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第十一章 外に出たら、ビルの隙間を走り抜ける冷たく乾いた風の出迎えを受けた。 厚手のロ…
第十章 母の葬儀の日はここ数日の猛暑がおさまって、秋の訪れを告げるように爽やかだった。…
第九章 「先輩、本当に申し訳ありません!」 犬養がこんなにもしおれている姿を見たのは…
三日ぶりの梅雨晴れの一日が終わろうとしていた。 秋臣はオフィスの大きなガラス窓から下…
もし結婚する前にあの写真を捨てていたら……。 秋臣は今まで何百回何千回悔やんだか知れな…
頭が割れそうに痛かった。こめかみがドクンドクンと脈を打つ。 秋臣の目に映っているのは、…
「僕の息子になってください」 見知らぬ中年男にいきなり意味不明のことを言われたというのに、目の前にいる若い男はさして驚いてもいないようだった。 ただ物憂げな半目(はんめ)を秋臣(あきおみ)に向けただけで、際立った美貌の面(おもて)には影すら射さない。 彼は向かい合ったテーブルに片肘をつき、完璧な曲線を描く頬を掌(てのひら)にのせた。 大きく深呼吸をした秋臣は両手を膝に置き、もう一度言った。 「僕の息子になってください」 二人はまだ互いに名乗り合ってもいない。そもそも初め