、防犯カメラで患者の動きを追い、警察の捜査員も投入した。これまでに2593人ほどが隔離された。
――焦点:シンガポールのウイルス対策、他国がまねできない徹底ぶり. 2020年2月23日. Reuters

韓国

韓国もWHOが「成功例」と見なしている国である。韓国はMERS禍以降コロナウイルス流行病を厳格に対処する法律を持っており、強力な検査能力もその影響下にあるものである。また感染者は、下記の通り隔離によって自由権を拘束されるほか、プライバシー権は殆ど消滅していると言ってよい(日本でやるには個人情報保護法との齟齬でまず施行不可能な施策である)。

This includes enforcing a law that grants the government wide authority to access data: CCTV footage, GPS tracking data from phones and cars, credit card transactions, immigration entry information, and other personal details of people confirmed to have an infectious disease. The authorities can then make some of this public, so anyone who may have been exposed can get themselves - or their friends and family members - tested.
[2015年のMERS流行の反省から、軽症者・無症者も含んで検査情報を積極的に公開している。]これには、当局が感染者の監視カメラ追跡、スマホ・自動車のGPS情報、クレジットカード決済記録、出入国情報など様々な詳細な個人情報にアクセスする権限を付与する法律の施行が含まれる。さらには当局はその個人情報の一部を公開することができ、友人や家族など濃厚接触者はだれでも検査を受けることができる。
――Special Report: Italy and South Korea virus outbreaks reveal disparity in deaths and tactics. March 12, 2020. Reuters

非常時に位置情報程度は大したことないじゃないか――と思うかもしれないが、同じ時間にラブホテルにいたことで不倫バレが疑われるなど、苦痛を伴うものであることは確かなようだ。

パニックに陥ったグミの住民は、「彼女のアパート名を教えろ」とコメント欄で迫った。この女性はこの後、「私の個人情報を広めないでください」、「傷ついた家族と友人に申し訳なく思うし、私も(身体的な痛みより)心理的につらすぎる」とフェイスブックに書き込んだ。
――「ラブホテルにいた」 新型ウイルス患者の情報、韓国は出しすぎる? BBC. 2020年03月5日
(メモ用追記)
SNSに「家族も友人も傷ついた。身体より、心理面がきつい」と訴えた。……韓国の保健当局が防疫のために公開する個人情報は、民主主義国としては異例の細かさだ。カード使用や防犯カメラなどの記録から割り出した訪問施設などを本人らの同意なしに発信する……当局が感染者の動きを捕捉できるのは、16歳以上の国民全員が持つ「住民登録証」の存在が大きい。スマホを買うのにもクレジットカードを作るのにも提示が必須で、買い物や通信、移動記録がひも付けられるため犯罪捜査などにも利用されるといわれる。国内の防犯カメラ設置数も800万台超とされ、密度ではITを駆使した監視社会で知られる中国をもしのぐ。
――コロナ対策で浮かび上がる「監視社会」韓国 個人情報をここまでさらしてよいのか 東京新聞 2020年4月1日
宗教活動に限らず、家族や会社に知られたくない行動をとる人もいるだろう。
 「それはいるでしょうね。そういう人たちにとっては、病気になるよりも自分の行動がバレることの方が怖いかもしれない」
 「そうですよ。だから絶対にコロナに罹りたくない」
 友人たちとそんな会話をする中で気がついた。ああ、これは抑止力にもなる。理由はともあれ「コロナに罹りたくない」と感染を警戒して、注意深い生活をすることは、感染拡大の防止に効果がある。怪しい行動が自粛されることは、政府が望むところだ。ちなみに韓国政府は欧米式ロックダウン(都市封鎖)のような強制措置はとっていない。
―― 韓国的新型コロナ対策――監視と感染抑止のジレンマ 2020年04月07日

中国

中国は震源地であり、初期の対応のまずさと情報不足で大流行を招いたが、都市封鎖(外出禁止)という強硬手段に加え、やはり日本ではプライバシー権の問題でまず無理であろう監視カメラと顔データベースの使用と、SARS以来の様々な発熱対策で挑んでいる。

中国のAIユニコーンである曠視科技(メグビー)は、地下鉄など公共施設での感染者スクリーニングを効率化するために100人の研究開発チームを編成。従来の赤外線センシング技術に顔認識技術などを組み合わせ……3メートル以上(一般的には5メートル以内)先にいる人の体温を測定できる。人混みのなかから高体温の人を発見し、身体や顔の情報に基づき、AI技術を活用して識別する。発熱を疑われる人がいれば、アラームですぐに知らせる仕組みだ。
――新型肺炎で生まれた中国イノベーションの実力. 東洋経済online. 2020/02/28
中国は、とにかく隔離を徹底的にやったと……オフィスビルに入るとき、アパートに入るとき、あらゆる場面で熱を測り、もし発熱が確認されたら直ちに、オフィスや自宅への立ち寄りも許さず、発熱外来に行くように強制されるとのこと。これだけ徹底した封じ込め―WHOはこれをaggressiveと表現していますがーをすることで、感染者数を抑え込んでいると。
――Confronting a Pandemic (Podcast). New York Times. March 12. 2020, それを要約した@nobu_akiyama氏のツリー

WHOの定義する「成功例」の人権侵害性

さて、以上みてきたように、WHOが「成功例」と評価するアジア諸国の政策は、SARS禍・MERS禍の経験もあってか、あるいは国の元々の体制もあってか、私権制限という点において過激なものが多い。シンガポールのとる「濃厚接触者もまとめて強制力のある隔離」は、日本の法制度では不可能である(あくまで発症者に対する治療のみであり、それもハンセン氏病隔離違憲判決で相当な制限がある)ことは別項にて述べた。

また、シンガポールで行われている警察による監視、韓国で行われている個人情報の政府把握とその公開、中国で行われている顔データベースという指紋押捺登録より強力な個人情報の政府掌握など、プライバシー権の侵害であり個人情報保護法違反である政策を日本が取れるかというとかなり難しいだろう。

「成功例」から人権侵害を取り除いて応用すると……

これらの「成功例」から我々が今すぐ法的に導入可能なものは、徹底した発熱チェックと隔離による家族感染の防止である。後者については、私も以前にクラスター対策班の見解について書いた際、実はクラスター対策班の定義する条件にがっちり当てはまり、実際に感染も多い例として、家族感染を挙げた。アグレッシブに感染を防止するなら、家族隔離はどこかで必要になってくるとは考えられる(または、別項で記した感染防止策を普段の家庭生活に取り入れるべきである)。

前者の発熱チェックについては、プライバシー権を侵害しない限り――すなわち適宜関門を設置してその場で体温を測り、入場を拒否して自主的に検査を促すのは「自粛」「お願い」ベースである程度動くとは考えられる。

加えて、中国で行われているように様々な臨床所見や非侵襲的で安全な検査のデータとCOVID19用PCR(に加え他の疾患の)検査結果を匿名化の上一つのデータベースに統合し、機械学習等でPCRを用いない判別方法を開発していく、といった方法もアグレッシブな検査方法を実現するという意味ではありではないかと思う。


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