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予備校で教材編集者の役割を認識した話

現役予備校に就職した理由

以前書いたように,小中学生向け教材の仕事に嫌気がさして,転職先も決めずに東京の編集プロダクション(編プロ)を退職しました。半年間無職だった後,東京に本社のある現役予備校に就職しました。

現在,私(中村)は地元の大阪に戻っていますが,当時は神奈川県川崎市に住んでいました。編プロを退職後,すぐに転職先が決まるだろうとたかをくくっていたものの,内定を得た会社を事情があって入社辞退するなどしたため,4か月以上も無職の状態が続きました。

当時,私の子どもは川崎市の認可保育園に通っていました。当時の川崎市は保育園の待機児童数(認可保育園に入れない児童の人数)が日本有数だったこともあり,あるとき保育園側から,
「お父さんがこのまま無職だと,お子さんは退園してもらわないといけなくなります」
と通告されたのでした。とにかく就職しないといけない状況になり,求人を見かけた現役予備校にとりあえず就職したのでした。

出版業界と予備校業界の違いに戸惑う

就職した予備校では,本社社員として数学(+理科)の教材編集と講座企画を担当することになりました。予備校で働きはじめると,出版業界との違いに戸惑いました。予備校では,先生の原稿を紙面にすれば教材ができあがるという考え方で,そもそも編集者という役割の社員がいません。私が入社した直後の教材担当の仕事は,先生の原稿を正確に紙面で再現することでした。

しかし,これでは予備校のテキストではなく,先生個人のテキストになってしまいます。実際に入社直後,テキストの原稿を作った先生とは別の先生から電話がかかってきて,1時間くらい「数学のテキストの内容が悪い」との苦情を受けたことが,二度ありました。私が担当した教材ではないのにと思いながらも,必死で対応したものです。

ところで独立後,別の予備校から発行されていた漢字の問題集で,例文にセクハラになる内容がいくつも含まれるとしてニュースになりました。予備校業界では,職員が先生の原稿に口出しできない傾向にあり,このニュースを聞いたときも不思議ではなかったです。

制作体制の改善に取り組む

当時,数学以外の教科でもテキストの内容に対するトラブルがあったようで,テキストは一人の先生に丸投げするのではなく,複数の先生方で制作する方針になりました。ただ,複数の先生方が作成した原稿を寄せ集めただけのテキストになってはいけないので,私が担当したテキストでは一人の先生にテキストの原稿を全部作成してもらい,編集会議で別の先生方に原稿の偏りや足りないところをチェックしてもらいました。

また,私が担当する前は,先生には「テキストの原稿を作成してください」としか伝えていなく,テキストを作成する講座コンセプトなどの説明が一切なかったようでした。実際,話を聞くと,講座のコンセプトを十分に理解していなかった先生もいました。これでは,作成する先生によって原稿の難易度等に違いが出ます。そこで,原稿作成の依頼時に講座の方向性を説明し,講座に合うテキストを作成してもらうようにしました。

あと,私は数学だけでなく理科も担当していて,入社直後に物理の先生方が集まる教科会議に出ました。そのとき,
「3年前から,テキストの『起電力』が『超電力』と間違ったままになっている」
との苦情を受けました。そこで,ミスを翌年に繰り越さないように,訂正原本(訂正事項を書き込むための予備の本)を作りました。このほかにも,いろいろと制作体制を整備していきました。

編集者の役割を認識する

教材編集者としての経験をもとに,テキストやテストなどの制作体制を改善していったところ,少しずつ成果が出ました。すると,他の社員や先生方には「先生の原稿をそのまま紙面にすれば,教材ができあがる」のではなく,編集者の役割を少しずつ理解してもらえるようになったのでした。

私自身,教材編集者は必要と思っていたものの,予備校に転職するまでは教材編集者の役割についてあいまいでした。それが予備校で教材編集の仕事をしているうちに,役割を認識することができました。

独立後も,「先生の原稿をそのまま紙面にすれば,教材ができあがる」と考える取引先がありました。このような取引先とのやりとりも,予備校にいた当時の経験がものすごく役に立っています。

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