【私小説23】男と女

私の父と母は特に仲が悪い方でもなかったと思うが、揉める時は私や姉の前でも平気で夫婦喧嘩を開始する本能的な人物である。
子供の頃の私には結構堪えるものがあった。
父は腹を立てると口を利かなくなるタイプの人間なのでそれがとても辛かった。
母はどんな気持ちだったんだろうか。
母の両親は早くに死んだので母には実家がなかったし、例えあったとしても子供が２人もいて簡単に帰れる状況ではない中で夫が口を利かなくなったら。
でも専業主婦だし、その夫の稼ぎで生活しているという事実が重く感じたり、出て行けと一言言われたら路頭に迷ってしまう事。
実際には出て行けなんて言われなかったにしても、もし言われたらどうしようとか、そういう不安はあったのではないかな、と今でも思う。
当時だって子供心に本当は母だって一人で逃げ出したいのではないかな。
もし母が私を置いて出て行ってしまったらどうしよう、そう思うと不安だった。
母があまり幸せそうじゃなかったのが一番辛かった。