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まだ「検査で感染抑制」とか論争してるんですか?(その4)

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新型コロナウイルスが問題になりだして半年たったが、いまだに検査論争が続いている。検査についての現段階での結論は以下の通りである。

PCR検査は増やすに越したことはない。適切な行動制限を敷いたうえで収束を早める効果はあるだろうし、効果的な治療法が確立されつつある現在、迅速な診断は迅速な治療につながりうる。

しかし、行動制限を解除して検査と隔離のみで感染拡大を抑えるには、PCR検査では力不足である。それを実現するには、今現在
PCR検査を最も高頻度で行っている国より2桁多い頻度での検査が必要であり、機器の製造や技師の確保を行うことは困難である。頻度を確保したいのであれば、抗原検査などで迅速簡便な検査を導入したほうが良い。

また、同じ数の検査を打つにし
ても検査戦略により大きく効果が変わる。検査数増は検査戦略を広げられるかどうかという視点で見ると良い。

以下、これについての背景の説明を行う。


治療のための検査は現在必要とされている

2~4月ごろは、医師の側から「検査は控えめに、なるべく病院に行くな」という趣旨のコメントが出ることが多かった。「発熱4日」のガイドラインが出ていた当時は、治療法が確立しておらず診断が治療に繋がりにくかったことと、「武漢のある病院の入院患者の4割が院内感染」という論文が話題になるなど院内感染が恐れられていたためである。日本でも2~4月は病院や介護施設で多数のクラスタが発生し、多くの死者を出すことになった。当時は病院での治療効果と感染リスクを本気で天秤にかけざるを得ない状況だった。

現在は状況は改善してきている。世界中で新型コロナウイルスが流行した結果、治療法が確立しつつあり、日本の医師も経験を積んで、「早期治療」に近づきつつある。加えて、感染対策も整理され、病院や介護施設での感染は以前よりは効果的に防御されている。7月以降の感染者数増加は20~30代の繁華街での感染が中心で、病院でのクラスター発生はまだ少数である。

最後にもう一つ、第1波のときとの大きな違いがあります。それは現在新型コロナの治療法がある程度確立してきていることです。
――忽那賢志「新型コロナが弱毒化しているという根拠はない

院内感染対策に面会禁止も含まれており「コンビニ受診」というほど気軽な受診は勧められないだろうが、医師(や後述の接触追跡)が求めればすぐ検査するような体制を整えるべき、というのは確実であろう。実際、都道府県の検査能力増強の動きが遅いため、医師会が独自に検査センターを設置する動きが続いている。

検査で感染を抑止するという発想

「検査を増やせ」という世論の中には、上記のような「医師のもとに応じて増やせ」という声だけでなく、検査を増やせば感染を抑止できるという発想の声も聞かれる。

この発想で問題になるのは、新型コロナウイルスは発症前感染の比率が高く、発症後の感染発生は4割程度である、ということである。発熱や倦怠感など症状が起きたら即時に全員検査するという戦略をとっても、最大で4割の感染しか防げないということになる。実際は自覚症状が出てから病院に行くまではタイムラグがあり、どれだけ努力しても全感染の3割程度しか止められないだろう。

つまり、いくら検査を増やしたとて、発症前の感染者を捕まえなければ感染拡大を止めることは困難である。4月に書いた記事で接触追跡が重要であるとしたのもこれが理由で、接触追跡により未発症段階での感染防止が求められたためである。

現在は接触追跡の体制は整っているが、それでも飲み屋を再開したとたんに一気に感染が広がっており、感染抑止効果にも限界はある。既にクラスター対策班は疲弊しており、現在は病床が埋まりきっていないとは言え、こちらのほうから先に破綻する危険性も考えられる。この破綻を回避するには、新型コロナウイルス接触確認アプリを多くの人が導入する必要がある。

ローラー作戦の効果

では、発症前の患者を捕まえる次の方策として、全住民をローラー作戦で検査する場合を考えてみよう。COVID-19発症までの典型的経過(備考1, 2)は、感染後1~2日目は潜伏期間、3~4日目は未発症でウイルスを出す期間、その後発症とされる(下図)。

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ローラー作戦を実施すると、未発症感染者のうち潜伏期間は検査が陰性、ウイルスを出す期間は陽性になるので、野放しだった感染者の半分を捕捉できると期待できる。ここで、1人の感染者が平均で4日後、平均で2人に感染させるという(おおまかにえいっやと決めた)数字と比べると、{半分を捕捉する}={2倍に増える期間を1回分打ち消せる}と考えれば、ローラー作戦1回ごとに4日、いろいろ加味しても8日、おおよそ1週間相当の感染拡大を遅らせることができる、となる。これはただの概算だが、桁数の感覚はおおよそこの程度である。これに接触者追跡を追加すると連鎖の1世代分、さらに4日程度感染拡大を遅らせられる。

ドイツの検査数の公称値は100万検査/週だが、これは約1.5年周期で全国民ローラー作戦を展開し、83週につき1週間分感染を遅らせる程度の検査頻度である。桁感としては焼け石に水というところだろう。ドイツの公称値より10倍多く検査しても感染拡大をせいぜい1割遅らせるにすぎず、ドイツにいる人ですら手洗い励行とマスク着用を守らせるほうがまだマシではないかと言う程度の期待にとどまる。なお、実際には現在は40~50万/週程度のため、これよりも頻度が低い。

行動制限を解除しうる定期検査の物量

仮にローラー作戦での全員検査で約1週間ぶん感染拡大を遅らせられるなら、1週間に1サイクルで全員検査を回せば完封できる、という発想は当然ありうる。政府周辺でも新型コロナ分科会の小林慶一郎氏はそのような主張を行っている。

小林氏が根拠としたハーバード大学からの提案では、米国民全員に2週間に1度の頻度(1日で3.3億人の6%)である、2000万検査/日あれば行動制限を解除できるとしていた。最近投稿されたnature記事で取り上げられた未査読の論文では、上記の発想を数理モデル化し、1週間に1度の全員検査で感染を1/3ほどまでに減らし、3日に1回程度であればほぼ完封できるとしている(下図)。なお、前節での概算はこの論文の発想を大幅に簡略化したものである。

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この検査頻度をアメリカに置き換えると、4000万~8000万検査/日となる。今現在人口当たり検査数ではアメリカが世界最多となっているが、それでも全米で80万検査/日の数字しか達成しておらず、ハーバード大学提案が目標とする2000万検査/日の4%、最近出た論文が出す数字の1%に過ぎない。日本に当てはめた場合は、1500万~3000万検査/日程度が必要だが、現在の検査数は2万/日程度で、およそ3桁足りない。

重点監視対象の検査は効果的

全員を対象としたローラー作戦による検査の感染抑止効果が低いということは、4月の段階でも英国インペリアルカレッジのCOVID-19対策チームの第16報で指摘されていたことではある。

ただ上記レポートでも、ヘルスケア労働者を定期検査すれば追加で25-33%の感染伝播が抑えられるとしている。当初院内感染が恐れられていたように、ヘルスケア労働者は感染のハブになりやすく、かつ高リスク者と接する機会も多い。このため定期検査の効果が大きいわけである。これは最近世田谷で「社会的検査」として導入が企図されている(※この記事を書いた当初、この名前が全住民検査のことを企図していると勘違いしており、ラベル付けが間違っていました。お詫びして修正します)。

日本の場合は社交飲食業のスタッフが感染のハブになりやすいと考えられ、新宿区が独自に検査促進を訴えていたし、大阪でもミナミに臨時検査所が作られていた。この戦略自体は(ポルノ業界における非常に高頻度の性病検査と同様に)間違っていないが、これまでの論文の知見から言えば、発症者対象としていたのでは間に合わない。対象者を限ったとしても3日サイクルのローラー作戦でないと感染拡大は防げなかっただろう。アメリカでも「12日以内の陰性証明」でスクリーニングしたはずの集会で数百人のクラスタが発生しており、ザルでしかない検査を過信するのは害でさえある。

検査で感染を防げるかといえば、どのような検査戦略をとるかということとセットである。検査を増やせば取れる戦略の幅は広がるのは間違いないので、それ自体は良いことだが、せっかく増やした検査数を意味のない戦略に投じたら何の効果もないので、どのような検査戦略で「誰を、いつ」を検査する方針かを第一の評価の対象とすべきだと考える。例えばヘルスケアワーカーの定期検査は評価できるが、「誰でも、いつでも」「不安になったら来て」という戦略は検査数をほとんどドブに捨てることになるだろう。

現状は行動変容で何とかしている

今現在世界で行われているレベルの検査では、「社会的検査」を主張する人が期待するような効果は得られないとして、では現に感染を抑え込んでいる国はどうしているのか、という疑問も出よう。その答えは、前回記事でも取り上げた通り、行動制限を続けているから、となる。

例えばニューヨークをはじめとして外食が禁止で出前のみという国はいまだ多く、再開しても会食は禁止で1人1机で机ごとに隔離しているパターンでの再開であることも多い。日本での7月の感染者増は会食や飲み屋がかなりの割合を占めており、こういった制限の続行は効果的なのであろう。

中国では感染者が出るたびにローラー作戦を実施するのでこれをもって効果があるとする主張する人も多いのだが、中国の場合ローラー作戦実施と同時に外出制限を敷くことが多いので(北京の例新疆の例)、効果が混同されがちである。

英オックスフォード大学のグループによる「コロナウイルス政府規制指数」を参照すると、世界の半数以上の国は、いまだに日本の緊急事態宣言時より厳しい規制を敷いている(下図)。そして前回記事でも取り上げたが、規制をあまり緩めずにいる英は感染者の再増加が抑えられる一方、規制を緩めた多くの国では感染者が再増加し、鉄壁を誇ったベトナムさえ陥落した。伊、独、豪、韓などはそれに対応して規制が再強化されている

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感染抑制の効果は、基本的には行動規制や行動変容が主たるもので、世界どこの検査体制も飲み屋を再開できるには程遠い、というのが現状であろう。

PCRは定期検査や確認検査に向かない

そうは言っても、とにかく検査は増えたほうがいいんだ、つべこべ言っていないでPCR検査数を増やせ、という提案はあり得る。

直近で問題になっているのは、日本の法制度上保健所が都道府県運営で共通システムになっておらず、コロナ用のシステムを導入するのにみずほ銀行のシステム統合並みの苦労が必要そうで、ここの事務で詰まっている、という点がある。記事で問題があることは伝わるが、解決法は部外者にはちょっとわからない。

また、PCR検査体制構築は準備が煩雑である。検査機器とその設置施設を用意し、それを毎日動かせるだけの検査技師を雇い、施設まで検体を集める輸送体制、試薬の生産体制、加えて個人情報たる結果を管理する事務の体制が必要であり、そろえるべきものは多い。「社会的検査」をするにはこれを今の100~1000倍ほど用意しなければならない。1桁増あたりまではなんとかなりそうだが、2~3桁は実現性が不明瞭である。「検査数を簡単に安く増やせた」とする記事は散見するが、基本的に元々持っていた検査体制をコロナ対策に振り分けるようにもので、完全新設はまだハードルが高い。

「社会的検査」が提唱するような大量検査を目指そうとするとき、技師育成が最も狭いボトルネックになると予想する。ツイッターの自治体の検査技師さんからの伝聞ではあるが、今ですら検査数増の対応のため経験の浅い技師が増えた結果、操作ミスや取り違えは無視できない頻度で起きているようで、今のところはベテランがそれを見て怪しいものは再検査という状態のようである。人を増やすにも教師となるベテランの頭数が必要であり、これはどうあがいても今から急に増やせはしない。100~1000倍まで増やすとなると、技師になる素養のある人の頭数をそろえられるかも怪しいし、経験の浅い技師を増やすほどにいわゆる「偽陽性問題」がオペレーションのレベルで起きやすくなるのではないかと思う。

また、イベント参加前などのワンショットの「安全確認検査」をしたいという声もあるが、PCRでは限界がある。PCRは検体輸送と検査(増幅)に一定の時間がかかり、少なくとも居酒屋入店前に検査、というわけにはいかない。またウイルス量は無症候期を含めて日ごとに急激に変動することが知られており、それらの報告から推論すれば、潜伏期間に採取した検体の陰性の結果が通知されたころに発症・ウイルス排出のピークを迎えた、ということは「よくある」くらいだと考えられる。リプライで頂いた情報によれば、プロゴルフで開幕前検査で陰性、その後自覚症状なしだがスマートウォッチの値が悪化したため検査したところ陽性だったという例があるそうで、机上の空論ではなく実際に起きうるもののようだ。軽量で機動力の高い検査機器を用いる方法もあるが、こちらを選択すると技師の頭数が必要という問題が出る。

こういった問題を回避するには、PCR以外の検査法の充実を待つ必要がある。私は従前から「リトマス試験紙のようなものを口に含んで毎朝誰もが自分で検査できれば実現可能である」と説明してきたが、実際そのような試験紙の開発は進んでいるようだ

医療検査と感染抑制検査は要求特性が異なる

ただ、PCR以外の検査法を導入するとして、精度が問題になることもあろう。実際、東京医師会は(記者会見を見ていた人の感想によると)前記のような簡易検査については精度を懸念しているようだ。この問題については、私は{医師の判断基準と感染制御のための判断基準は異なることがありうる}ということを指摘しておきたい。

例えば、あなたが新型コロナっぽい症状を持っているとして、精度の高いPCRと感度の低い簡易検査のどちらも受けられる状況だったとしよう。その時どちらを選ぶかといえば、言うまでもなく精度の高いほうである。誤診されたらたまったものではない。医師は患者を救うことを考えているので、基本的に患者と同じ考え方をする。治療に必要な精度を出せる検査でなければ「使えない」と考えるのは当然である。

感染制御のためのローラー作戦を目的とするなら、感度はそこまでクリティカルにはならない。例えば感度30%、医療目的としてあまりにも心もとない検査であったとしても、それを毎朝全員が実施すれば感染の30%を減らすことが出来ることになる。最近の東京の実効再生産数は1.2前後と推定されており、これの30%を削れれば実効再生産数は1以下となり収束が期待できることになる。

このような論争は、以前マスクが不足していたときにもあった。当時の論争は「医療機関でのマスクが不足しているからまともなマスクは感染確率の高い医療機関に回せ、一般人は気休めの布マスクで十分」という話で、それ自体は正しかったのだが、それに付随して「一般人がマスクをつける必要があるか」「布マスクは効果があるか」ということが話題になっていた(ちなみにリンク先の通り、当時自分は紙の使い捨てマスクの製造補助をしろと言っていた)。

当時の議論は「花粉症マスクや布マスクは甘めに期待しても感染確率が半分か1/3程度になるだけ」ということが穏当な評価として受け入れられていたが、この程度のマスクを{無防備なら100%感染するような陰圧室}につけていく人はいないだろう。そういう医療目的なら性能の高いものが当然要求される。一方、それを社会全体が着けるとしたら話は別である。布マスクが市中感染の半分を防げるのだとすれば、再生産数を半分にできるということであり、絶大な効果である。少なくとも休校や飲食店閉鎖で得られる効果に比して遥かにコストパフォーマンスが良い。感染が2万人から1万人に減ったとしてあなた個人が感じる恐怖はさほど減らないだろうが、再生産数という感染制御の観点でとらえると十分効果がある、ということである。

全員検査するなら1週間に1度以上」とした論文でも、感度より頻度が重要と言うことになっている。偽陽性が増えるようなら手当てが必要だが、感度の問題だけならローラー作戦目的に限ればそこそこあれば十分、とうことである。







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ツイッターだとまとまりが悪いが、本ブログ(https://crossacross.org/ky/)に書くには雑多すぎるという内容を中心に書きます。

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コメント (1)
特異度との比較論でないと、うっかり感度=陽性判定の正確さ、と言うのを忘れそうになる。あぶないあぶない
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