当面のマスクの供給について

新型コロナウイルス感染症COVID-19についての情報をお求めの方は、厚生労働省の情報ページか専門家の情報をフォローしてください。私は専門家を紹介する立場にはありませんが、例えば以下の方などが穏当かと思います。
・押谷 仁(東北大学
・高山義浩(huffpost記事一覧
・今村顕史(@imamura_kansen
・岸田直樹(@kiccy7777
・坂本史衣(@SakamotoFumie
筆者は医療や行政法の専門家ではありません。単なる素人の感想なので医療情報としての信頼は置かないでください。基本的に自分が納得するためだけに書いたものであり、他者を納得させるために書いたものではありません。

2月のマスク不足の折、政府はマスクの供給増強を言っていたが、問題は一向に解決していない。マスクがウイルスを防ぐ効果は気休め程度なので一般人はつけるべきではない(それより院内感染が怖い医療関係者に使ってもらったほうがよい)というのがWHOやCDCなど医療オーソリティの主張であり、私もそれに納得するが、昨今、医療関係者がSNSで病院内でのマスク不足について不満を述べる例が目立つようになってきたことから、さすがに実態をある程度把握したいと思うようになった。そして、現実はかなり厳しい。

市販マスクを作る原材料がない

ことを厳しくしているのは、今回のパンデミック化により欧米でマスク需要が激増したことである。それまで日常的なマスク着用はアジア(というより日本)の奇習のような扱いを受けていたが、1月に中国での需要が激増したのを皮切りに、今や人口3億のアメリカ、人口4億のEUそして全世界が(アジアの感染率の低さの一因をマスクに求める声もあり)一気にマスク需要が増した。その結果、マスクを作ろうにも原材料の不織布が手に入らない状態となっており、中国ではマスク工場がストップする事態に陥っている。

医療用マスクの「心臓」といわれるメルトブロー式不織布の価格は10倍以上に跳ね上がった。河南省では、これが原因でいくつかのマスク製造企業が生産停止に追い込まれている。
――材料価格が10倍超えで生産困難のマスク、代替の新材料も登場 2020年3月27日 AFP
中国のマスク工場から見積もり提示が届きますが、とても高いです。工場担当者の話では、欧米がオークション形式のように発注をしており、マスクの価格が高騰しているようです。世界中でマスクの奪い合いが起きています
――マスク「値上がり」を叩く前に 苦闘する卸業者、原料費「何十倍」も薄利で輸入...世界中で「奪い合い」が 2020/3/27 JCAST

医療用マスク用の不織布はポリプロピレンなど合成繊維を特殊な製造装置で作るもので、石油価格が低迷している今これを作るのは難しくないが、増産するには製造機械の増強が必要であり、少なくとも半年程度は増産が見込めない。

一般人の気休めには布マスクでよい

そんな折、米国でマスクを勧める一般人の記事に過去文献の掘り返しがあり、布マスクとの比較実測が紹介されていた(van der Sande, Teunis & Sabel, 2007)。

この実測では空中に浮遊するアエロゾル飛沫の吸い込みを防いだ割合を、医療用特殊マスク(N95相当)、不織布サージカルマスク(花粉症用並み)、手製の布マスク(材料はtea cloth=ふきん)の3つで比較している。

医療用特殊マスクはエアロゾル飛沫が1/100程度になるまで防いでおり効果は確実だが、息が苦しいほど目の細かいフィルタを使っているため、日常的使用には向かない。

花粉症用マスクはエアロゾル濃度を1/4程度に、手製布マスクは1/3程度に減らしているが、絶対レベルとしてほぼ気休めである。また、性能的にも手製布マスクでも花粉症用マスクの7割程度の性能は確保している(もちろん、花粉を防ぐ目的ならば花粉症用マスクは確実に止めてくれる。ここで比較されているのはエアロゾル飛沫を防ぐ性能である)。

なお、自分が咳をするときの抑止効果については、エアロゾル飛沫(0.01mm以下)については布マスクはほぼなし、花粉症用マスクも特殊マスクも半分に減らす程度で効果は薄いものの、接触感染の原因になる大きな飛沫(0.1mm以上)を防ぐ効果はマスクの種類に関わらずあるだろう(同程度の粒径の霧吹き水を吹き付ければかなり防げると考えられる)。このため、食品工場などでのマスクの使用は当然必要だろう。

すなわち、一般人の気休め程度の性能を求めるなら、(ふきん程度の)布のマスクで十分ということである。

マスク不足への対応

さて、冒頭に述べた通り、WHOやCDCが「マスクは気休めでしかないから一般人はしなくてよい」と言っているのは、マスク不足への懸念であり、院内感染という最大の危険が防げなくなるのを危惧しているからである。そしてその危惧は現在現実化しつつあると言っていいだろう。

上記論文を掘り返していた記事では「CDCはマスクは気休めにしかならないと言っているけど、気休めでもしたほうがいいんじゃないの!?」と主張しているが、ないものはないのだから手の施しようがない。

現状、絶対数が不足しているため、公衆衛生を最も改善する(私たちがもっとも新型コロナにかかりにくい)マスクの使い方は、市販を禁止し配給制にして以下の順序で配給する方法だろう。

1. 医療者が十分な頻度で交換できるまで供給
2. 食品工場など衛生管理が必要な業態への供給
3. 医師の処方に基づき患者に供給
4. 一般への市販は布や紙等の代替材料マスクで供給

配給制は最終手段だが、直近の供給力の10倍の需要がある状態においては、やむを得ないと考える。

ただ一般人のマスク需要をある程度緩和する必要はあるため、気休めとして飛沫防止効果が大して変わらない代替材料マスクは供給してもよいという考えである。マスクは使い捨てであるほうが良いので、気軽に使い捨てられるよう、安価な布を材料とするか、またはティッシュやキッチンペーパーなどをベースとした紙製マスクでも、接触感染の原因になる大きな飛沫を吸収させる役割や気休め用ならば構わない、というのが自分の意見である。

また、ワクチンができるまでの暫時の需要増、または本格的な増産ができるまでの暫時の供給能力増強という意味では、布や紙などの代替材料マスクの生産は、新型コロナ禍で失業した人の雇用を吸収する公共事業として行うのが良いのではないかと考える。ウイルスとの戦いは1.5~3年の長期戦になる見込みとなっており、短期想定の現金給付や雇用助成金では支えきれないだろう。事実上の失業者に需要の大きいマスク生産を割り当てるというのは、エンタメ・外食業界で働いていた人にとっては不本意かもしれないが、やむを得ない救済策であると思う。


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