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#53 「日本の消費者は大変」と、日本に移住したマレーシア人が言ったワケ

こんにちは!

日本に移住したマレーシア人ブロガーが「日本人の友達がいつも『お金がない』って言う気持ちがよくわかった」と言うのです。

物価が高い、という意味ではないようです。
「日本はマーケティングが完璧すぎて消費者は大変だ」って言うのです。借金してしまう意味がわかる、と。

溢れる魅力的な「限定商品」「コラボ商品」。
今買わないとなくなる!という心理でつい買ってしまう。
ポイントカードの山を見て、「あ、もう一度あのお店行かなきゃ」と焦る。

マレーシアから遊びに行ってたときは気づかなかったけど、住んでみたら、常に心理戦を戦っている感じなんだそう。

私も東京にいた時は、なぜか出ていくお金に悩まされていました。よく考えたら、自分が欲しいものを微妙に刷り込まれていた気がします。

電車の広告を見て「あ、ビール飲みたいな」、ハワイの写真を見て、「あ、ハワイもいいなぁ」、温泉見ては「あ、温泉行かなくちゃ」、脱毛の広告を見ては「やっぱり脱毛しないと恥ずかしいのかな」なんて思考をコントロールされてました。

よく、節約の本などで「大したもの買ってないのに、お金がなくなっちゃう」っていう人がいますが、あんな感じです。

マーケティングのゆるいマレーシアで感じたこと

実はその逆を私はマレーシアで感じています。

都市に住んでいても、電車でも街でも、目に入る広告の数が少ないです。もちろん、マレーシアだって広告はありますし、モノは豊かになりつつありますから、欲望を掻き立てられることもある。

しかし、やっぱり日本ほどではないんですね。

よく、日本のマーケターの方から「マレーシアで国民的に大流行しているものはなんですか」「みんなが見ているのはなんですか」と聞かれるのですが、これ、お答えするの難しい。

マレー人はマレー語の媒体を、華人は中国語の媒体を、インド系の方はヒンズー語やタミル語の媒体をそれぞれ見たりします。その上、さらに英語の媒体を見ている人もいます。

テレビも新聞もラジオもネットも言語ごとにそれぞれバラバラです。この国で、「全体を把握しよう」と思うと難しい。
マーケティングが難しい国と言われるのはその辺りです。

人種ごとに人の行動がバラバラで、「持ってないと恥ずかしい」みたいな価値観が少ないのもあるかもです。

特に酒類の広告は規制が厳しくて、ほぼ見ません。
昔は、会社から帰る頃、電車でビールの広告を見ては、「あー、飲みたいな」って思ってたのですが、すっかり飲まなくなりました。

「限定商品」「今だけお得商品」も少ない気がします。スーパーのタイムセールもないです。

売る気、あるのかな?って感じ。

「持ってないと恥ずかしい」とか「今買わないとなくなる」みたいな思考にモヤモヤと「脳がハックされてる」感じが少なくて、多少はラクなんですね。

日本で借金に苦しんでた人が、海外の田舎に住んで、浪費癖が直った例も知っています。ただ、「ここにはかわいいものが全然ない!」「お買い物が楽しくない!」と最初は逆の意味でのストレスが半端なかったようです。

自分の気持ちですらコントロールされている?

看板がマレー語で意味が分からないからなのかな?と思っていたのですが、日本語のわからないマレーシア人が欲しいものに苦しむほどなので、日本のマーケティングは本当によく練られているのだと思います。

私もマーケティングをやっていましたが、どうやったら買ってもらえるかを考える仕事でした。

しかしこれは、消費者からすると、心理学を駆使した完璧なマーケティングが溢れていて、いつも心が試されてる感じなんですよね。
心理学を駆使した「上手すぎるマーケティング」にはなかなか太刀打ちできません。先進国はどこも同じかもですが。

認知科学者の苫米地英人さんは「『頭のゴミ』を捨てれば、脳は一瞬で目覚める!」という本の中で、「『ハワイで過ごす自由』の不自由」を書いています。

「起業したい」とか、「1年の半分を日本で働いて、残りの半分をハワイでゆったり過ごす!」といった理想のイメージですら、メディアの影響を受けているかも、と指摘しています。

逆に、「満員電車で会社に行っている人にも真に自由な人はいます。」というのです。

人が思い込みから自由になるのは難しく、まず子供は親の言葉によって価値観を刷り込まれます。その後も、メディアや他人の言葉から刷り込みを受けています。

もはや「自分の気持ち」すらハッキングされてるのかもしれません。

盛んになる脳のハッキングから逃れるには?

この脳のハッキング、AIが支配する未来にはもっと盛んになると言われています。

例えば、マレーシアではWazeというアプリで車を運転するのが普通です。
交通量や事故、気象条件などをリアルタイムに判断して、もっとも早くたどり着ける経路を教えてくれるんですね。

私は、ときどきこのナビに従っていて、「あれ、こっちの道の方が近いのに」って思ったりします。

ところが、自分に従うと、その道路で交通事故が起きてて「あ、ナビの方が情報が速いんだな……」って思ったりします。
以来、自分で考えるのをやめてナビに従う癖がついてしまいました。

アマゾンの「おすすめ」も同様で、次々に私の読みたそうな本を紹介してくると、ついおすすめに従って買ってしまいます。

こうして、脳は見事にハッキングされてるわけですね。

イスラエルの歴史学者である、ユヴァル・ノア・ハラリさんは、「AIの方が自分のことを知っているのは当然だ」と言ってます。

たいていの人は自分がほとんどわかっていないので、「自分に耳を傾け」ようとすると、簡単に外部からの操作の餌食にされてしまう。頭の中で聞こえる声は、信頼できるものだったためしがない。なぜならその声は必ず、生化学的なバグは言うまでもなく、国家のプロパガンダや、イデオロギーによる洗脳や、商業広告を反映しているからだ。
(中略)
バイオテクノロジーと機械学習が進歩するにつれ、人々の最も深い情動や欲望を操作しやすくなるので、ただ自分の心に従うのは、いっそう危険になる。コカ・コーラやアマゾン、百度、政府が、あなたの心や脳の操作の仕方を知ったとき、あなたは依然として、自己と、企業や政府のマーケティングの専門家との区別がつくだろうか?

「21 LESSONS 21世紀の人類のための21の思考」(ユヴァル・ノア・ハラリ)より

彼は自分がゲイだと気づいたのは20歳過ぎてからなんだそう。
将来、AIが本人の生体反応と視線などのデータで判断すれば、簡単に「君はゲイだよ。こんな音楽が好きかもね」とか、教えてくれるそうです。

そんな感じで、「自分のことすら、AIの方がよく知っている」という具合です。
では、どうしたらいいのか。彼は「ほとんど打つ手がない」と言いつつ、こう書いています。

「多少の支配権を維持したければ、アルゴリズムよりも先回りし、アマゾンや政府よりも先回りし、彼らよりも前に自分自身を知っておかなければならない。先回りするときには、荷物をたくさん抱えていかない方がいい。」

どうやら、自分を「空っぽにすること」はとても難しく、将来はさらに難しくなるようです。

話がずれました。そんなわけで、日本にいようが海外にいようが、広告の届かない山奥にでも住まない限り、いずれにしてもハッキングから抜け出すのは大変な時代が来そうです。

ちなみに、この「21 Lessons」も私のアマゾンのお勧めに出てきました。

私もしっかりハッキングされてるんだと思います。

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