日本のメディアが注目しない欧州のコロナ対策

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この数週間、日本では新型コロナウィルスの感染者が最増加しつつある。その影響もあって欧州である程度感染を抑え込めていることに注目する記事も見られるようになってきたが、日本では検査論争に引きずられる形で検査だけが注目され、規制や自粛の強さが過度に軽視される傾向にあるように感じられる。

外国のメディア、例えばウォールストリートジャーナルが欧州の感染抑制について触れた記事では、検査総数には特に触れておらず、規制や自粛の強さにその理由を求めている。記事で挙げられている事例では、

・大規模イベントの禁止、社会的距離空けの徹底
・マスク着用義務などミクロの積み重ね
・総数減で接触追跡が可能なレベルになった

というあたりを感染を抑え込めている要因としている。日本は相対的に検査数が少ないと言うことでそこに議論が集中してしまうのはやむを得ない側面があるとは言え、その議論ばかりに熱中することによって、世界のメディアが本当に注目している要因と言うのを見落としがちだと言うのは私は問題だと考えている。そこでその点について少し深掘りしたいと思う。

市民の意識の高さ

感染をある程度押さえ込んでいる国では、市民意識が高く言い換えるとコロナ対策を「自分ごと」として考えている、と感じる事例が最近増えてきている。例えば、接触追跡アプリのダウンロード数は市民の参加意識の差をあぶりだしており、日本ではまだ700万ダウンロードだが、日本より人口の少ないドイツは1000万の大台を超え人口の2割程度まで増えている。

私が市民意識を意識し出したのは、アメリカやオーストラリア、日本など感染者数の再増加がみられる地域で、ホームパーティでのクラスター感染が散見されるようになったという部分もある。日本では7月前半の感染者は20代が中心だったが、大学生のコンパによる感染事例やクラブで遊んでいて感染した事例散見されるようになっている。アメリカではいわゆる「コロナパーティ」が問題になっているが、そうでなくと誕生日や歓送迎会のパーティでもクラスターが発生して全部挙げればきりがなく、ケンタッキー州ルイビル市では高リスク環境としてホームパーティが名指しされる豪シドニーではホームパーティに参加した60人以上に罰金が科されるなど、感染経路としてホームパーティが存在感を示すようになっている。もちろんこれは他の感染経路を規制等で潰していった結果のバイアスではあるのだが、(規制を破ってまで)ホームパーティで感染するのは、政策というより市民意識の問題が強くなる。

欧州やNYは、流行初期にこっぴどい目に遭い、日豪よりはるかに厳しいロックダウンを経験したがゆえ、「もうあれは2度とごめんだ」となって高い市民意識につながる一方、日本などでは「あんなに厳しい規制は本当に必要だったのか」というような意見がかなり多く、このあたりが市民意識の差につながり、感染者数の再増加に影響を与えているのではないかと考える。

感染を押さえ込んでいる国も、日常をどんどん取り戻している、と言えば語弊がある。みんなでワイワイ騒ぐことがご法度である「新しい日常」に粛々と移行し、パーティーは法律で規制され、自粛警察たちによる相互監視があるのが現実である。コロナ対策は「自分ごと」として日常生活に浸透している。

日本における多くのコロナ言説は、市民意識の低さ、「他人ごと」感を感じるものも少なくない。自分ではないよその人間、例えば東京が悪い、コロナを広げる業種が悪いといったところに押し込めて自分が規制されたくないと言う立場に置くのもまあそうであるし、外国の事例を紹介する際に、検査が最も決定的であって、検査さえすれば規制が解除できるといったような言説も目にするようになっている。だがホームパーティーでの事例などを見る限りにおいては、社会のコロナに対する防御線として、自分に義務があると考える市民意識は重要であるように思われる。

政府規制の強さ

また、感染を押さえ込んでいる国も順調、単調に減らしているわけではなく、感染の再増加の抑止のため、規制を再強化している例も多く見られる。英オックスフォード大学のグループによる「コロナウイルス政府規制指数」を参照すると、規制を緩めた後に再増加がみられたため、規制を再強化している国が確認できる。下図はそのような国をピックアップしたものだが、伊、独、豪、韓など主要な国で規制が再強化されている。また当該指数のカウント外だが、中国でも再流行が起きると厳格なロックダウンが即時導入されることが多い。

コメント 2020-07-23 085654

もう少し深堀りすると、規制を再強化した国は、日本の緊急事態宣言時の規制より緩めた途端に再拡大を起こし規制を再強化している。おそらく日本の緊急事態宣言は(偶然)新型コロナ対策として絶妙の強度であり、何かあった場合の基準点としやすいのではないかと思われる。緊急事態宣言再発動は恥ずかしいことではない、世界中同じ、という感覚を持って取り組んでほしいところではある。

またそもそも論として、日本はずっと規制指数が低いままで推移しており、外国は規制を緩めた今ですら日本が一番厳しかった頃よりもさらに厳しい規制がいまだに敷かれていると言う状態である。

そのような厳しい規制を長く続けているため、ビジネスへの影響も大きく、日本より影響が少なくすんでいる国と言うのはあまりない。

例えばニューヨークなどは極端にその影響が出ており、外食やアパレルを中心に老舗も多くが倒産・廃業を迫られている状態である。倒産はすでに競争力を失っていた企業から始まってはいるが、ブルックス・ブラザーズピザハット/ウェンディーズシルク・ドゥ・ソレイユなど、有名どころの破産もよく報じられている。外食チェーンはすでに1300店舗が閉鎖、個人事業主が多い外食やグロッサリーも影響が大きく、全米では35%が廃業しているとのことであり、特にそういったスモールビジネスは黒人経営者も多く41%が廃業するなど重大な影響を受けている。Black Lives Matter運動が起きるのも、さもありなんと言う状況である。

こういった事情はドイツあたりでも似たようなもので、例えば「夜の街」は規制が解けず、政府からの補償もないため、セックスワーカーがデモを行う事態に至っている。

また、イベント産業も壊滅的な打撃をこうむっており、ポール・マッカートニーのような有名人も「来年まで再開できず、もう持たない」という悲鳴に近い見通しを述べるに至っている。

「イギリスのライブミュージックは、過去10年間において、イギリス国内で最も社会的、文化的、経済的成功を収めた業界の一つです。しかし、ソーシャルディスタンスの終わりが見えず、政府からの財政的支援が合意に至っていない今、コンサートやフェスティバル、そしてこの業界で働く数十万人の見通しは暗い状況にあります。早くても2021年と見られるビジネスの再開まで、大量の破産申請と世界有数の業界の終わりを避けるためには、政府からの支援が極めて重要となります」
―― ポール・マッカートニー

また、人づての話であり統計がないが、台湾やタイなどアジアでも観光業・飲食産業を中心に破綻が相次いでおり、タイでは観光業の3割が廃業見通しとなっている。またタイの場合は軍事政権が反政府デモを抑えるためにロックダウンを乱発しており、これについてはカウント外としたほうがよさそうである。

まだ「銀の弾丸」はない

以上の通り、大量検査している国でも、「うまく感染制御している」とみなされている国でも、結局のところ日本の緊急事態宣言時並みの規制・自粛を敷いたままの国が多く、日本の緊急事態宣言時以下まで緩めようとして感染が再拡大し、再び規制強化に舵を切った国も少なくないという状況である。

規制強化は当然ながら経済に悪影響を与え、観光業、個人経営企業、路面店の3割が廃業するという事態に陥っており、これだけの犠牲を払いながら感染制御しているというのが実態である。八方ふさがりの状況である、ということは認識したほうが良い。

もちろん、私も打開策はうたなければならないと思っており、営業再開時の感染対策などについて初期のころから発信しているし(現在は概念自体が普及して行政が音頭を取り始めたのであえて発信はしていない)、

定点観測型の検査も必要性を認めており、それが有効に機能するであろう、銀の弾丸になるであろうレベル――《仮想的に言えば、リトマス試験紙のようなものを毎朝口に含》んで感染有無を判断する、といったようなものの必要性も説明している(検査紙を用いた迅速簡便な抗原検査は実際に開発が行われている)。

ただ、現状、検査も対策もワクチンも、銀の弾丸と呼べるレベルに達したものはない、というのが現状である。欧州でのマスクの義務化、台湾や香港、中国で行われている飲食店の入場制限、ホームパーティの禁止、全世界的な旅行規制など、関係業界を犠牲にした細やかな規制と自粛と積み上げ、およびよく言えば高い市民意識、悪く言えば自粛警察の相互監視が現状感染制御を支えているのが実態と言ったところである。

「鉛の弾丸」の流れ弾

現状のような状況の中では、犠牲になる業界の負担は重いものである。単純に仕事がないのは困るし、売り上げが立たず借金が膨らむというのは恐怖ですらある。転職を支援するのが一番早いが、今までのスキルの積み上げを放棄して人生やり直せと言われてもやはりつらいだろう。3月ごろには閑古鳥が鳴いていてた航空業界から衛生用品製造(ないし縫製)の補助仕事(倉庫番など)が抽出されようとしたとき「望まない仕事をやらせるな」などの批判がtwitter上で展開された。何もしなければ失業が増え、雇用保険の引当金のために雇用が安定している人も相当額を取られることになるだろう。

また、自粛していたら生きる意味がない、と言うくらいに考える若者も決して珍しくはない。twitter上でも「#大学生の日常も大切だ」というハッシュタグが流れていた。日本を含め世界で再流行が起きている国では、5月ごろまでに猛威を振るった医療機関・介護施設で対策が進んだ一方、世界中のそこかしこで若者のパーティが感染源として浮上してくることになった。ただ、彼らの主張も決して無視できるものではなく、複数の調査[][]で学生時代の縁での結婚は全結婚の1/4程度を占めており、コロナを理由に学生の出会いを締め付けすぎると相応に出生率の低下となって反映されるだろう。

八方ふさがりの状況であるし、影響重大な人に対して「人生終わるくらいの影響があるが我慢しろ」と面と向かって言う勇気のある人も多くはなかろう。ゆえに、外国にユートピアがあって問題が解決されていると信じたくもなるだろうが、残念ながら今のところそういったものはない。地道な積み上げだけが問題を緩和する、というのが現状である。



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