御堂狂四郎、強敵達への宣戦布告

 絵描君、やはり来たね。
 ここでこんな形で再会するなんて、やはり僕らは生まれついての敵同士、どうやったって戦う運命にあるらしいな。
 
 まったく不思議な話だと思わないか。
 だって、考えてみてごらんよ。僕と君に、何の違いがある?同じような町に住み、同じような物を食べて、同じような服を着て、同じような恋をし、同じような事をしてる。本当なら、そんな人同士は、友達や仲間同士になると思うんだ。

 ところが、僕らはそうはならなかった。互いを意識し、水面下で批判し合った。手を取り合おうだなんて考えもしなかっただろう。これは本当に、不思議な話だと思わないか。

 僕はね、実際、君を敵だと思っているよ。
 なぜかって?それはね、君のやっている事が、僕には全て嘘っぱちに見えるからさ。君もそうだろう?

 人はみんな、自分の事を信じているよね。いや、性格や理屈の事じゃなくて、アートの事さ。それを違うと言うなら、僕は君を許さない。信じていると信じているからこそ、僕は君を敵視していられるんだから。そうじゃないなら、とっくに君の事なんか、ただの人だとケリを付けていた所だよ。

 君は自分のアートを信じているよね。いると仮定して進めるよ。僕も信じてる。百の人が居れば、百通りのアートが有るってもんだ。それは神よりも、味覚よりも、親子の愛情よりも限定的な感覚だと思わないか。
 誰にも分かりっこないし、分かったと言った所で解答用紙も答え合わせも採点も無い。有識者とかいう人種が、辞書みたいな厚みの落書き帳にあれこれ書いたりしてるけど、あんなもんは紙クズ同然じゃないか。誰一人として人のアートを分かったなんて言えないんだよ。言うやつは、何でも解答が有ると思ってるバカじゃないのか?

 アートは人それぞれが自分の国を持ってて、全てが鎖国同然の政策を行っているのと同じ事だ。誰も受け入れず、時には受け入れたフリをして、或いはコレだけはと受け入れて、見せず欺き、都合の良い情報だけを流布し、武装し、島国のグルリを神経で編んだ城壁で堅めてるわけさ。
 そして僕らは、それを遠くから見つめているに過ぎない。中なんて見えないし、仮に見えたとしてもそれは本当の中じゃない。地球の表面しか知らない僕達が、地球の核の硬さについて語れるかい?それをどう言葉で表現する?しようとはしてみるけどね。

 僕はこうした情けない事実を認めるよ。これが発展途上に欠かせな経済成長だとしてもね。でも本当だと思わないか?

 いや、君は思っていないかもしれないな。
 だって君は、誰の事も良いと言い、個性だ個性だと全てを肯定し、仲良しごっこ中毒になって、芸術をサークル活動かなんかと勘違いしているんだからな。本心は金庫にでもしまってあるのかい?
 もちろん、君の国では合法の活動なんだろう。しかし、僕の国でそれは御法度だ。警官がアルバイトをするのと同じだ。だから、僕は君と戦うんだ。君も僕と戦わなきゃならない。悲しい事だよな。
 僕も、君がどれだけ自分のアートの為に命を燃やしているかは知っている。そんな君を、僕の国の法律が許さないからと憎まなければならないのは残念な事でもあるんだよ。

 僕を無視するかい?人を使って身を守るかい?
 そんな事ができるなら、君はもう芸術家じゃない。君は自分の国を守る為に、抜きたくない刀を抜かなければならないんだ。
 
 君が勝つのは分かっているよ。僕なんて武器もなければ飯も無い。空腹で素手の凡人が、レーザー銃を持った天才さんに勝てると思うかい?
 でも、僕はやるよ。仲良しごっこで自分のアートをお花畑にしてしまうぐらいなら、君に撃たれたチリになった方がいくらかマシなんだ。
 なぜかって?戦争が起こると、焼け野原にビルが立つと言うじゃないか。

 君が僕の挑戦を受けた時、僕らはようやく本当の話ができると思うんだ。

 バンドちゃん、あれから色々有ったけど、どうしても僕は君と戦わなくてはならないらしい。
 僕の挑戦を受けてもらおう。

 君はどうして、そうバカなの。
 僕はね、何度も何度も、君を理解しようとした。けど、どうしたって無理だったんだ。僕は、音楽を愛している。一番好きなアートだと言っても過言ではないんだ。
 その音楽をやってる君を、どうして僕は理解できないんだろうと、自分でも分からないんだよ。

 僕は君を見ると、女ってのはヘドが出る生き物だなと錯覚してしまう。実はそうじゃない事は、重々承知してる。
 女は美しく柔らかい存在だ。君には分からないだろうけど、男にとって女ってのは、美しくて柔らかいモノなんだよ。バカだと思うだろうな。けど、君だって男は基本的にカッコよくて硬い方が良いだろう?

 君は目立ちたがりで、自分を売り込む事に命をかけている。バカだ。その為に音楽を利用し、変わった人間のフリをして、股を開き、酒を飲み、バカに磨きをかけているが、その研いだ刃で切れるのは自分の卒業アルバムだけだという事を知っているかい?
 君はいつか、ババアになる。若さをバカに費やす事は心地良いかもしれないが、ババアになった時に恥を知らないのは、あまりにひどい話だ。昨今、そうした事も認められるようになってはきているけど、僕の大好きな音楽に触れた人間がそうなる事は、音楽の価値を昭和後期の『バカがやるもの』にまで堕としてしまう気がしてならない。

 どうも、僕は君のような人間が嫌いだ。
 そもそも、君がしたい事はバカになる事なんじゃないか?バンドなんてやめて、クラブで酒飲んでラリって踊ってれば良いんじゃないか?カッコ良くて硬い男はワンサカいるだろうし、君は引くて数多だと思うよ。ちがうかい?
 
 僕をギターでぶん殴ってくるなら、こちらも同じ方法でいかせてもらう。男女差別ナシだ。白いベースで来るなら、少し君を見直すよ。

 小説家君、君はまだいるのかい?
 僕は残念ながら君の仲間にはなれそうにない。せっかく声をかけてくれたけど、やはり僕は一人で大勢と戦う方が向いてるみたいなんだ。

 ところで、君は相も変わらずイカれたコピー機みたいに誰かと同じ内容の文章を間違えて複製してるみたいだけど、それをオリジナルだと言い張る君の頭の中を是非見せて欲しいんだ。

 文言を変えれば内容が変わると思ってるなら、君は詐欺師の素質が有る。悪事の才能を知っているかい?どえらいテロや殺人の手口は、少し利口な人なら思いつくだろう。けどね、悪事を悪事と思わない事、こればっかりは努力では会得できない才能だ。君にそんな才能が有ったとしたら、僕は羨ましくてたまらないよ。

 僕は君との戦いに負けた時、詐欺師になってしまうと思うんだ。仲間と手を取り合って、連合国を作り、ぬくぬくとしたこたつで平和な小説を書くよ。傷を舐め合い、讃え合い、楽しいだろうな。
 それぐらいの事、僕ができないと思っていたかい?

 

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