いよいよ芝居の幕が上がる
車は都会を抜け、海沿いの道にさしかかった。夏色に変わった空は指先まで青く染まりそうで、コバルトブルーの海と競うように輝いている。
「これ、飲んでいい?」
返事も待たずに叶人(かなと)は、カップホルダーに差し込んだ秋臣の飲みかけのペットボトルに手を伸ばして口をつけた。透明な液体がぐびぐびと音を立てながら喉に流れ込んでいく。
上下する喉仏を目の端にとらえていた秋臣は慌てて急ブレーキをかけた。信号が赤にかわったことに気づかなかったのだ。車は横断歩道の上に半分乗っている。見渡す