教育を個別最適なものにするには、学歴社会とその先にある契約社員と正社員と株主という、日本の資本主義社会の搾取関係を縮小する必要があると思う。

 教育システムを個別最適にするということは、学力の伸びや学ぶ分野の凸凹を許容することだと思う。現状のまま個別最適な教育をすると、高校受験、大学受験で、学んでない範囲やレベルの問題が出て困る子どもが続出するような未来が想像できる。

 そう考えると、私が今まで経験してきた、高校受験、大学受験、その先に就職活動での学歴差別があり、さらにその先に資本主義経済の中で、契約社員という搾取される立場、正社員という搾取システムの構築と運用をする立場、株主として利益を受け取る立場へと分かれていく社会を縮小する必要があると思う。(それ以外の立場は後述する。)

 私が学校で子どもたちに教えていたとき、勉強が得意な子も苦手な子もいた。

 まず前提として、勉強が苦手なことは、環境的な要因や努力も影響はあるが、生来持っている記憶力や情報処理能力が大きく影響している。ゆえに、学力の差は努力不足、自己責任という論調があるが、保護者や教員が時間をかけ、本人も努力し、それでも勉強が苦手な子を見てきた私としては、先天的な影響が大きいと考えている。

 勉強が得意な子を見たとき、私はその子が将来、正社員になって、年功序列、終身雇用、手厚い福利厚生を受けて、会社という仕組みを作り運用する側になっていく未来を想像した。なぜなら、私自身が、一度は会社の正社員になって、その立場を経験たからだ。

 勉強が苦手な子を見たとき、私はその子が将来、契約社員として長期間低賃金で働く未来を想像した。なぜなら、身近な人が、そういう生き方をしているのを見てきたから。(もちろん、契約社員でも給与の高い人もいるが、正社員と比べて相対的に平均して年収は低くなる。)

 そして、正社員と契約社員の上記の関係に加え、更に、実は株主がその正社員と契約社員が働いて得た利益を配当などで受け取っている。実際に私が以前勤めた会社の株主に海外資本家がいた。海外の株主はただ株を所有することで、日本で正社員と契約社員が働いて得た利益を受け取ることができる。海外資本家の方も初めは苦労して商品やサービスを生み出して財を成したかもしれないが、一旦財を成せば資本主義や株式市場という仕組みを使うことで働かずともお金を稼ぐことができる。

 そして、そもそもこの資本主義は経済成長を前提とした仕組みのため、人口減少している日本ではこの仕組みで経済活動をすることが年々厳しくなることが予想されると共に、地球規模で考えても人的物的資源に限りがあるため、資本主義社会はいつか限界がくると思っている。

 話を子どもの個別最適な学びの実現に戻すと、この社会に子どもたちが出ていくのなら、学歴がある程度ないと、契約社員になる可能性が高くなるから、正社員側に入る可能性を与えるために一斉授業で詰め込み教育をせざるを得ないように感じた。個別最適な学習を認めるということは、全員が同じ範囲、到達度まで教えなくてもよいということで、人間の本来の性質的にはそれでよいのだが、その先に生涯年収が左右される受験、就職、働き方が待っている中で、個別最適な学びをすることは困難だ。

 この資本主義経済の歯車と別枠の仕事があり、農業、林業、漁業、酪農業などの第一次産業、株式上場していない中小企業や個人事業主、資格を必要とする専門職などである。そこにも、食料自給率が低いとか、大企業から下請けの中小企業への中抜きなど、制度的、構造的な課題があると感じている。

 今までの価値観(良い大学に入り、良い会社に入り、正社員になることが正)から、それもあっても良いけど、それ以外の生き方、第一次産業や中小企業や個人事業主が生み出したものを流通させながら、共同体の中でどう豊かに暮らしていくかということを、制度と価値観の両面から後押しし、学力の差に関係なくそれぞれが自分の能力を伸ばし発揮できる希望が持てたときに、やっと個別最適な学びを学校で行うことができると私は考えている。

 子どもたち全員が、勉強が得意な子も苦手な子も、それぞれの特性を生かして幸せに暮らせる社会にしたい。

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