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魔女とカラスとトイプードル

代々木公園は野鳥が多い。
鳩、カラスといった野鳥がとにかく多い。
鳥が苦手な私にとって、代々木公園へ入るときは、お化け屋敷へ入るときとちょっと似た覚悟で入る。
告知無しで突然羽ばたく鳥と、告知無しで井戸などから突然出てくるお化けへのビックリ度合いがほぼ同じだからだ。



『鳥の何が怖いのか?』とよく聞かれる。
鳥が特に悪さしないということは重々承知している。
なのだが、いつ羽ばたくか分からないあの緊張感が、とにかく苦手なのだ!
『鳥にとったら、あんたのほうがよっぽど怖いよ。』
これもよく言われる。
どっちにとってはどっちのほうが怖いとかいう、実際誰にも分からない話はもうナシにしよう。
鳥サイドだって私サイドだって、『いや絶対私(俺)の方が怖がってるね!!』って言いたいはず。
ここは、フェアにいこう。
(でもこれだけは言わせてもらうが、私は突然羽ばたいたり突然井戸から出てきて脅かしたりしない。)

それでも代々木公園のドッグランは犬たちが多いし、定期的に楽しいイベントもやっているし、広くて歩きがいがありすぎるので、大変お気に入りである。

ある日の代々木公園散歩中。
それはもう黒々とした大量のカラスたちがタムロしている、魔女の村みたいな道を通らなければいけなくなった。
心底怖かったが、わざわざ「カラスがいるからあっちの道を通ろう」と提案するほどのことではないので、我慢した。
私はそんな提案ができるほど、”面倒臭い”と思われても大丈夫な性格ではない。

ついに魔女の村に恐る恐る足を踏み入れた。
夫とぷんたはカラスのことなど見えていないかの様子で、いつも通り歩いている。
す、すごい・・・。
こんなに近くて、デカくて、黒くて、たくさんいるのに・・・。
私は四方八方ビクビクしながら、なるべくカラスを気にしないように意識して歩いた。




すると、近くにいた1羽のカラスがやっぱり突然羽ばたいて、私は思わず「うわっ怖い!」と声を上げた。すると、

「怖くないわよ!」

隣から声がした。
確実に私の「うわっ怖い!」へのレスだと思ったので、声のしたほうを見た。
そこには、トイプードルをバギーに乗せ、黒と紫でコーディネートを組んだ白髪のお婆さんがいた。


「あ、すみません!わんちゃんじゃなくて、カラスが怖かったんです!」

私はレスを返した。
お婆さんのトイプードルのことを怖いと言ったと勘違いさせてしまったんじゃないかと思った。
トイプードルを怖がるわけないじゃないですか。
トイプードルだったら、突然井戸から出てきてほしいですよ。

「カラス!?カラスなんて、犬より怖くないわよ!カラスは優しいわよ〜。」

ここからお婆さんとの会話が始まった。
どうも昔から鳥が苦手だということを話すと、お婆さんはカラスとの不思議な思い出を話してくれた。

お婆さんは昔、弱っていたカラスを助けたことがあるらしい。
現場は丁度代々木公園。
家に連れて帰り、お世話をしたそうだ。
カラスはそれはもうお婆さんに懐いたらしい。
お婆さんの愛情でみるみる回復を遂げたカラスは、立派に1人で羽ばたけるようになった。
家の前でお別れを告げて、自然へと帰っていったそう。

「すごいですね。カラスは人に懐くって本当なんですね。」
「本当よ。とっても優しいのよ、カラスは。」
「へえ〜・・・」
「その後どうなったと思う?そのカラスね、次の日、お母さんカラスを連れてウチにお礼を言いに帰ってきたのよ。」

す、すげ〜・・・
すげーけど、なんだろう、この、何回か聞いたことある感は。
いや、やめろ!こんなこと今考えるな、私。

「すごいですね!カラスって、頭良いんですね。ちゃんと覚えてるんですね。」
「そうよ。だからカラスは怖くないのよ。」

そう言ってお婆さんは、カラスを怖がる私に、カラスの聡明さと優しさを教えてくれ、
何羽ものカラスで溢れかえるこの道を真っ直ぐと、トイプードルの座るバギーを押して帰っていった。
ここはやっぱり魔女の村だったんだ。


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