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教材編集がいちばん楽な科目は高校物理と思う話

私(中村)は,教材編集者としてのキャリアのスタートが高校物理担当で,現在も高校物理の仕事をしています。高校物理だけでなく高校化学や高校数学の仕事もしますし,会社員時代に小中学生向け教材の仕事をさせられたこともあります。

これらの経験から言えることは,
「教材編集でいちばん仕事が楽な科目は高校物理だと思う」
です。この意見の根拠を以下に書いていきます。

小中教材のように教科書の表記や配当漢字を気にしない

小学生向け教材や中学生向け教材では,学校の勉強のサポートのための教材が多く,教科書の表記が重視されます。そのため,以前書いたように,
「この用語は教科書5社のうち4社でしか扱われていないから,紙面で使わないように」
みたいなことも起こります。また,小学教材の場合,教材の対象学年より下の学年で習う漢字はそのまま使ってよく,対象学年で習う漢字はルビ(ふりがな)付きで使い,対象学年より上の学年で習う漢字はひらがなにする,というのが一般的です。

これに比べると,高校生向け教材は表記に関するルールがかなり少ないです。もちろん,高校教材でも教科書別ガイドのような教科書準拠教材がありますし,大学入学共通テストの予想問題では共通テストの表記に準じるのですが,表記に関する決まりは,これらと版元独自の表記ルールくらいかもしれません。

事実確認の資料が少なくてすむ

教材を制作するとき,重要なのが原稿の事実確認です。資料をもとに,内容が事実であるかをていねいに確認していく必要があります。

私は,弊社で高校物理と高校化学の教材編集担当です。化学では,さまざまな資料で内容を確認しながら仕事を進めます。化学にかぎらず,たいていの科目は確認のための資料をそろえないと仕事が進められません。地理・政治経済・現代社会は情報が毎年更新されるため,資料を毎年購入することになります。

一方,物理は計算すれば答えが出る問題がほとんどで,化学に比べると必要な知識量は半分以下と言っても過言ではないです。資料がまったくなくても,必要最低限の知識と紙とペンがあれば,たいていの原稿はチェックが可能です。

素材文や写真の使用許可をとることがほぼない

国語や英語では,教材で他の人が書いた文章(素材文)を扱う場合,著作権者から使用許可をとり,お金を払って掲載する必要があります。また,地理歴史や生物・地学では,紙面に写真が入ることが珍しくないです。この場合も,写真の著作権者から使用許可をとり,お金を払って掲載することがほとんどです。

一方,高校物理で素材文を使ったり,写真を扱ったりすることはほぼないです。たまに写真が入る場合がありますが,教科書や資料集を除けば,執筆者が自ら撮影した写真を使うことがほとんどで,そもそも使用許可や使用料が発生しません。

数学のようなメイン教科ではない

これまでに挙げた内容は,ほとんどが高校数学の教材にもあてはまります。では,高校数学も仕事が楽なのでしょうか。

高校数学教材の場合,理系の高校生だけを対象にしていればいい物理教材と違い,数学が得意でない高校生も含めて対象となるため,物理に比べてニーズが細かく,さまざまな教材が必要となります。

例えば,数学は大学受験教材だけでなく,学校の定期テスト対策教材のニーズも大きいです。数学と英語は学校での授業時間数が多く,数学と英語の成績がよくないと,勉強の悩みを抱えたまま高校生活をすごさないといけなくなります。それに,数学は学校推薦型選抜や総合型選抜(旧AO)で求められる評定平均への影響が,物理よりもずっと大きいです。

大学受験においても,物理が苦手ならば化学や生物などに科目変更をすればいいですが,国公立大を志望すると,文系学部志望であっても原則として大学入学共通テストで数学を受験しないといけません。

その昔,現役予備校で数学の講座企画と教材編集をしていたころ,高1~3すべてで学力レベルや志望系統に合わせてさまざまな講座を準備する必要がありました。また,先生方は授業時間を長くして時間をかけて教えたいと主張し,校舎責任者たちは授業時間を短めにして部活などで忙しい生徒も受講しやすいようにすべきと主張して,調整がかなり大変でした。当時,理科も担当していましたが,物理ではこんなことはなかったです。

高校数学の仕事は大変でしたが,とても有意義な経験でした。高校数学の仕事をしていた当時の経験が,高校物理の仕事をしていても役に立っています。

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