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#1「総ぐるみ」の学校経営で 「誰一人取り残さない」学校をつくる|校長の挑戦

新連載、「校長の挑戦」。いろいろなしがらみのなか、積極果敢にさまざまな挑戦をしている全国の校長先生への取材を一人ずつ掲載します。一人目は、横浜市立鴨居中学校長の齋藤浩司先生です。

齋藤先生写真2

プロフィール
1985年横浜市立中学校で国語科で採用。末吉中、市場中、西谷中にて教壇に立つ。その間12年間、生徒指導専任教諭を務める。共進中で副校長を務めたあと、2014年より横浜市教育委員会勤務、2018年より現職。横浜市教育研究会視聴覚・情報教育部会長を務めるなどICTを活用した授業改善、働き方改革に取り組んでいる。令和元〜2年、経産省「未来の教室」実証事業校として、「個別最適化による不登校生徒学習支援」をテーマに取り組み発信を重ねた。柔道四段。味噌・醤油・生ハムづくりが趣味。 

【齋藤校長の挑戦】
① 学校外での民間研修を通じた教員の意識改革
② ICTを駆使した業務の効率化と働き方改革
③ 個に応じた学びによる「誰一人取り残さない」学校づくり

■学校が抱える課題は、学校だけでは解決できない

 現任校に校長として赴任する前、私は横浜市教育委員会で4年間、指導主事をしていました。担当していたのは、青葉区・都筑区・港北区・緑区の4区で、保護者の平均年齢が若く、教育熱心な人たちの多い地域でした。そのため、保護者の学校教育に対する期待は大きく、やりやすい一面がある一方で、大変さも少なからず抱えていました。
 指導主事になったときから、いずれは校長になることを見据えながら、学校の支援に従事してきました。当時の主な仕事は、学校経営に対する諸々のサポート、いじめ対応におけるアドバイス等です。多くの学校を回るなかで感じたのは、学校教育が抱える諸課題に学校だけで対応するのは限界があるということです。新学習指導要領の理念の具現化にしても、働き方改革にしても、教職員の育成にしても、学校が単独で担うのは無理があるのではないか――指導主事として学校を見て回るなかで、そんなことを感じていました。
 また、これまでの教職人生を通じて、あまりの多忙さから心身のバランスを崩し、リタイアする教員も数多く見てきました。ICTを活用したり外部に委託したりすれば、少しは負担軽減になるかもしれない。そこへ一歩踏み込む余裕もなく、日々の荒波にもまれ続けているのです。そのしわ寄せが子どもたちに来ているような印象がありました。
 そのため、学校のあり方を変えていく必要性を認識していましたが、それが一筋縄ではいかないことも、指導主事の仕事を通じて感じていました。しかし、学校として、変化をいとわない姿勢のなかに、時代を先取した取組もありましたし、地道なボトムアップ型の育成を経て変化する学校もありました。
 また、何かを変えるとき、地域・保護者との連携や、委員会との折衝・調整の具体を校長自ら教えていただいたこともありました。変わらない努力を続ける大切さ、変えようとするマインドをもつことについてのイメージが、4年間の学校支援のなかで蓄積されたのです。
 そうした問題意識を持ちながら、2018年4月に横浜市立鴨居中学校の校長に着任しました。学校の第一印象は、教員が非常に実直で、何事にも地道に取り組むということです。学習指導や生徒指導、保護者対応などにも熱心に向き合いますし、書類の書き方なども丁寧で、目立たないところでもきちんと仕事をする職人気質がありました。また、ICTの活用も、横浜市の他の学校より進んでいました。
 各家庭の状況も安定していて、たとえば手づくり弁当の比率が99%にのぼるほどでしたし、地域コミュニティもしっかりしていてシニアの結束力も高いです。
 つまり、学校・家庭・地域それぞれの基盤が整っていて、新しいことに取り組むための「土台」ができていたのです。これは私自身が抱いていた問題意識のもとで改革を進めていく大きなチャンスだと思いました。

■校外へ出向いての「民間研修」

 改革を進めるうえで最初に悩んだのは、「組織」を変えるか、「意識」を変えるかです。ドラスティックに改革を進めるなら「組織」を変えるという手もありますが、すでに固まっている年間指導計画や校務分掌を変えることには、多くの教員が抵抗感を持つに違いないと考え、1年目は「意識」を変えることを優先しました。
 最初に打った手の一つが、学校の外へ出向いての「民間研修」です。企業等の第一線で仕事をする人たちと交流することで、教員の仕事に対する考え方・視野の持ち方を変えられるのではないかと考えました。
 ちょうどかつての教え子が経営コンサルタントをしていたので連絡をとったところ、「適任者がいる」とのことで、個人建築事務所の「見える化」を企画創業する坂井裕之氏を紹介してくれました。坂井氏にご来校いただいて、学校の状況とやりたいことなどを伝えました。その結果、「働き方改革」につながる業務改善を目標に据えて、研修先や内容をコーディネートしてくれることになりました。
 7月、最初に訪れたのは、GoogleJapan本社です。参加したのは20~30代の教員5名。「オフィス環境と働き方について考える」というテーマで、職場環境や会議の持ち方などを学びました。原則30 分で終わらせる会議、無駄な物のないオフィス、スマートな仕事の進め方など、参加した教員は大いに刺激を受けていました。
 また、1~3月には株式会社スマイルズを2回にわたって訪ね、人事部長(当時)の田原研児氏から、「どのようにして新しいことに挑戦するか」「リーダーとしての心構え」をテーマに、講話をしていただきました。さらには、株式会社サンケイエンジニアリングを訪れ、笠原久芳社長から「セルフマネジメント」をテーマに講話をしていただきました。
 2年目以降は児童養護施設、N高等学校、NTT先端技術総合研究所などを訪ねました。研修先で対応してくれた方々の多くは、30代後半のいわゆる「子育て世代」であり、教育に高い関心を持っています。研修後に行った懇親会では、学校教育をテーマに会話が大いに弾みました。20代の若手教員が、臆することなく教育者としてアドバイスを送る姿は、私にとって新鮮でした。
 こうした交流を通じて私が感じたのは、学校がハブとなって、民間企業や地域社会などをつなげていけるのではないかということです。学校の教員は、外部の人に対してどこか構えてしまうところがありますが、私自身も含め、フラットな関係性が築けるという手応えを得られたのは貴重な経験でした。
 こうした民間研修を通じて、参加した教員たちの働き方が変わっていきました。まず、受け持った業務への取組が変わりました。Todoリストを作成し、進捗を管理し「見える化」をするようになりました。報告・連絡・相談が明確で、前向きな意欲が随所に感じられるようになりました。
 研修に参加した教員には、学んだことや感じたことをレポートに書いてもらい、それを全教員に配付しました。また、職員会議の場でも、1人につき1分程度の話をしてもらいました。民間研修に参加しなかった中堅・ベテラン層も、もともと働き方改革の方向性には賛同していたので、そうした情報共有はよい影響を与えました。その結果、会議も時間を決めて開催して、1時間程度で収まるようになりました。業務の無駄が減ってスリム化が図られたのです。1年目が終わる頃には、教員の意識が同じベクトルを向いたという手応えが得られるようになりました。

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■「働き方改革」に向けた校務のICT化

 働き方改革に向けて推進したもう一つの取り組みが、校務のICT化です。まず、赴任直後の4月下旬に、「ミライム」というグループウェアを導入し、各種書類をデジタル化して、職員間の情報共有を行うようにしました。
 とはいえ、すぐにすべてをペーパーレス化したわけではありません。教員のなかにはICTが苦手な人もいますし、日々の仕事ぶりを見ていると、紙で出力して大事なところに線を引くなどしている人も数多くいました。そのような実情を踏まえ、ICT化は少しずつ、無理のないかたちで進めていきました。やがていつの間にか、大半の書類が「ミライム」でデジタル化されていったような感じです。
 本校では以前から毎月、行事や取り組みに関する職員アンケートを実施していました。入学式や対面式等が終わった後には、「指示が曖昧だった」「時間を短縮した方がよい」などの感想や課題などを無記名で記入し、それを全体で共有して、次年度の業務改善につなげていました。いわゆるカリキュラム・マネジメントの一環ですが、このアンケートもデジタル化したことで、瞬時に集計・集約・アーカイブ化され、効率化が図られました。また、教員が作成する提案書類も以前は書式がバラバラでしたが、字の大きさ、項の立て方、保存・格納場所などを統一することで、効率的に校務を遂行できるようにしました。
 2年目には、自動採点システム「ABC(Answer Box Creator)」を試験的に導入しました。紙の答案をスキャニングしてPDF化し、その後の採点をパソコン上で行うというシステムです。採点だけでなく、点数の集計なども自動でされるため、従来の3分の1くらいの時間で採点作業が終わります。導入当初は4人程度しか使っていませんでしたが、その便利さが口コミで伝わり、1年後には20人くらいが使うようになりました。
 さらには、市教委との共同研究で、家庭と学校との情報共有システム「COCOO」も試験的に導入しました。保護者が携帯電話から専用ダイヤルに電話し、番号をプッシュして欠席・遅刻などを連絡できるシステムです。会社勤めの保護者からは、通勤途中で連絡できるのでとても便利だと好評です。学校側はリアルタイムで生徒の欠席連絡が把握でき、朝の電話が激減しました。

■教員同士が気軽に教え合える関係性をつくる

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この続きは、2022年3月刊行予定『校長の挑戦』に掲載します。お楽しみに!

執筆:教職研修編集部
制作協力:株式会社コンテクスト

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「校長の挑戦」は下記の『校長の覚悟』の続編です。
ぜひ、こちらも併せてお読みください。


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