隙間がないとダメなんだって。
小さく聞こえる高い音が気になって仕方がなかった。
演奏会で音が合わないと気持ちが悪くて変な感じがした。
手に持ったら案外重くて驚いた。
キラキラ光る三角形の楽器はどこか切なげな色をしていて、どうして隙間があるのだろうと思っていた。
銀色のところを握って叩けばただの金属音。
紐を持って始めて楽器になることを知った。
隙間があるから鳴ると知ったのは小学生になってからだった。
休み時間にこもっていた音楽室。
あまり綺麗とは言えない楽器庫。
放課後のグランドピアノ。
マーチング部のスネアが聞こえる。
ピアノに走る指はパッヘルベルのカノン。
楽器庫にいる先生がスレイベルのダンボールでも動かしたのだろうか。
シャンシャンと爽やかな風が吹き込む。
「せんせ、楽器庫入っていい?」
取り出した三角形の楽器から星空を思わせる音が響く。
隙間材を外さなければこんな音は出ない。
完璧な三角形では無い方が綺麗なんだ。
そう思ったら少し安心した。
ダンボールの中から歪んだ三角形が顔を覗かせる。
それ去年、誰かが落として曲がっちゃったの。
変な形でしょ?
くすくすと笑いながら話す先生に、
「ね、」
と答える。
水色の空に水玉模様みたいな雲。
不恰好な三角形を透して見る。
取り付けられた紐をもって、ビーターで軽く叩くと星空とは違う、どこかマヌケな音がして…
「せんせ、このコだけとっても個性的」
そう言いながら私は手の中のトライアングルを見つめた。
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