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若い頃に才能を絶賛されると何が起きる?ーー「天才だ」と認識されて苦労した人の話

「私にはなんの才能もなくて」
「うちの子は平凡なんです」

などなど、「才能」がないことを嘆く人、少なくありません。
でもでも、本当にそうでしょうか?

今日は自分に才能がないことにガッカリしている人に送る、生きづらい「天才たち」の話です。

若い頃に才能を絶賛されると何が起きる?

1800年代に活躍した作曲家・ブラームスは20歳のとき、作曲家で音楽批評家のロベルト・シューマンに、「天才だ」と大絶賛されます。

シューマンは、自分の主宰する音楽雑誌に「新しき道」というエッセイを書いたんです。

非常に有名なので、長く引用してみます。

私は考えた、こういう選ばれた人たちの道を熱心に追求してゆくと、どうしても、こんな前駆者の後から、今に時代の最高の表現を理想的に述べる使命をもった人、しかも段々と脱皮していって大家になってゆく人でなく、ちょうどクロニオンの頭から飛び出したときから完全に武装していたミネルヴァのような人が、忽然として、出現するだろう。また出現しなくてはならないはずだと。すると、果して、彼はきた。嬰児の時から、優雅の女神と英雄に見守られてきた若者が。その名は、ヨハンネス・ブラームスといって、ハンブルクの生れで、そこで人知れず静かに創作していたが、幸いにも教師にその人を得、熱心にその蘊蓄を傾けてもらったおかげで、芸術の最も困難な作法を修めたすえ、さる高く尊敬されている有名な大家の紹介によって、先日私のところにきたのである。彼は誠に立派な風貌を持っていて、みるからに、これこそ召された人だと肯かせる人だった。ピアノに坐ると、さっそくふしぎな国の扉を開き始めたが、私たちはいでてますますふしぎな魔力の冴えに、すっかりひきずりこまれてしまった。彼の演奏ぶりは全く天才的で、悲しみと喜びの声を縦横に交錯させて、ピアノをオーケストラのようにひきこなした。

シューマン,吉田 秀和. 音楽と音楽家 (Japanese Edition) (p.199). Kindle 版. 

すごい褒めっぷりです!

しかし、この雑誌を、友人の家で何気なく読み始めたブラームスは、途中で、自分のことを書いた記事なのだと気づき、ショックを受けたと言われます。

さらに有名演奏家たち(クララ・シューマンやヴァイオリニストのヨゼフ・ヨアキム)は、「ベートーベンの後継者だ」と期待します。

これが大変な重荷になるのです。全く無名なのに突如として、「音楽界の救世主らしいぞ」と、注目と好奇心の的になってしまったのです。

肝心のシューマンはすぐ後に自殺未遂し、精神病院に入院してしまいます。

「天才」が「天才であり続ける」ためにどうしたらいいのか

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